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シラクサの賦  作者: Iz
第二楽章 彼方へと
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第二楽章 彼方へと その22

書面は幾らかの絵と図、

そして短文で構成されていた。


まず眼を引くのが最上部。

ちょうど米粒でぺたりとしてあった

箇所の表な位置に描かれた、朱色の絵だ。


でっぷりと肥えた実に福々しい鳥が

足元にゴロゴロ転がる多数の卵を前に

諸手を、いや諸手羽をあげてドヤっていた。


多産、豊穣の象徴か何かだろうか。

よく判らぬがまぁ、紋章だろう。


やたらと目出度い見た目についつい

心惹かれるが、今は急ぎ他も確認せねば

なるまいとミツルギ。更に下方へ視線をば。


そこには先の絵とは完全に異なる筆致の

一目で業務絡みと判る横書きの短文が5つ。

前後に四角のマスを伴って箇条書きされていた。


曰く、




□  座標は確認しましたか?  □


□  賊は潜伏していましたか? □


□  賊は殲滅しましたか?   □


□  死体は処分しましたか?  □


□  全てチェックしましたか? □




斯くの如し。





内容、筆致、共に

大層ドライなドキュメントだ。


察するに前後のマスはチェック用だろう。

ご丁寧にもダブルチェック仕様だ。そして

文末の側のマスには既にチェックが入っている。


ただ、チェックの仕方は大層アレだった。

縦に並んでいる全てのマスを毛筆にて

纏めてびーっと。まるで串ものだ。



これ提出時、事務方に

絶対嫌味言われるヤツだ……


ミツルギの眉間には断層の如き皺が。



彼の名誉のために付記するならば。

彼自身は極めて筆まめかつ真面目なので

彼自身がこうした挙措に及ぶ事は断じてない。


彼は書類を預かり代理で出して

とばっちりを喰らう側、なのだ。

問題は専ら同僚や師匠筋にあった。



嘆息しつつ懐をゴソゴソして

小筆を取り出しペロリするミツルギ。


空いたままな文頭のマスに一つずつ

斜線なチェックをちょちょんと入れていく。



躊躇ちゅうちょなく、極めて自然に

やってはいるが、やらかしだ。


せめて座標や賊の有無程度は自分でも

確認すべき。嘆息している場合ではなかった。





箇条書きの短文の箇所を曲がりなりにも

処理したミツルギはその下方へと目を向けた。


するとちょうど短文末のマスの串ものの

真下な位置にやはり黒の毛筆にて署名がある。

ただし例によって、署名の内容は変わっている。


やたらと大きくふくよかに

マルが描いてあるだけだった。


そのマルは実に際立って福々しかった。

恐らくは書面最上部の朱の鳥の絵と

同一の筆致かと思われた。


ふむ、と呟くミツルギは

何やら対抗心を燃やしたものか、

自身のチェックしたマスの真下へと。


ちょうど右方の真ん丸と対になるように

自身も真ん丸を書き、更に中に「ミ」を。


さらに最下部の余白へと、

朱鳥の絵と遂になるような塩梅で

正方形に内接円、内接円に正方形、な

城砦騎士団の紋章を描き足し仕上げとした。





星月の明かりに成果を掲げ、

眺めてむふんとご満悦のミツルギ。


と、背後から。


「それが『証』か?」


到着したばかりのルメールが

顔を覗かせ書類をも覗き、しばし沈黙。


「如何されましたか?」


と肩越しの視線を共に問い返すミツルギ。


ややあって



「いや。美味そうな鳥だな……」



とルメールは頷き、

そのままズンズン入口へ。

暗がりの遺構へと降りていった。


ふむ、と何やら一人で合点して

火元の準備を始めるミツルギ。


その傍らを粛々と輓馬が。

戦闘車両が南下していく。


車両の中ではシラクサが

映像の書面に額を抑えていた。

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