第二楽章 彼方へと その21
足を前へと蹴り出すのではなく
後へと地を滑るように送り、自重で
崩れるように前傾して一気に加速する。
敵から見やる殺到の様は
さながら大地を縮めたが如し。
故に「縮地」。
然様に呼ばれる古流の走法で
城砦騎士ミツルギは一気に一行を
追い抜き彼方へと躍り出た。
その挙措は長年の修行で骨身に沁みて
無意識裡、自然に起きた働きだ。
平たく言えば「身体が勝手に動いた」のだ。
口より先に足が出たわけで、
もっと言えば考えなしだ。
お陰でミツルギは今更になって
シラクサの言う「最接近」に注意が向いた。
そう、シラクサは「到着」と表現しなかった。
廃墟の本体たる遺構は地下に在る事を踏まえ
厳密に表現したからなのか、そもそも
針路上には存在しないのか。
仮に針路上に無いのだとしたら、
「最接近」なポイントとやらをうっかり
通り過ぎてしまった可能性、無きにしも非ず。
これは迂闊だったか、と
強面な面持ちをさらに顰めて
最早最強面っぽくなったミツルギ。
地面の方がつんのめりそうな勢いで急停止。
次いで腕組みし首を傾げうんうんと唸った。
と、首を傾げて見やった先。
ほんのり南方に、石柱が二本。
おぉあれか、と手をぽんと打ち
再び縮地。電光石火でそのたもとへ。
見定め目的地だと判じて満足気に頷いた。
多分に結果オーライで場当たり的な
犯行に似るがその実、第二戦隊員は
大同小異、斯様であった。
取り合えず切り込むので後よろしく。
闇に蠢く異形の群れへと
嬉々として闇討ちを掛けるには
こうした図太さ逞しさは必須と言えた。
近侍すると各々の石柱は四角柱で
幅は人並み、丈は人の倍ほどだ。
天頂は錐状。四角錘は中央城砦本城を
暗喩する符号であるため、建てたのは
連合軍ではなく城砦騎士団だろう。
路地ほどの間隔で並び立つ二柱の北の面、
概ね大人の眼の高さには共通語と数字、
或いは図形の描かれた金属板が。
それによれは石柱の建造は城砦歴27年。
遺構は水の文明圏の地下商店街であるらしい。
二柱の狭間な南方近場には
地形の陰影で判り辛いものの
地下へと下る斜面が続く入口が。
幅は二柱の間隔と同程度だ。一行の
戦闘車両ごと下れる寸法と見て取れた。
石柱の案内によればこれは物資の搬入口。
また喫緊時の非常路も兼ねていたらしい。
よって大振りかつ際立って頑丈に出来ていた。
そしてそれが仇となり、血の宴の際は魔軍に
地下街への侵入を許すこととなった、とも。
そうした経緯で肝心の商業施設は破壊され
崩落、搬入口とその先の倉庫のみが今なお
活きている状態との事だ。
とまれ一行が小休止、或いは日中の
潜伏先とするのに手頃なのは違いなかった。
馬蹄と車輪の鳴りも近づいている。
あとは「証」とやらの確認だ。
然様に思い至ったミツルギは来歴を語る
プレートから頭一つ分程下に、如何でか
張り付けられた一枚の紙に目を向けた。
紙は石柱へと上部の一点のみで接着。
時折風を受け裾をはためかせていた。
手刀を二つ縦にした程の薄く小さなその紙が
無味乾燥な石柱へとどのように張り付いて
いるものか、そぞろに気になって。
ミツルギは内容を検めるべく手を伸ばした。
すると風にも負けぬ程きっちり張り付いて
いた割には、余りにも呆気なく、手に取れた。
ふむ? とまずは裏返す。
すると上部は小さく何かが付いている。
手に取りペロリ。
眉根をあげる。
何とご飯粒だった。
忍びの仕業なのだろうか。
東方諸国出身のミツルギとしては
懐かしいやら訝しいやら複雑な所だが
まぁ、それは、良いとして。
表に返し書面に目を。
するとそちらも二度見不可避な
たいそう風変りな内容となっていた。




