第二楽章 彼方へと その10
深夜0時を始点と規定し一日を4分割する
城砦騎士団の。今では連合軍も採用する
時間制に従えば、第四区分の半ば過ぎ。
午後9時半にシラクサと幹部衆は
スクリニェットの質実剛健な正門前へ。
本館前の広場より展延していた芝生が途切れ、
アウクシリウムの市街北東区画の中央を貫く
大路へと続く、石畳の小広場までやってきた。
先刻先行し退出していた城砦騎士2名は
既に到着し、シラクサらを待っていた。
彼らの逗留していた騎士団の宿泊施設は
往復10分では確実に足りぬほど、ここから
それなりに離れている。
だが常人に少なくとも倍する身体能力を誇る
彼らには、所要を済ませ戻って来るのに
10分さえも必要なかったようだ。
城砦騎士ミツルギの出で立ちは先刻の
軍議の折とさほど変わってはいなかった。
剣聖剣技免許皆伝者の証として
師・剣聖ローディスより授与された
三尺の秋水、妖刀「松風丸」を左腰に。
あとは防寒用の無骨で厚手な、
それでいてそこはかとなく洒落た
小豆色主体、東方諸国風の長羽織り。
そして鶯色の布地にて背中へ襷に
巻き付けられた、小荷物が増えた程度だった。
一方城砦騎士ルメールは完全武装だ。
先刻の墨色のアクトンの上に兵団第一戦隊の、
それも最精鋭である教導隊専用の黒塗りの
重甲冑を纏い、右手には手槍を数条束にして。
左手には異形の一撃をも跳ね返す
重盾メナンキュラスを軽やかに装備。
左腰には重剣シャルファウストを佩く。
総荷重は軽く見積もって大人数人分。
されど跳ね上げた面頬から覗く顔も、
佇まいもまた実に涼やかなものだった。
両者は小広場の左右へと開き、或いは懐手で
周囲を眺め、或いは彫像の如く佇んでいた。
そして彼らの狭間では、此度の移送の要な
参謀部の戦闘車両が、すぐにも乗り込み
進発できるよう門の外を向いて留めてあった。
(お待たせいたしました)
シラクサはそう念話してお辞儀した。
「何の、今来たところです」
ごくあり触れた返答を
盛大に、大手をぶんぶんと派手に
薙ぎ払い気味に成す城砦騎士ミツルギ。
周囲に異形が居ないのが残念なくらいだ。
一方ルメールは所属の大先輩である
元教導隊長であり、今はスクリニェットの
「じぃじ」たる元城砦騎士老シェスターから
「守護神の風格が出てきたのぅ」
といたく満足気な声を掛けられ
「はっ。後事はすべてお任せください」
「フッ、言いおる。期待しておるぞ」
と何やら大いに盛り上がっていた。
合流した一向が斯様に挨拶を交わしていると、
南方、馬車の裏手から、整備にあたっていた
らしき人手が数名現れた。
いずれも市街の同区画内にある
騎士団関係の工房の技術者で
「換装、調整、物資搬入。
全て完了しております」
と代表1名が手短かに。
「では我らはこれで。
シラクサ殿、ご武運を」
とさらに続け揃って敬礼。
一向は敬礼で応じこれを見送った。
技術者に、そして興味深げに眺める幹部らに
さりげなく促され、シラクサはようやくにして
戦闘車両の観察へと移行した。
此度のために手配され、参謀部の用意し
送って寄越した参謀部の専用戦闘車両。
第一印象を率直に
かつ一言でいうならば
種。
そう、それは特大の、種であった。




