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シラクサの賦  作者: Iz
第二楽章 彼方へと
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第二楽章 彼方へと その13

唐突に訪れた闇黒あんこく

シラクサはむしろ、安堵していた。


軍議に用いた小会議室はシラクサにとって

明る過ぎるものだったし、正門前までの灯りや

夜空も、ずっと想像していたものより眩かった。


お陰でずっと暮らしてきた地下の庵に

戻ってきたような錯覚さえ抱き、閉じると

同時にさらに倒れ今はほぼ寝かされた状態の

座席に身を任せ、シラクサはふと、一息付いた。



と、数拍の後、唐突に。


シラクサの前方正面の闇に

銀の紋様が輝き浮かんだ。


正方形に内接円、内接円に正方形。

そう、これは城砦騎士団の紋章だ。


紋章に続いて浮かぶのは、声。

シラクサしか居ない機体内に

彼女以外の声が響いた。



(認証、及び同調、完了。

 ようこそ城砦軍師シラクサ。


 こちらはC4CTCS06及び

 C4CTWW04の管制OS、

 コードネーム『ホタル』。


 当機は城砦騎士団参謀部の

 開発した6番目の決戦兵器を

 長距離移送用に外装したものです。


 当機は中央城砦到着後外装を除去し

 中央塔指令室へ移送、中央管制システム

 に接続され、貴方専用の座席となります)



これは念話の類だろうか。

見知らぬ女性の声だった。


微量の魔力の含有を。自身の念話や

サクラの声と同様の性質を認めつつ、

語られた内容に驚愕するシラクサ。



(……移送後も私が?)



端的に問うシラクサ。

返答は間を置かず成された。



(はい。当機は貴方の有する特殊能力を増幅し

『宴』をはじめとした人魔の大戦の重要な

 戦局をより優位に運ぶべく製造された、

 貴方専用の戦略兵器です)



(……)



暫しの沈黙の後。

予断を許さぬため、

敢えてシラクサは問うた。



(私の有する特殊能力とは?)



問いを予測していたものか

応答はやはり当意即妙だった。



(史上最高の念話能力、

 及び類稀な空間把握能力です。


 これらを従来の玻璃の珠による

 映像受信機構と連動させ、広大な戦場で

 同時多発する戦局を中央塔で統括し、指揮。


 すなわち


『神の視点で戦をする』


 ための最重要、最後のパーツです)





戦とは集団対集団の軍争を指す。

軍集団が戦闘状態で相対すには

相応に広大な余地が要る。


また一たび戦端が開いたならば

戦局はより広大な範囲で同時多発し

常に独自に流動していく。


人の視界は有限だ。

地の果ては想像以上に近く狭いし

指揮する声の届く範囲はさらに狭い。


しかるに一個の将の視野では

同時多発し流動する戦局の全てを

即時に視認、把握して指揮できない。


また戦局ごとに将を用意しても

事前の打ち合わせ通りに事が運ぶのは

まず稀で、不慮の事態に対応すべく

飛ばした連絡の行き来が間に合う例は

さらに少ないと言わざるを得ないものだ。



かような特性から戦の趨勢すうせいは不確かだと。

月光の下薄氷を渡るようなもの、と言われる。


荒野に巣食う異形らは人より遥かに強大だ。

物理的にも人より大柄で軍事展開も広範になる。

よって単一の戦局ですら指揮の維持は困難だ。


まして荒野の只中に。四方八達の衢地くちに立つ

魔軍への囮、都市国家並みに広大な中央城砦に

詰める正規戦闘員は僅かに千名。常識的に

防衛は不可能だ。


にも拘わらず、曲がりなりにも百年余。

中央城砦が陥落を免れ、平原の平和を担保

できているのは、何故か。


その理由の一つが、広域で同時多発する戦局、

その映像の数々を玻璃の珠で受信し司令に

活かす戦略兵器、中央塔司令室の管制機構だ。


これにより片道分の伝令時間が短縮され、

個々の戦局をより大きな視野で総合的に判じ

戦局が取り返しの付かぬ域に遷移する前に

対応が間に合う状況を作り出せる。


そこに声が加えれば。戦局の遷移に合わせ

適宜即時に司令室から指示が飛ぶならば。


戦況は神がかり的に好転し、より多くの

勝利を獲得し得よう。正に戦略兵器といえた。





(……成程)


脳裏に錯綜する目まぐるしい思考に

翻弄を許さず全て支配し理解し捻じ伏せて。


(了解しました)


とシラクサ。

即時に、完全に理解して。



(シラクサ、拝命いたします)



軍師として、戦士として。

そして城砦の子として

新たな覚悟を得たようだ。


そして



(そちらの詳細は道すがら。

 

 まずは外の方々を安心させましょう。

 基本操作を教えてください)



と仄かに目を細めた。



了解、表示しますと声は簡潔に。

天井や側面には多数の周囲の情景と

無数の文字列、図形が浮かびあがっていく。


シラクサは未だ知らぬ事だがその情景は

大いなる荒神たる魔と強大な異形の巣食う

荒野の只中で。黒の月、宴の折に。


人類の存亡を懸けた大戦に臨む

騎士団幹部と参謀部員らが観る情景。

人魔の織り成す戦絵巻に近しいものだった。




(貴方の叡智と意志に敬意を、シラクサ(マスター)




姿なき声はそう告げ、沈黙した。

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