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シラクサの賦  作者: Iz
第二楽章 彼方へと
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第二楽章 彼方へと その19

騎士団領の中央北寄りに位置する

西域最大の都市アウクシリウムから

騎士団領の最西端に在る都市跡までは

名馬の足で半日程掛かるとされている。


都市跡は北方の西域守護北城砦と

南方の南城砦とを結ぶ線分上に在る。

この線分は百年以上に渡って平原側の

絶対防衛ラインとされてきた。


北城砦と南城砦はそれぞれ線分の両端だ。

それ以外の箇所は今も無防備に空けてある。


縦断に軽く一日は掛かるこの線分の全てを

防壁で覆い尽くすのは勿論現実的ではない。


さらに申さば覆ったとして、

その全域を護持し維持していくのは

より一層非現実的であるだろう。


よって連合軍は本来線分上に置くべき

中央城砦を荒野へと。敵地の只中へと置いて

これを専守防衛し、平原側の絶対防衛ラインを

戦略的に成立させ維持せしめているのだった。



西方諸国連合軍本部のある物資集積所が

前身なアウクシリウムへと集積された

人資物資を荒野の中央城砦へと移送する際。


百年来、まずはアウクシリウムより南下する。

小一時間も下った辺りには平原側から展延

してきた当世の大街道が走っている。


大街道は本来旧文明の遺構で平原全土を

横断していたが、血の宴と文明崩壊により

騎士団領内のそれは完全に破砕され、

中原域でも使用困難な域にまで荒廃。


その後中原の大国となったトリクティアが

主導し復旧を開始。ようやくアウクシリウム

近郊にまで伸びてきたのが当世、というわけだ。


アウクシリウム以西については

戦況と相談しながら鋭意修復中だ。


少なくとも街道跡の洗い出しや周辺領域を

含む測量に整地、再舗装予定地の枠組み等、

基礎工事は既に完了している。


今は城砦歴106年末。遅くとも

110年代には完成すると見られていた。



なお、多分に余談、ではあるが。


連合軍が移送対象な補充兵へと支給する

背嚢バックパックには必ず「命の石」が入っている。


その実態は焼しめられた薄手の煉瓦だ。


表面は釉薬でとりどりに彩色され

裏面には連合本部で照会登録された

補充兵当人の名が刻まれている。


荒野を目指す人資移送の大隊が未完成の

大街道を西進する際、補充兵らはこの石を

舗装予定地の傍らにそっと積んでいく。


そして後に施工のため訪れた駐留騎士団や

連合軍の工兵は、舗装の際これらを仕上げの

飾り石として大街道に組み込んでいくのだった。


荒野の只中に孤立する囮の餌箱に放り込まれ、

武運(つたな)く死んでいく無数の力なき者らにも

それぞれに名前が、生き様がある。


それを歴史が忘れぬよう、

こうして遺していくのだった。





さて、戦の素人が大半を占める補充兵を

移送する大部隊とはあらゆる意味で対照的な

最新装備と最精鋭から成るシラクサ一行の場合。


戦闘車両の突出した悪路走破性の高さや

随行する徒歩な城砦騎士の超人的な身的能力

を活かし、移送大隊の如くに南下して大街道を

往くルートを採用してはいなかった。



常の移送部隊であればまずは大街道予定地に

沿って平原最西端の都市跡を経由し荒野へと。


その後は荒野側の緩衝地帯である平野部を西進

し荒野西域の中央を占有する大湿原の手前で

天候や魔軍、異形らの展開状況を鑑みて南北

いずれかに。専ら北へと迂回して往路へ。


そういうルートを採るのものだ。



これに対しシラクサ一行は、現地の状況に

拘わらず必ず北往路を通る事に決めていた。

天候や魔軍、異形らの展開状況を無視し得る

だけの準備があるからだ。



準備とは最新装備と最精鋭ではない。

移送大隊を囮とする策謀の事であった。


つまりシラクサ一行としては、是が非でも

移送大隊に北往路を通って貰い、無理の無い

範囲で適宜異形に襲われて貰いたいのであった。



荒野は異形の巣窟だが、魔や魔の支配下に

ある眷属らは囮の餌箱である中央城砦を

その戦略価値を百も承知で食卓として

活用している。


この暗黙の了解な人身御供が百年来

平原の平和を担保しているのであって

魔軍としては食卓に馳走が登場するまでは

気長に、お行儀よく待っているのが常だった。


だが荒野の異形も一色に染まってはいない。

単騎あるいは群れ単位で食欲と獰猛な本性に

身を任せ、移送部隊を襲う事、少なからず。


もっとも荒野西域の異形全体でみれば

こうした神をも畏れぬ不埒者は少数派。


またいかに異形の巣窟といえど無限に

ポコジャガ沸いて来るわけではなく、

昼間不埒者を間引いたならばその分

夜間は安全になると言える。


よって異形が最も活発化する夜間にしか

移動できぬシラクサ一行としては是非とも

移送大隊には頑張って頂きたいところで、

その為のさらなる策も、既に打ってあった。



とまれシラクサ一行は、騎士団領内では

比較的自由なルート選択が可能であった。

そのため荒野入り後の移動距離が最短と

成る様、最西端の都市跡を一次目標に選択せず。


より北方、より北往路の入り口に近い位置に

ある遺構を昼間の潜伏先と定め、鉄城門を

出てすぐ西方へ。大街道予定地よりも

随分と北方を移動中であった。

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