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シラクサの賦  作者: Iz
第三楽章 夜のアリア
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第三楽章 夜のアリア その21

中央城砦への輸送を担う駐留騎士団が

百年来十日と空けず用いてきた北往路は

平原の街道と比しても平坦かつ直線的だ。


相応に幅があり遮蔽しゃへい物が殆どなく、

小隊規模なら戦闘にさして支障もない。


要は平原の街道と同様に、

地の利は常に攻める側にある。

夜ゆえ天の時も異形の味方だった。


お陰で一行を襲う異形らとしては

随分気が大きく前掛かりになっていた。


そこに出合い頭、かつ問答無用で本能的に

忌避する炎を津波の如くに浴びせ掛けられ、

纏めて消し炭にされてしまったのだ。


川中或いは茂みより様子をうかがっていた

他の異形らの驚愕たるや、推して知るべし。


あわよくば魚人から漁夫の利を得ようと

企んでいた羽牙や鑷頭じょうずらは、それこそ

潮が引くようにさっと遁走。


別途往路上にたむろしていた異形らも消え失せ、

それきり異形の襲撃はピタリと止んだ。





「効果覿面(てきめん)だな……

 この兵器を量産化すれば

 輸送だけでなく宴でも大活躍しそうだ」


自身の南側、左手を並走する

新造の貨車の右側面にある溝へ。


縦にした謎の試作兵器を当てがい、

空いた手で近くのクランクを回して。


ルメールは神妙な調子でそう告げ頷いた。


クルリとクランクを回す度にガコンと

音がして、試作兵器に装着された油樽が

溝から飛び出た新たなものと入れ替わる。


先の砲撃では3樽用い3射した。

要は装弾数6発という事だ。


敵の気配が途絶えた今は、

再装填を試す好機だった。


「量産しても扱えるヤツは

 流石にそうは居ないと思うぞ」


苦笑しつつ針路遠方、左手の茂みへと

一矢、適当に火矢を射込んでみるデレク。


さんざ火への恐怖を煽られた後だ。

近くに着弾すれば堪え切れまい、

との算段だ。


とうに気配が途絶えたとて、

伏兵への警戒を怠る気はなかった。


(火が武器として通用しているのは

 この規模だから、な可能性が高いかと)


とシラクサが賛意が示した。



一般兵の膂力や体格をおもんばかって小型軽量化を

図った場合、文字通りの意味で火力不足と

なり、脅しにしかならぬ可能性が高い。


また備蓄品として重要度の高い油を

多量に消費するのも難点といえば難点だ。


もっともこちらに関しては代替化を含め

研究の余地はあるとシラクサは観ていた。


中央城砦が僻地に孤立する以上、燃料の

高効率化は必須要件とさえ言える。古文書

に記載のある「燃える水や空気」を再発見

できれば文明水準の底上げにも役立とう。


とまれこの兵器自体は試作のまま

終わりそうだ、とはシラクサの談だ。


もっとも。二年後の宴において。


この試作兵器が別の天才発明家の手になる

大型機動兵器の主兵装に採用される事に

なろうとは、知る由もなかった。





――そしてその折に、



「まぁ何にせよ作ったもんには

 名前付けたげんと、なぁ?」


「御尤も。謎兵器なままは不憫ですな」



と煽られたシラクサが



(……『ペンテコステの火』)



待ってましたとばかりに一言。だが



「んー、何か」


(では『赤のグロッサラリア』で)


「もうちょっと」


(『プネウマドラコニオン』)


「短くならへん?」



とウカにダメ出しされ



(……『火竜』)


「すまんねー。

 それもうあるわー」


(……)



徐々に、着実に不機嫌に。



「あ、やばぃスネたかな」


「姫様、どうか平に」


「だごん、お食べになりますか?」



急遽機嫌を取り始める御付きたち。



(要りません…… では『竜笛ドラゴンフルート』で)


「おぉ! 良いですな竜笛」



短くすっきり纏まった、体を表すこの名が

採用され、以降の機動兵器と兵装の名には

竜の一文字が必ず入るようになる――





試作ながらも廃棄はされず、

帰砦後は微調整の上専用兵装として

譲渡して貰える事となった事に満足して


「ドラゴンフルーツ…… 旨そうだ」


とルメールは唸った。

素で言い間違えたらしい。

腹減り恐るべし、であった。


これに呆れ


「さっき食ったばっかだろ、ルンルン」


とデレク。


「その呼び方はよせ」


と眉間に皺寄せ不服を訴えるも



(夜食は長めの休憩の折で

 お願いします、ルンルン卿)



時すでに遅し、遅きに失した。



「姫様! その呼び方はお止め頂きたい」


(嫌です)



シラクサはきっとドヤ顔だ、

その場の誰もがそう確信した。



「おあいこですなぁ、ルンルン卿」


「クッ」



厳めしい面を笑ませるミツルギ、だが



「ちなみにこっちはミッチーな」



とさらなる暴露が入り



「そしてそいつはデレデレ君だ」



もいっちょ反撃まで付いた。



武を究め、屈強を極めた天下の勇者、

人の世の守護者にして絶対強者たる

城砦騎士3名の予想外過ぎる綽名あだな


「ミッチー&ルンルンにデレデレ君……

 あかん、何かツボってもぉた」


裏切り合い、暴露し合った3騎士の無骨な

押し出しや顰めっ面と、キュートな綽名との

ギャップに耐えきれず、笑い悶え苦しむウカ。


シラクサはすっかり沈黙している。

恐らく同様の仕儀ではあろう。



こうして敵地のど真ん中とは思えぬノリで

行軍は進み、疲れも何も感じさせぬまま、

やがて一行は小休止予定の基地に到着した。

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[良い点] オリジナリティが素晴らしい [気になる点] あまり無い [一言] 27564 みなごろしはウケタ! ミッチー、ルンルン、デレデレ君 少し心開いて来た? 以前左目やばいって言ってた者ですが…
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