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シラクサの賦  作者: Iz
第二楽章 彼方へと
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第二楽章 彼方へと その32

広間入口に灯りを灯し、それにより状況に

変化が起こらぬ事を確認した上でミツルギは

茫洋と明るみ存在感を示す、中央部へ向かった。



するすると音もなく寄るも

数歩を残しさらに変化を確認する。


潜伏者が相応に修羅場慣れしていれば、

この辺りで気配に勘付き起きるのではないか。


むしろ起きてくれた方が面倒がないので是非、

などと祈りつつ暫し待つも現実は非情であり、

近づくにつれ高まる寝息は歯ぎしりも交え

最早リサイタル状態だ。


恩師の地獄の再現な公演を彷彿させるものか

全力で顔をしかめ思わず知らず呻くミツルギ。


本音は今すぐ引き返したい。


だが恩師の放つ魔界の調べをいの一番、

常に最前列で拝聴する栄誉を賜りながらも

なお機能を損なわぬ筋金入りの聴力が、

遥か後方から鳴る幽かな乾いた音を捉えた。


これは先刻聴き知った昇降機のレバー音だ。

ルメールが単騎、或いは戦闘車両と共に

下ってきたのだろう。


昇降機のサイズ的に、戦闘車両と

二頭の輓馬を繋いだままで下す事は難しい。


よってもう一往復はしそうだが、少なくとも

ここでまごついている暇はなさそうだ。そう

判じたミツルギはいやいや、否、いよいよ

観念し、その歩を進めた。





オブジェの周囲に円を描いて立ち並ぶ

石板様の物体はどれも半透明で透度は低い。

色味は白っぽく摩りガラスに似た印象だ。


個々のサイズは民家内部の扉ほど。

東方諸国出身のミツルギ的には

やや大振りな畳大と観えた。


石板は一定の間隔を空けて立ち並び、

オブジェを中心とした二つの同心円を形成。


また内外の並びでは空隙が互い違いに

なっており、巧みに内側を目隠ししていた。


とまれ石板の半透明とこうした並びが

ランタンと思しき光源と相まって

この一帯を浮かび上がらせていたようだ。


外周に近寄ったミツルギは壁を成す石板に

松明を近づける。半透明な表面には文字

らしきものがびっしりと刻まれていた。



ミツルギが習得している文字は3種。

出身国の東方文字、西方諸国連合及び

城砦騎士団の公用語な共通文字、そして

平原中央三大国家の用いる三大文字だ。


3種といっても共通文字と三大文字は

ほぼほぼ同じものであり、語彙も文法も

古典を除けばその大半が共通している。


東方文字のみ明らかに毛色が異なるが

騎士団内では共通語に次ぐ理解度があった。


理由は遥々東方から荒野までやって来る

物好きな志願兵といえば、武芸の達人か

名うての戦人いくさにんしか居らぬためだ。


今なお戦乱が続き独自の高度な精神文化を

持つ東方人は戦闘民族と揶揄やゆされる事も多い。


とまれ彼らは生来対異形戦闘への適正が高く

荒野でも長期に渡り活躍する。結果として

騎士団内では東方言語の使用率が高めだった。



さて、実質2種の文字を使いこなすミツルギ

だが、今目にする文字はどちらにも該当せず。

強いて言えばたまに文書で目にする事のある

西方や中原の古代文字に近いか。


丸みを帯びた縦長の記号めいたもの。

腰を痛めたミミズのような横長のもの。


この辺は完全に初見であり、どうも複数種の

文字が数字と共に入り乱れているらしい。


元より門外漢なミツルギとしては

これ以上気に留める理由もない。


よって雑観のみで放置していざ

内外の並びをすり抜けさらに内側へ。


間近で見上げるオブジェは大きく、

台座も大振りな円卓程度はあった。



そして台座の傍らには。

金属の光沢豊かなランタンが一つ。


さらにランタン同様、当遺構が

元来有する構造物とは明らかに異質な、

すこぶる真新しい、大きめの木箱が一つ。


先刻よりの息吹、否。

イビキの発生源はこれであった。





サイズは大柄なミツルギが屈んだ程もある。

補強の金属を除けば装飾要素は控え目で

上部には紋章が二つ描かれている。


一つは無数の星を浴び羽ばたく伝説の鳥、

鳳凰の図。これは西方諸国連合軍の紋章だ。


今一つは金床に乗る三方を向いた獅子。

すなわちフェルモリア大王国の国章だ。


察するに今期駐留騎士団に関係するものか。

そうしたミツルギの推測を裏付けるかのように

木箱の表面随所にはベタベタと雑多な張り紙が。


曰く




☆移送大隊備品、禁帯出!☆



☆開けるな危険、爆発する!☆



☆おいらはミック、ミミックだ!☆



☆開けるなよ! 絶対開けるなよ!☆



☆開けたらハゲるぞ、がめおべらぞ!☆



☆乙女の眠りを妨げる者には、

 死の翼とかがバッサバサやねんぞ!!☆




等々。



他にも有ったが見るに堪えず。

ご機嫌で高いびきな木箱を前に

ミツルギは眩暈めまいを覚え、額を抑えた。

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