表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シラクサの賦  作者: Iz
第三楽章 夜のアリア
62/86

第三楽章 夜のアリア その3

城砦軍師シラクサと人魔の大戦における

新たな決戦兵器そのものな戦闘車両を護衛し

進む一行は、車両を曳く輓馬らに負担の少ない

速歩で以て緩衝域を抜けていく。


その陣容を俯瞰したなら以下の通り。


まずは前衛。戦闘車両よりやや離れて

伝承の戦乙女の名を冠する名馬の中の名馬

フレックが城砦騎士デレクと共に先行する。


進路上に敵影を確認した場合は

一気に加速接近し単騎で殲滅、人馬共に

それが可能な確固たる実力を具えてもいた。


次いで戦闘車両のすぐ手前には

ペースメーカーを兼ね城砦騎士ミツルギが。


騎士団領内ではこの役目をルメールが務めて

いたものだが、デレクが単騎で突出した際

これと連携を図るにはより軽装で機動力の

高いミツルギの方が適しているとの判断だ。


そして戦闘車両の側面、いずれ北方河川に

面する事となる北側面には超重装歩兵たる

城砦騎士ルメールが詰める。


河川の眷属は黒の月、闇夜の宴の展開に

因らず常に一定の戦力を有している。故に

大規模な襲撃があるならばそれは河川からの

揚陸強襲と推測され、その敵勢の正面となる

北側をルメールで護る、そういう意図であった。


よって


進行方向を正面として1ー1-2の「長蛇」。

北方河川を正面として1-3の「前鋭陣」

を採用し、速度を殺さず守備力を保つ、

そんな工夫が凝らされれていた。


なお非凡な才を有すも戦えぬウカは

戦闘車両を曳く並んだ二頭の大柄な輓馬の

背より、高さを活かし照明と哨戒を担当する。


概ねこういう次第であった。


陣なるものは内と外、異なる

二つの様相を以て上とする。


布陣を整えて粛々と往く一行では

あったが、心境としては穏やかに。


既にこの緩衝域もまた百年来敵影なき

状況が続いていたため、遠からず入る

北往路での緊迫の連続に具える意味も込め、

かなりリラックスして進んでいたのだった。





一行は、未だ針路を真西に保っていた。

そうしてさらに10分程過ぎ、やがて。


後方、騎士団領の北西の外れである

地下遺構が在った小丘の連なる一帯とも、


前方、荒野東域の中央にその巨躯を

横たえる致死の毒沼、大湿原とも。


さらには北方河川とも、ほぼほぼ

等距離と思しき緩衝域の半ばへ至った。



と、それまで月に起こり得る些細な変化も

見逃すまいと気合を入れて天を仰ぎ見て

いたシラクサは


(ホタル停めて)


と不意に戦闘車両を停止させた。


「如何されました」


並び歩んでいたルメールが問うと


(調査したい事があります。数分ください)


とシラクサは応え、護衛らが怪訝に見守る中

戦闘車両を前後左右に小刻みに移動させて

何かを探る風であった。


ふむ、何ぞ落ちてでもいたのかな、と

戦闘車両の行き来する周囲を眇め見渡す

騎士らだが、目立った物は何一つなかった。


そも彼らが与り知らぬだけで、

シラクサの意識は天へ向いている。

当然と言えば当然ではあった。





数分後。騎士らが顔を見合わせ見守る中、

また四方八方小刻みに動く輓馬の背に

揺られ、ウカが何事かと首を傾げる中。



(ルメール卿、恐縮ですがそちらに……

 えぇそこです。手槍を立てて頂けますか)


「ふむ? 了解」


(ミツルギ卿、その手槍にロープを。

 はい、それで5歩離れ、えぇ、円を。)


「御意に」



と何やら指示が飛び出した。





意味は判らぬも唯々諾々と従う両騎士。

デレクは離れ万が一にも奇襲が来ぬよう

警戒しつつふと空を見上げ、あぁ成程、と。


(ウカ、ちょっと円周上を歩きつつ

 空を見上げ、月の色を確認して頂戴)


とさらに指示が飛ぶに至って、両騎士も

遂にシラクサの意図を理解するに至った。



「円の右側と左側では、

 お月さんの色がちゃぅんやねぇ」



とウカ。


(えぇ。それで私としては

 その変わり目が知りたいの。

 円周上の変色地点に印を付けて貰える?)


「はぃな。ここと…… ここやね」



ウカは円の北側と南側に一か所ずつ印を。

シラクサはさらにその点を結ぶよう要求。


そうして出来上がったのは

10時から5時へと走る線分だった。



(ありがとう皆さん ……少し北上します。

 そしてもう一度同じ作業をお願いします)



作業の意義は不透明だが内容は頗る明確な

ため、要求は可及的速やかに実行され、

今度は1時と8時を結ぶ線分が。


さらに北へ。再度結ぶと

今度は10時から3時な線分に。


(……次で最後にします。

 ウカ、もう一度最初の円で試してみて)


言われるままに従うウカ。

そうしてできたのは

8時と2時を結ぶ線分だ。



(……そうですか、有難う……)



作業を終え、槍やロープを回収しつつ

気づかわし気な眼差しが向けられる中、

戦闘車両は沈黙を保った。


実のところ、指示を出しつつシラクサは

戦闘車両内で全く別の観測を続けており、

そちらの結果とも照合し、ある結論を

導こうとしていた。


さらに数分。騎士やウカが思い思いの

想いに耽る中、再び戦闘車両から。



(調査完了です。お待たせ致しました。

 端的に、結論のみ申し上げます。


 荒野と平原を分かつ『真の境界』、

 それは大地にではなく空に在ります。


 またそれは恐らく上空の気圧と

 密接な関わりを有している模様です)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >>上空の気圧と密接な関わり シンチレーションと似たような感じなのかな?より屈折の度合いが強くなる感じっぽいですが。 本文には関係ないですが昨晩は星のチカチカ具合が凄かったので何でやと調べて…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ