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シラクサの賦  作者: Iz
第三楽章 夜のアリア
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第三楽章 夜のアリア その12

第四時間区分序盤、午後7時間近。

荒野東端、緩衝域にて今夜三度目の

戦闘が始まろうとしていた。


本陣たる戦闘車両より北約40歩地点。

そこにミツルギが左ルメールが右に立ち、

そこからさらに北約30歩地点をひたひたと

這い迫る大型眷属「鑷頭じょうず」3体を望んでいた。



(敵、眷属、鑷頭。数3、いずれも

 戦力指数8。累計戦力値192。

 

 魚人とは異なり、揚陸による

 移動力以外の数値減衰はありません)



とシラクサ。


鑷頭は移動中心の戦術行動を取らぬ事、

また膂力特化の突進系攻撃に終始する事

などから、陸上での能力減衰は誤差の範囲

に留まると観測されていた。



(現状魚人の陣容に動きはありません。

 鑷頭との緊密な連携は行わぬものと

 推察されます。


 当面の挙動は陣地から機を見ての

 投擲攻撃等に限定されるものかと。


 これは鑷頭の主戦術である突進と

 魚人の戦術との、相性上の問題です)



魚人の主戦術は2種類。拾った石や遺棄

された人の子の武器による遠距離攻撃と

近接しての白兵戦、単騎での肉弾戦だ。


このうち前述の2種では布陣や戦列を活かし

集団で主攻する。逆に肉弾格闘戦は必ず単騎。

理由は不明だが恐らく信教によるものだろう。


いずれにせよ、魚人も鑷頭も

攻撃に互いを巻き込む事になる。


魔軍を率いる魔にとって、眷属の損耗なぞ

端から頓着には値すまい。だが目的がある

以上、活用しようとはするだろう。


よって足の引っ張り合いは避けさせ、

まずは好機を見計らう。使い捨てるのは

その後だ。左様にシラクサは看破していた。



(とまれ御二方は、まずは鑷頭の、

 恐らくは第一波へと対応願います。


 御二方の実力であれば、1対3の局面

 さえ避ければ、問題なく対処可能です)



ミツルギの戦力指数は13.3。

全ての剣聖剣技を継承した高弟の証、

抜けば松籟しょうらいを放つ希代の妖刀「松風丸」

の機嫌次第では、15以上にも至り得る。


一方ルメールは素手でさえ15.5。

第一戦隊教導隊仕様の重武装を整えた

現状は18弱だ。現役城砦騎士の中でも

最強格の、実に圧倒的な戦力を誇っていた。


よってミツルギにせよルメールにせよ

単騎で鑷頭3体に拮抗するか、これを

凌駕する戦力を具えている。


ただし実際に単騎でやり合えば勝てても

無事では済まぬのも間違いのないところだ。


どちらもこんな局地の一戦で損耗して良い

人材ではない。シラクサとしては最大限

安全な策を採りたいところであった。





ひたひたともどかしく急ぐ風を装い、

その実じっくりと獲物を見定め値踏みし

襲撃すべき一瞬の機を窺う、3体の鑷頭。


水底を射す陽光に似た

今宵の荒野の青白い月光は、

鑷頭らの鎧う分厚い外皮に沈む

眼窩がんかを深くどす黒く、輝かせていた。


不意に、しかし緩慢に。


これまでの長蛇にも似た雑多な行軍から

陣形展開へと移行。先頭が僅かに緩めた

歩速に乗じ次が横並び横幅を取って、

三体目がその狭間から鼻先を見せ始めた。


両騎士よりの距離、約20歩。

鑷頭の巨躯と膂力を思えば

一足一刀に迫る間だ。



(陣形は鶴翼。

 実質騎士団の『後鋭陣』です)



と即座にシラクサが意図を看破。


後鋭陣は先鋭陣と並ぶ城砦騎士団の

採用する最も基本的な陣形の一つだ。


騎士団中兵団では最小戦闘単位を

3名1班と規定しており、3名の占める

立ち位置に様々な戦術を乗せ活かしている。


人数が増えた場合はこのブロックを継ぎ足して

規模と機能を底上げる。そういう戦闘思想が

末端の兵にまで浸透、徹底されていた。


前衛に2枚盾役を置きまずは防備を徹底し、

機を見て適宜後衛が切り込む。格上相手の

戦が主体な対異形戦では常に第一の選択肢だ。


格別秀でた盾役が居たり、防備より

速攻を求められる場合などは前衛を1枚、

後衛を2枚とした「先鋭陣」を採用する。


先鋭陣は攻撃担当2枚による連携次第で

爆発的な火力を生じ得る。主攻軍たる

第二戦隊では専らこちらが好まれた。



(狙いとしては前衛2体で御二方各々に

 当たり、後衛が独自行動を取るものかと。


 後衛の採り得る選択肢は2種。

 

 1:前衛のいずれかに加担しての主攻。

 

 2:単独での本陣強襲。


 いずれの場合もまずは前衛を追い抜き

 お二人の背後に回る動きを取るでしょう)



数に劣る両騎士に対し鑷頭らが躊躇なく

後衛陣を採った事は、鑷頭らが両騎士を

戦力として格上と見做した証左でもある。


そのため主にして神たる魔の意向を実現

するため、2の選択肢を採る可能性が高い

とシラクサは観ていた。


そしてその際、時宜を合わせて

魚人らもまた動くだろう、と。


いずれにしても束の間の事。

彼我に等しく刹那の判断と

挙動が求められていた。



南、左右に城砦騎士2名。

北、左右後に鑷頭3体。


その間およそ13歩。


そうして遂に、戦が動いた。

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