第二楽章 彼方へと その28
第一時間区分終盤、
午前5時30分。
北方にブークブルグの防壁や北城砦の偉容を
捉えつつ行軍を重ねた一行は、騎士団領内
西端部へ。最後の滞在候補地となる
遺構へと、最接近した。
平原西域は遥か北方に霊峰山脈を戴く影響から
北部ほど北上がりの傾斜や起伏を有している。
一行の迫ったこの辺りも廃墟の瓦礫より
小丘が目立ち、目指す遺構はそうした
傾斜に身を隠すようにして、在った。
入口を示す一帯には前回同様、
天頂が錘状の四角柱が並び立っている。
柱に小さな一枚紙が貼られているのも同様で
例によってチェック用の升目が串ものであった。
到着は予定より30分程早く、丘から
西方を眺めても移送大隊の行軍は見えない。
移送大隊が仮に北往路を採らぬとなった場合は
一行の旅程にも影響を及ぼすため、出来れば
行軍は目視しておきたいところだ。
とまれ未だ時間があるため、まずは
シラクサを安全域へ。両騎士はそう判じ
四角柱の記す遺構の案内や構造図に目を向けた。
この遺構が城砦騎士団に調査されたのは
城砦歴72年。先の遺構に比べ随分後だ。
発見自体はかなり早期だったらしい。
連合軍が平原西域より魔軍を掃討した直後。
絶対防衛ラインの策定と西域守護城砦の
建造計画が遂行される最中の事と記載にある。
ただ遺構への進入路が竪穴式である事や
専用の機械式昇降機が破壊されていた事。
さらにその昇降機の構造が未知かつ再現困難
であった事から長らく放置されていた、とも。
そして城砦歴72年。
騎士団と参謀部が開発した決戦兵器の一つ、
「内郭の『蓋』及び本城の変形機構」が完成
した際、そのノウハウを用いてこちらをも修復。
そうした経緯を有するのだとか。
遺構手前の柱の案内や戦闘車両から響く
シラクサの念話により、凡その来歴は
明らかとなった、この遺構。
だが肝心の、遺構の用途については
調査を経てなお憶測の域を出ないという。
使途不明なほど損壊が激しかった訳ではない。
むしろ逆で、昇降機以外はほぼ無傷だった。
ただし降りた先には円形の広場が一つきり。
そして広場の中央には石板を組み上げた
硬質な構造物と解読不能な紋様の刻まれた
奇妙オブジェが鎮座するのみだ。
察するに、
儀式や礼拝のための
特別な空間だったのだろう。
平時の生活空間ではなく、
それゆえ生餌な人も居らず。
然るに魔軍には何ら腹の足しに
ならぬ「外れ」扱いであったろう。
よってとりあえず腹いせに入口だけは
破壊しといた、的な顛末だったのだろう。
斯様なシラクサの見立てには
両騎士は大いに納得していた。
魔軍を構成する異形らの目的は
徹頭徹尾、人の子の捕食だ。
異形は人を物理的に貪り、
生きながら踊り喰われる人の子の
恐怖や絶望、憤怒や怨嗟といった負の感情は
彼らが妄信盲従する神、「魔」への供物となる。
異形らにとり人を襲い喰らう事は
同時に崇高な宗教活動でもあるわけだ。
破壊衝動はもののついで。二の次であり
空の餌箱には興味がない。精々八つ当たりに
蹴とばすのが関の山だった。
そういう理由でこの遺構は
昇降機以外、ほぼ無事だった。
そしてその昇降機が修復された後は、
暗黒時代の狗盗鼠賊の恰好の塒と相成り。
さらに、それらを討って一儲けする
武辺者らの「穴場」ともなったわけだ。
石柱の側面に雑多に刻まれた
101703、俺ちゃん
だの
103114、俺ちゃん
だの
105308、俺ちゃん
だのはきっと、
ウッハウハで首と金を回収にきた
どこかの武人の仕業、なのだろう。
とまれ今回は連合軍の手の者が改めて
「掃除」を済ませ、快適な滞在を約束して
くれているようだ。ならば時間も押してくる
事だし、さっさと地下へ降りようか。
と、まずは、ミツルギが。
ついでルメールが気付き、目を合わせ。
両者の挙措を訝しんだシラクサが車内の
映像を拡大し遺構の入り口を確かめたところ。
昇降機は、下りていた。




