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シラクサの賦  作者: Iz
第三楽章 夜のアリア
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第三楽章 夜のアリア その7

「ふむ、成程ね……」


別の通信使が差し出した、通信内容を

そのまま記述した書状を確認して

「閣下」は一つ、頷いた。


敵襲が野良の異形による場当たり的な

ものではなく、魔の意向による戦略行動

であるとするなら、確かにこれは一大事だ。


だが閣下のおもんばかる「一大事」は

シラクサのそれとはまるで異なる、

もっと根本的で、深刻なものだった。


端的に言ってしまうなら。



魔は今は居ない(・・・・・)筈なのだ。





荒野に在りて世を統べる大いなる荒神。

元来高次の界隈に座す生きた概念、

「魔」の活動には周期があった。


城砦騎士団の百年余の戦歴が明かす

所によれば、個々の魔は数年から十数年

程度な独自の顕現周期を有しており、地上の

事物に干渉するのは自身の顕現の直前のみだ。


そして魔の顕現は黒の月、

宴の折に限定されている。


つまり魔が暗躍し眷属を従えて

軍を起こすのは、基本的に顕現が目前に

迫った黒の月とその直近に限られている。


そして黒の月、宴の折に顕現を果たして

地上をほしいまま蹂躙じゅうりんし再び概念へと昇華

した後は間髪入れず休眠期へと移行。


再顕現間近となる数年から十数年先まで

微睡まどろ揺蕩たゆたうのだと見做されていた。


然るに今は黒の月の翌月半ば。

次の宴からは最も遠い時分にある。


顕現すべきは顕現し

昇華すべきは昇華して

ことどとくが眠った直後なのだ。



なれば如何なる魔が怒れるものか。


神無月になお在る神とは何者か。


それが一大事なのだった。





人の子が荒野の只中に城砦を築き魔と

魔の眷属らと戦い始めてより百余年。


その間実際に顕現を果たし、個として

存在が確認された魔は23柱だ。


そのうち既にしいした魔は6柱。

残る17柱は全て複数回顕現しており

周期が把握できていた。


先の宴で顕現周期に入っていた魔は4柱。

これらは全て先月の黒の月に顕現済みだ。


数が多くかつ散発的に顕現されたため

騎士団の損耗は甚大となり、後半はほぼ

籠城策で凌ぎきった。


月の序盤に顕現した1柱には深手を

負わす事に成功したが追撃はせず。

また残る3柱はそもそも追撃の余裕なく。


よってこれら4柱は全て高次の界隈へ

恙無つつがなく昇華したものと見做されている。


ゆえにこれまでの戦歴に基づけば、

今この時期のこの界隈に活動期にある

魔は居ない筈。それでも居るのだとすれば。


それはこれまでに知られていない、

新たな魔の1柱だと、そういう事になる。


古来、魔の数は少ないとされている。

百年来、確認された魔は合計23柱だった。


だが今ここに、

24柱目が登場した可能性がある。


24柱目の登場は、25柱目以降の登場

をも担保し得る、震撼し憂慮すべき事態だ。


つまり単に目を付けられた、では済まぬ

一大事だという事。此度の襲撃を無事

切り抜けたとしても、今後の騎士団の

戦略に大きな影響を与える事だろう。


挑発で早々に馬脚を露わにしてくれた事を

喜んでおくべきか、或いは人魔の大戦の

約束された長期化に頭を抱えるべきか、

真に悩ましいところではあった。


早めに帰砦した方が良さそうだ、と

嘆息しつつ、辺境伯閣下は目下の

課題たる襲撃への対応を下知した。





人魔の大戦の趨勢を左右する24柱目の

魔の登場に比べれば、眼前の襲撃への

対応など容易いものだ。


初陣であり、なおかつ上官に護衛されて

いる状態なシラクサには、判断や指示が

聊か難しかろうとは察するが。


こういう場合はシンプルに。

脳筋になりきってしまうのがいい。


「シラクサ君に通信を」


かつては大国の財務大臣補として辣腕らつわん

奮い、後要請を受け入砦し、酷過ぎる財政

を再建して中興の祖ともなった騎士団随一

の知将にして穏健派な辺境伯閣下。


彼とて本質的には武人なのだ。

よって進んでやりたいとは思わぬが、

脳筋スタイルを忌避するつもりもなかった。


作戦令コード37564だ」


城砦騎士団第三戦隊長にして城砦騎士。

「城砦の母」クラニール・ブーク

連合辺境伯は、薄く笑ってそう下知した。





ややあって、緩衝域北西部、戦闘車両。


前方を往くミツルギの先、河岸から

ぬらり、ぬらりと影が這い出て

布陣し始めたのを確認しつつ、


(ルメール卿、つかぬ事を伺いますが)


とシラクサ。



「何なりと、姫様」


(……)



言いたい事は山ほどあるが

聞きたい事が最優先なシラクサは


(『作戦令37564』とは何ですか?)


と端的に。


作戦令は騎士団内の軍務上の暗号だ。

入砦前のシラクサには当然不明だった。


逆説すればこの下令は、既に数多の作戦を

経てきた城砦騎士らに宛てたものと言えた。


「ハハ、そうきましたか。

 あぁ、数字は東方読みで」


と快活にルメール。


意図する所を理解して

シラクサは思わずクラっときた。



(あの。ふざけておられます?)


「何の、大真面目ですとも」



たまらず笑い出すルメール。



「敵がいかなる相手であり、

 敵にいかなる思惑があろうとも。


 まるっとまとめて皆殺しにすれば

 万事OK問題なし。そういう事です」


(それはまた、何というか……)



余りにオールオアナッシング。

だが素晴らしく単純明快で大正解。

勿論それが実現できるなら、の話だが。



「戦闘員は脳筋で良いのです。


 鍛え上げた筋肉はあらゆる

 事物を可能にするのですから。


 あぁ、勿論姫様は軍師ですので

 大脳筋の鍛錬は控えめが宜しいかと」


(そんなの、ないです……)


「うちにもないなぁ」



ルメールの力説に女子2名はドン引きだ。


だがまぁ絶対強者が3名も揃えば

大抵の無茶振りは可能となるのだろう。

そう思い直し、シラクサは支援を再開した。

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