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シラクサの賦  作者: Iz
第一楽章 辺境の宝石箱
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第一楽章 辺境の宝石箱 その4

荒野に固有の天変地異、一切常闇、黒の月。

その最中の何時かに起きる、荒野に在りて

世を統べる大いなる魔の顕現、宴。


何故起こるのか、何が起こすのかについて

神ならず魔ならぬ人の身で判る事は僅かだ。


だが城砦歴106年分の観測に基づいて――

実際は「血の宴」後の平原西域奪還作戦や

「退魔の楔」作戦を導く絶対防衛ライン

構築のための十数年も含む――


黒の月が何時起こるのか、それだけは

かなりの精度で言い当てる事ができていた。


現行文明における観測史上、全ての

黒の月の到来間隔は7、11、13。


これら3種の素数朔望月後であって、

その配列にも法則性が見出せていた。


また宴の規模についてもこの到来間隔が

影響を与えているらしく。7、7と続く

時期の宴は長引き易く、一方13が続く

時期の宴は苛烈ながらも短めであった。


然様な仕儀となる理由としては憶測の域を

出ぬものの。短期間で黒の月が来る場合、

魔の顕現をもたらすに足るだけの異形らの

「補充」が間に合わぬためではないか

と見られてはいた。


とまれ平原の人の子が荒野について知り得る

事は余りにも少ない。常に防衛戦に追われる

城砦騎士団としては、単に次の黒の月が早い

という、表象のみに着目していた。





「連合軍全体が補充に躍起となる状況を

 思えば、我々も悠長な事は言えません。


 また平素から、さらにこの状況から

 言って、連合軍の送る補充兵とは

 まったくの数合わせに過ぎません。


 そして死者700を得た騎士団では

 それら数頼みの補充兵を率い得る即戦力、

 小隊長級の員数が圧倒的に不足しています」


副院長カッシーニはそう告げて

教官らを。院長ジュレスを見やった。


両親より受け継いだ魔力のお陰で異形と遭遇

した際の恐怖判定に強く、幼少より平原の武具

より遥かに重くゴツい城砦騎士団制式装備群で

対異形戦闘訓練を重ねる城砦の子ら。


彼らは補充兵とは異なって入砦後訓練課程を

経ず新兵となり、ほぼ確実に城砦兵士に至る。

騎士団にとり最も信頼できる戦力補充だった。



「……年始予定だった年長組の入砦を

 可及的速やかに成さねばなるまい」



院長ジュレスは嘆息した。



西方諸国連合は兵士提供義務に供される

補充兵の年齢の下限を、諸国における

一般的な成人年齢である15と定めていた。


だが両親が共に城砦騎士団員であり、

生まれながらにして荒野で戦いそして

死ぬと定められている、城砦の子ら。


彼らは三大国家で最も早く成人を迎える

共和制トリクティアに倣い14歳で入砦する。


連合諸国に補充兵を募る格好の騎士団

としてはまず自身らの子を率先して

差し出す、そういう事となっていたのだ。


もっとも。


騎士団も連合軍も連合諸国も共に人の子、

子の親であり、幼き命に対する情は有る。


よって14歳の誕生日を迎えた直後ではなく、

その後の新年を迎えた後に揃って荒野へと

送り出す。そういう仕儀と成っていた。


だが戦況がそれを許さぬとあらば致し方なし。

ジュレスに対し否やを唱える者はいなかった。





「次の補充兵移送は10日後です。

 当院としてはこれに合わせましょう。

 今期の年長組12名にその旨通達を」


院長の裁可に基づき副院長がそう告げて

幹部中4名はこれに頷いた、が



「残念ながら、13名です」


「……」



言葉通り残念そうにバーバラが嘆息し

幹部の大半はその意を察して沈黙した。



「……あの子は既に当院の助手だ。

 立派に役目を果たしている。

 殊更入砦する必要はないでしょう」



とカッシーニ。


「あの子のたっての希望なのです」


と寂しげに首を振るバーバラの言を受け、

元祈祷士で今は院内の医療全般を束ねる

幹部へと問うような眼差しを向けた。



「……見立てに変化はありません。

 もって数年というところです」



問われた幹部は硬い声でそう応じた。





異境で異形と戦い勝ち抜き高い魔力を得た

城砦騎士団員の育んだ命たる城砦の子は、

生まれながらに両親の得た魔力を有す。


魔力とは人智の外なる存在への親和性を指し

0から20の範囲で定義される。平原の人なら

通常は0。数値が低いうちは専ら精神的な変容

に留まり、10を超え魔の側に寄ると明確かつ

端的な変容をももたらすとされた。


城砦兵士の大半の魔力は1から3だ。

大抵はそれ以上に至る前に戦死する。


対異形戦闘に順応した歴戦の猛者たる

兵士長級で概ね5前後。絶対強者たる

城砦騎士や、城砦軍師や祈祷士らでも

大抵は10未満に留まっていた。


ただし城砦の子らは赤子でありながら魔力を

有している。赤子の能力とはすべからく低いもの。

そんな中魔力だけが突出して高い。この事が

心身に顕著な変容をもたらす例は多い。


城砦の子らのうち少なからぬ数が

そうした(・・・・)状態であり、中には戦闘に、

いやそも日常生活にすら耐え得ぬ者も。


高すぎる魔力は人としての在り様を蝕んで

子らを様々な形で魔そのものへと近づける。


中には現世には束の間しか顕現できぬ魔を

なぞるようにして、僅かの余生しか持たぬ、

そういう子らも少なくはないのだ。そして



「『せめて余生は平原で』。

 それが遺された願いであり、

 我々もまたそう願っています」



と院長ジュレス。


そうした子らに対しては、両親も騎士団も

兵たるを求めず、せめて残り少ないひと時を

平原で過ごせるよう、平原で人生が完結できる

よう最大限取り計らうのが常だった。だが。



「あの子は……

 両親の事が知りたいと。

 自身がこの世に生まれてきた、

 その意味を知りたいと言っています。


 それを探しに両親が戦った荒野へと。

 両親が守った中央城砦へと赴くのだと。

 止める事など…… できはしません」

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