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シラクサの賦  作者: Iz
第二楽章 彼方へと
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第二楽章 彼方へと その26

「成程、文明圏によって異なる、と……」


ルメールは感心し頷いていた。

ホプロン飯を2枚平らげご満悦だ。



(闇の王国の支配層『人ならざる者』とは、

 概して民間伝承における精霊や妖精に

 近しい存在ではあったようです)



と茶を喫しつつシラクサ。

1区画どころか数口で断念。

ただ湯豆腐は大層気に入ったらしい。



(光の王国勃興後四方へ流れた彼らですが、

 特に南北で文明圏を構築した者たちは

『人』と身的能力面での差異が顕著でした。

 

 北方の雪原に逃れた『炎の民』は

 膂力や体格に長けたいわゆる巨人族。


 逆に南の山岳へ逃れた『地の民』は

 人より小柄で器用や敏捷に長けていたと)



南より、時計回りに地水火風。

光の王国を追われた旧文明の担い手たちは

各々の地で新たな文明圏を構築していった。


このうち南北の文明圏は光の王国に滅され

担い手たちは徐々に歴史の表舞台から姿を

消していったという。


もっともカエリア王国東部のユミル雪原が

そうであるように、今なお旧時代の民の

特色を色濃く残す地域はあった。





(平原西域で文明圏を築いた『水の民』は

 知力や魔力等、心的能力に秀でました。

 

 また彼らは他の文明圏に比して最も強く

 人との共存共栄を目指していたようです。

 その帰結として、極めて合理的な施策を。


 すなわち力あれども数の少ない彼らが

 率先して力なくとも数だけは多い『人』

 へと『合わせる』という判断です。


 つまり本来の姿がどうであれ、

 平素はその高い知力や魔力を駆使して。

 つまり日常的に魔術を用いて『人』と

 同じ姿をかたどり、同じ施設を用いそして

 同じ釜の飯を食う、といったやり方です。


 闇の文明の継承者としての面目躍如たる

 この『規格統一』は成功し、水の文明圏は

『人』の繁栄と共に空前の発展を遂げ、

 暗黒時代目前まで続く最大勢力に成りました。


 東方へ流れた『風の民』も基本的には

 同様の方針を採り、もともと平原東端、

 沿海部に住んでいた東方諸国の人々と

 合流、文物を習合していったようです。


 いずれにせよ水の民や風の民の本来の

 姿については未だ不明な点が多いですね)





光の王国に滅された事で結果的に全容が

詳らかとなった南北の文明圏とは異なって

東西の文明圏の担い手たち。特に「血の宴」

により唐突かつ迅速に滅された水の民の

本来の容姿やその全容に関する情報は、

今でも極端に少ないのだとも言う。


これはそれだけ彼らの魔術が高度であり

また掲げた理想が強固だった。すなわち

最も直截に闇の王国を継承していた証

であると見做されている。


それゆえ東西領域に逃れた者らのうちには

闇の王国の王家に近しい存在が含まれて

いたのではないか、とも。



風の民は実体が希薄で或いは翼を有し

水の民には常形がなく或いは人魚に似る。


また例えば彼ら自身にも関係の深い

騎士団領アウクシリウムの前身は

水の文明圏の中心国家メディナ王国の

聖都メディナであった。


そして同国の初代王女メディナの

本来の姿は巨大な黒竜だった、等々。


虚実定かならぬままながら最早多くの

識者に受け入れられている諸説紛々は

水や風の文明圏の主らが飽くまでも

「人に合わせ人に寄り添う」

事を選んだ証左だと思えてならない、と

然様にシラクサは講義を締めくくった。



「そういう事だったか……

 諸々納得がいきました。

 感謝します、軍師殿」



単なる一時の感慨とはいえ、お陰で

胸中に去来したわだかまりは霧消した。


これは最早まかり間違っても

小娘扱いなどできんな、と

内心一驚を禁じ得ぬルメール。


ミツルギ共々敬礼にて謝意を示し

役に立てた事にほっとする風情の

シラクサが車両に乗り込むのを見送った。


その後両騎士は組み上げ同様、或いは

それ以上の速さで以て後片付けを済ませ


第一時間区分序盤、1時頃、

こうして一行は行軍へと戻った。

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