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シラクサの賦  作者: Iz
第二楽章 彼方へと
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第二楽章 彼方へと その12

先刻おこなわれた軍議において。


参謀部は3台の戦闘車両を有している、と。

今回はそのうち最小最軽量のものを使う、と。


確かに彼はそう言った。

されどこれは4号機だ、と。


旧来の一機が廃されて追加、

ゆえに4号機というのはあり得る。

が、「そのうち最小~」と矛盾する。


しかるにこれは新規に追加の1台

と、そういう事になるのだが。



カッシーニ以外の軍師系諸賢は

概ね然様に理解しその先に沈黙。


一方騎士系諸兄は至極簡素に

それが何だ、という顔であり



「要するに、新車か?」



と老シェスター。


「そのようで」


とカッシーニは応じ、彼の落ち度でも

ないのだが、バツが悪そうに弁明した。





「既製品にあれこれ盛るなら

 いっそ一から作った方が早い。


 そういう事は、まぁ、よくある。

 それも参謀部の絡む案件では特に」



叡智の殿堂、参謀部に集う賢者らはすべからく

博学才穎(さいえい)、多くは専攻分野を持つ碩学せきがくだ。

皆、自身の理論や発明の実証機会に飢えている。


そこで何ぞの隙あらば

どこからともなく嗅ぎ付けて

最大戦速で一丁噛(いっちょが)みしにくるのだ。


誰もがこぞって一枚二枚とガブガブ噛み付き

魔改造。現場は三枚四枚、一枚足りない……

と余地を求めて泣く泣く作り直す羽目に。


お陰で関係各所からは


また参謀部か……


と溜息つかれまくりなのだが、今は措く。



今この状況で重要なのは、これが

出来立てほやほやの、おぎゃあと生まれて

まだ間もない、紛れもない新車だという事だ。


戦略兵器を積み込むために、

ついでにアレコレ盛り込むために、

積み込むべき車両すら新調してしまった。


お陰でやはり軍議での一節


『性能は折り紙付きだ、

 そこは安心してくれていい』

  

が成立しなくなるわけなのだから。


兵器どころか車両そのものが

ロールアウト直後のワンオフな新型機だ。

テスト? お前がやるんだよ! 状態だ。


そうなると技術者らの別れ際の一言

『ご武運を』の意味も随分重くなってくる。



ある意味無邪気な騎士系諸兄とは異なり

軍師系諸賢は誰もが斯様に分析済みで

胸中には一抹の不安が過っていた。





こういう時、年経た者ほど動けない。

これまで重ねた経験が邪魔をして

無理無茶無謀を押しとどめるからだ。


その点、この場で最も若く

覚悟も完了済みなシラクサは

騎士らの如く、軽やかだった。



(どこから乗るのですか?)



とカッシーニに問い、


「あ、あぁ……」


と反応が鈍いので放置して車両へスタスタと。

気持ちの上ではスタスタと、近寄っていく。


と、寝かせた種状の戦闘車両が

不意に上方へ。さながら

浮遊したが如くに持ち上がった。


次いで


プシュッ


と謎の音がして


種で言えば尖った側。つまりは車両後部が

上部と下部の曲面の合わせ目辺りから

ばっくりと裂け、下部が下方へ。

さらに真っ暗がりの奥からは


べろり


と真っ赤なスロープが零れ出た。





何と言うか、のっけから全力で肝試しだ。


この様に軍師系諸賢は思わずのけぞり、

騎士系諸兄は盛大に顔をしかめていた。


だがうら若きシラクサは怖じず。


躊躇なく舌もといスロープを、

真っ暗がりへと進んでいく。



騎士団員は皆、夜目が効く。

荒野の戦が夜戦であるためだが

騎士らはさらに闇夜をも見通す。


無論漠然とではあるが彼らは

シラクサの進む真っ暗がりの奥に、

奥へ向かってやや傾いた玉座にも似た

座席が在る事を。


むしろ他には何もない事を見て取った。


だがそれも束の間の事。


シラクサが暗がりに消えるや

スロープがひょいと引っ込み



ばくん、



と音を立て車両が閉じ、



げぷ



と音がして

思わず周囲が顔を見合わせ

その後、しん、と静まり返った。

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