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シラクサの賦  作者: Iz
第二楽章 彼方へと
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第二楽章 彼方へと その36

泡吹いて倒れた際はどうなる事かと思ったが

何とか落ち着き打ち解けてくれたようで何より。


内心左様にほっとしたミツルギは



「ウカ殿は東方の方ですか?」



と問うた。


主に装束による印象だが、名前で東方伝来の

とある縁起を想起したせいもあった。



平原西域や中原とは全く異なる文化形態を

有する平原東端、臨海の諸国。いわゆる

東方諸国の多くでは八百万の神を祀るという。


あらゆるものには神が宿る。

平たく言えばそういう事で、中には

武芸そのものを神格化した存在もある。


城砦騎士ミツルギとその実の妹である

当代「光の巫女」城砦軍師ミカガミは

その武芸の神を奉る大社の被官の子だ。


武芸の神への祭祀とは、

武芸の研鑽と照覧に他ならぬ。


つまりこの神のための大社とは

その実超特大規模の武道館であり

然るに被官の子とは師範の子であった。


よって兄妹は物心付く以前より両親から

ミツルギは剣術を、ミカガミは弓術を。

また同時に書画や礼節有職故実等、大社の

被官を名乗るに相応しい教養をも仕込まれた。


ミツルギが大成したのは剣術のみだが

それでも書画や茶の湯等への造詣は深く、

また東方の神話伝承縁起についても

相応の素養を有していた。


そんなミツルギだ。

ちょこなんと畏み鎮座まします

謎めく妖狐っ娘風童女の有様と名に

とある神格を想起せしめられたのは

至極自然な事だと言えた。





「ちゃいますえ?

 うちは西のもんや。


 ご先祖さんの事までは

 流石によぉ知りまへんけどなぁ」


ミツルギの憶測は大いに外れたようだ。


(連合軍の方ですか?)


とシラクサも問うた。すると


「それもちゃぃますなぁ。うちは

『むぅらん☆るぅじゅ』のもんです」


と応え、ニコりした。



(「むぅらん☆るぅじゅ」……?)



古代語で「赤い風車」という意味だ、

それは判る。が組織名としては与り知らぬ。

シラクサはやや小首を傾げ、ミツルギを見た。



「ふむ、以前御師匠様から伺った話に

 出てきた事が御座いますな…… 確か」



丸太を捻ったように腕組みし

眉間に皺寄せ記憶を辿るミツルギ。


と、



「ほー、踊り子なのかー」



とやや間延びした、

鷹揚な声が通路から。


「おぉ、御着きで」


そちらを見やり相好を崩すミツルギ。

ほっと安堵したように見えるのは

道中を案じていたが故ではなかろう。


左右の松明が明かす通路から現れたのは

軽騎用の馬装バーディングを施した屈強な青毛の軍馬。

そしてどこか飄々とした風情の軽装の男だ。


いっそ洒脱で涼やかな立ち居振る舞いだが

左手に引っ提げた黒光る斧槍からは、際立って

禍々しく真新しい「死の気配」が漂う様だった。



「お見合い中に悪いねー」


「!?」


「いぇいぇお構いなく」


「!?!?」



全力で助け舟に縋りたげなミツルギには

早速ニタニタと突き飛ばすご挨拶を。さらに

男は並び歩む軍馬の手綱持つ右手をひょい、と。


それが女子衆への挨拶らしい。


さて挨拶も済んだ事だし、とそのまま男は

愛馬を輓馬らの下へ連れていき、纏めて

水や飼葉など与え始めた。



「まったくどこまでもマイペースだな」



ざっくばらんな男の挙措と苦慮に満ちた

ミツルギの表情を交互に眺め苦笑しつつ



「先刻は名乗りもせずに失礼した。


 私は城砦騎士団騎士会所属、

 第一戦隊教導隊長ルメール。


 彼は第四戦隊の騎士デレクです」


「それはご丁寧にどうも。

 うちはウカ言います」



とルメールはひとまずの挨拶を交わし、

こちらも鼎談ていだんに加わる事なく何やら

てきぱきと支度を開始する風だ。


ふと気になったシラクサが懐から取り出し

興味津々なウカが覗き込んだその先では、

玻璃の珠時計が午前6時過ぎを指していた。


これは第二時間区分の初旬であり1日4食な

第一戦隊員には本日2度目の飯時を意味する。


他の者的にも朝食の時間帯ではある事から

雑談は一旦切り上げて、野点会場から

炉端料亭への建て替えを適宜支援する事とした。

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