第二楽章 彼方へと その15
平原西域最大の都市。
騎士団領アウクシリウムは
俯瞰すれば真円に相似していた。
西方諸国連合軍の本部を有し、
荒野の只中に孤立する城砦騎士団の
中央城砦への人資物資の集積所でもある。
斯様な本義から同都市は俯瞰すれば
十文字に等分した様な四つの区画を有し、
北東区画には城砦騎士団の関連施設が。
北西区画には西方諸国連合軍本部が所在。
また南東区画では人資物資の集積を。
更に南西区画では荒野への輸送を
目的とした施設が大部分を占めていた。
総人口は現状4万。
内、半数が交流人口だ。
そうした人々の大半は、平原全土から
人と物が集う、南東区画に集中していた。
そのため同区画にはそうした「お客様」
のためのバザーや宿や娯楽施設も充実。
昼夜を問わず平原随一の賑わいを見せていた。
「城砦の子」らの育成施設である、通称
「スクリニェット」は北東区画の最北東だ。
正門前の大路は真円をしたアウクシリウムの
中心であり4区画全てに接する行政区画へ
向かって、南西方向に真っ直ぐ進展。
半ば辺りで東西や南北方向に延びる
別の街路と交差し連絡していた。
荒野の中央城砦を目指すシラクサ一行の
最初の目的地は同都市南西区画の最南西だ。
そこには荒野の城砦への輸送軍務のための
各種施設とそれを預かる駐留騎士団の詰め所。
そして進発帰還のための大規模な鉄城門が在る。
鉄城門は周囲をぐるりと防壁で囲むこの都市
唯一の出入口だが無二ではない。南東区画と
南西区画それぞれに線対称で配置されていた。
現在地から最寄りは南東区画のそれである。
さっさと表に出たいのならば大路を往く
途中で南北路へと乗り換えて南下、
南東区画の門を目指す方が早い。
ただ、モノがモノである。
天井や内壁に展開される映像のうち
この戦闘車両の模式図を見止め、
シラクサは嘆息せざるを得なかった。
騎士団参謀部の誇る最新鋭の戦闘車両。
このC4CTWW04は外観として、
三つの構造体に大別される。
一つは前方でこれを曳く大柄な輓馬2頭。
どちらも相当に大柄で屈強な体躯だが
その点を誇る以外に変わったところはない。
二つ目は既に叙述済みの巨大な種状構造物。
これは言い訳の効かぬほど変わったナリだが
それでもまぁ、ただ単体で在るだけならば
ちょいと気になる程度で済もう。
だが三つ目。これが多少問題だ。
具体的には巨大種状構造物の底面中枢を
支える縦長の骨組みのみな台車、なのだが。
軽量性と安定性、さらには車輪の
不整地走破性を極限まで追求した結果、
俯瞰すれば「非」の文字の中央上下を閉じた
様な形状となっていた。
両側面の各3箇所ずつな車軸は長く
またマルチリンク方式の独立懸架であり、
種を寝かせた形状をしている車体本体下方の
空隙を最大限に活用して上下動の領域を確保。
抜群の走破性と安定性、快適性を約束していた。
とまぁ性能に関しては文句なしなのだが、
パーツの組み合わせ、その妙味が余りに
スパルタンで外連味が過ぎるというか。
輓馬を除いて俯瞰すると、
大きく真っ黒な寝かせた種に、その。
足を6本、生やしたように見えるのだ。
つまり昼間程には明るくない、視界が
不安定で多分に錯視の起こりがちな
夜の大路を疾駆したならば。
大柄な2頭の輓馬を付かず離れず
追い掛け回す、それはとても大きく黒い
何某かと見紛わん可能性に満ちていたのだ。
昼夜を問わず大勢で賑わい
人いきれの満ちる南東区画の大路を、
まさか、各御家庭の台所を闊歩する黒金剛。
かの高機動油ギッシュ生命体を彷彿せしめる
こいつで以てブイブイ言わさば、どうなるか。
阿鼻叫喚の地獄絵図は必定。
合理の化け物と呼ばれる事はあれど
然様に察する惻隠の情は軍師にも、在る。
無いのはだから止そうと判ずる良識だけだ。
もっとも。
今回シラクサは所謂「中の人」だ。
戦闘車両の内壁にパノラマ展開される
であろう情景は、乙女心をいたく害そう。
そう思い至ったシラクサは
都市を出る最短ルートを選択せず。
大人しく大路を直進して行政区画を抜け
なお直進。南西区画の大路を貫く事とした。




