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シラクサの賦  作者: Iz
第二楽章 彼方へと
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第二楽章 彼方へと その20

騎士団領を俯瞰して十字に四分した場合。

縦横の線分の交点よりやや上辺りが

アウクシリウムの所在地だ。


横の線分は大街道予定地と

移送大隊の針路をも示している。


そしてシラクサ一行は

十字の左上を西進していた。


かつての大災厄の面影をそのままに残す

騎士団領だが、今シラクサらの進む辺りは

領内北方を東西に長く占めるブークブルグや

その西端に続く西域守護北城砦の影響もあって

随分小綺麗な有様だった。





騎士団領ブークブルグは城砦騎士団の

現第三戦隊長、クラニール・ブーク

連合辺境伯の所領だ。


連合辺境伯は西方諸国連合加盟国を序列する

「連合爵位」の一つであり、加盟各国が

国内で独自に採用している爵位に優越する。


要は王位の格付けなのだ。

また連合辺境伯位は城砦騎士団の

保有するうち最上位の爵位でもある。


逆説すれば連合辺境伯位を預かる

クラニール・ブークとは実質

騎士団領の王だとも言えた。


つまりシラクサ一行の往く辺りとは

曲がりなりにも王都の郊外なため

相応に片付けられている訳だ。


野盗狗盗が徒党を組んで根城にしたがる

大規模な廃墟はほとんど更地に変えてある。


とはいえ「殆ど」だ。幾らかは残してある。

何故ならその方が「追い込み漁」がはかどるからだ。





広大な領土の大半が荒廃したまま放置されて

いる城砦騎士団領は、平原全土を追われた

賊徒にとって潜伏するのに都合がいい。


そうした賊徒の中には人魔の大戦に備える

西方諸国連合や三大国家への協力を拒んだ結果

滅ぼされた国や勢力の残党なども混じっている。


そうした亡国の亡霊たちは社会の暗部で

暗躍し或いは騎士団領内に雌伏して、

復讐と再起の機会を窺っていた。

人呼んで、闇の勢力だ。


闇の勢力とて城砦騎士団が敗北し中央城砦が

陥落、絶対防衛ラインが突破されて再び

「血の宴」が起こる、そんな事態は

是非避けたいというのが専らのところだ。


よって表立っては反抗せず。

人魔の大戦の趨勢を息を潜めて窺いつつ

裏社会を牛耳ったり各国の要職を蚕食したり

して、まずは着実に力を蓄える。


そしていつか魔軍の脅威が遠のいたなら

その時宜に平原内で戦乱を起こし復権を。


大規模で強大な闇の勢力ほどこうした方針を

徹底して軽挙せず。手強い相手となっていた。





(現状速度であと3分西進すれば

 利用予定な一つ目の遺構に最接近します)


高く深い空の向こうで

星々の大海が波打ちさざめく中。


銀の月に彩られた静寂の大地を

馬蹄と車輪が密やかに奏でる調べと共に

粛々と往く戦闘車両より、念話が響いた。



「そうですか」


と後方から。


「了解だ。

 そこで小休止しよう」


と前方で声が応じた。



二頭の巨躯な輓馬は速歩だ。

二頭とも戦闘車両の重みなぞ

まるで感じぬが如く駆けていく。


速歩とは馬に無理の少ない早足だが

常人の歩みと比べれば3倍以上、速い。


にもかかわらず

ピタリと距離を保ったまま

徒歩で随行する騎士2名の声は

ごくごく自然で穏やかなものだった。


特に歩哨とペースメーカーを兼ね前を往く

ルメールは、重甲冑を纏って完全武装だ。


騎士団第一戦隊の教導隊員は重甲冑を

纏ってなお、最軽装の伝令よりも

速く駆けるのだと言われる。


ルメールはその教導隊の長だ。

まさに面目躍如と言えた。




(既に『掃除済み』ならば

 入口付近にその証があるとの事です)


「ふむ…… では先行し

 確かめて参ります」




声のみ残し忽然と

車内の映像からミツルギが消えた。


呆気に取られて一拍後、

所在を確認すると既に現地だ。

常軌を逸する恐るべき速度であった。



第二戦隊は邀撃ようげき専門。


第一戦隊が身を挺し、そして敵に生じた

一瞬の隙に全身全霊、最大の一撃を叩き込む。

刹那に己が全てを捧ぐ石火春雷の化身であった。



車内の天井や壁面に浮かんでは消える

両騎士の挙動を観測し数値化した情報群に

シラクサは大いに驚嘆し、そして畏怖した。


畏怖は騎士らに向けられたものではない。

これだけ凄まじい能力を有する戦士らをすら

歯牙にもかけず鎧袖一触に鏖殺おうさつする、かの存在。


荒野に在りて世を統べる大いなる荒神。

「魔」なるものに対して、であった。

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