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シラクサの賦  作者: Iz
第一楽章 辺境の宝石箱
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第一楽章 辺境の宝石箱 その17

スクリニェットより今期入砦する最年長者

13名のうち自身を除く12名の出立を

当院の助手として教官らと共に。


ただし遠からず昇る陽光を嫌って本館の玄関

から見送ったシラクサは、速やかに館内そして

地下へと退くべく余人より一足先に踵を返した。


と、ふとその折、やや離れた場所に。

やはり建物の陰となっている場所に

何やら人の気配を感じた。


手空きの職員は全て自身の南方で列を成し、

自身と同様表に出れぬ者は館内で見守っている。


建物の陰に滲む気配の主はそうした

どちらでもない。要は員数外の院外者だ。


スクリニェットの敷地への入り口は

今期入砦者の発った南西の一つきり。


正規の来客なら闇に潜む理由がないし

そもそも居並ぶ衆目に止まらぬ筈もない。


にも関わらず、今この時この場所で

気配の存在に気付いた者は皆無だ。

勿論シラクサを除けば、だ。



誰だか気になったシラクサではあったが

誰何しようにもそもそも発すべき声がない。


さりとて得体の知れぬ相手へ無作為に念話を

飛ばすのは躊躇われた。手の内を手放しで

明かすのは悪手とみたからだ。


よって取りあえず陰へと目を凝らすという

判りやすい仕草を以て、「気付いている」

のだと示唆してみた。すると



「貴殿がシラクサ殿ですな。

 後ほど改めてご挨拶をば」



人影はシラクサが見上げる高さの

頭部を実に恭しくがっつり下げまくり。


さらに胸前に折りたたんだ右腕で左方を、

つまりは本館内を指呼してみせた。



岩柱がひん曲がるような豪快な慇懃さに

やや毒気を抜かれつつもシラクサは、その

挙措が館内へ速やかに移動すべき旨を示唆

しているのだと気付き、はっとした。



どうやら人影はシラクサについて

様々な情報を有しているようだ。



とまれ夜明けは迫っているので

急ぐに越したことはない。


よってまずは速やかに館内へ。

その後振り返り見たその折には

既に、人影は忽然と消え失せていた。



たれそ彼たる夕暮れ同様

たれたらん夜明けも矢張り

逢魔が刻の類である。


果たして魔性の類にでも逢うたかと瞠目し

いっそ驚愕したくなるほどに、非現実的な

邂逅だったとシラクサは感じていた。


最も強くそう感じた理由。それは最早病とも

業とも言える頻度で初対面の相手へと向かう

自身の有する「軍師の目」だ。



遍く森羅万象を数値として観測する

軍師の目は、先の人影の戦力指数を

13.3だと告げていた。





軍師の目による観測においては

平原の人の子の戦力指数は基本ゼロだ。


これは戦力指数という概念が、魔軍を

構成する異形らとの戦闘に耐え得る

「城砦兵士を1として」いるため。


人智の外なる魔性異形へと抱く未曾有の恐怖を

実際に克服してみせぬ限り、人の尺度で如何に

猛者でも荒野の死地では無価値だからだ。


人の子のみが集い暮らす平原の人の世と

魔が総べ異形が巣食う荒野とでは、斯様に

次元が根底から異なっている。


だが、それでも仮に城砦兵士を平原兵士で

戦力換算したならば、城砦兵士1名は

平原兵士10名以上に匹敵する。


また城砦兵士長は城砦兵士10名以上に。

平原兵士の基準では中から大隊相当となる。


そしてさらにその上に。


城砦兵士100名に勝り、人の世であれば

文字通り一騎当千。荒野に巣食う異形らすら

凌駕する、人の世の守護者にして絶対強者。

すなわち城砦騎士が存在する。


4億の人の子のうち一時代に20ほど。

この超人的な英傑らが戦力指数10以上。


つまり先刻の人影は城砦騎士。さらに

その中でもかなりの強者だという事だ。


シラクサは脳裏に現役城砦騎士のリストを

展開し、数値に該当する人物を検索した。


先月の黒の月を経た城砦騎士ならばリスト

より上昇してもいよう。そうした要素も

踏まえた上で割り出したその名とは。



「ふむ、どうしましたシラクサ」



本館玄関入って直ぐの広場で

何やら思案げに佇むシラクサに

戻ってきたバーバラが声を掛けた。



「先刻そこで

 ミツルギ卿をお見掛けしました」



シラクサはバーバラにそう念話し

先刻まで人影のあった方を見やった。



「ふむ、そうでしたか……


 卿にはこれまでにも当院へと

 何度も来訪いただいています。


 きっと先刻は水入らずの見送りを

 邪魔せぬよう配慮されたのでしょう。


 後ほど正式に面会する事となりますが、

 今はまず貴方について、連絡があります」



バーバラは特段の感慨を示さず、

シラクサへの業務連絡を優先した。



「何でしょう」


簡潔に、極力簡潔に問うシラクサ。



「貴方の入砦準備が調いました。

 出立は今夜半となります。


 これに先立ち第四時間区分始点より

 地下の資料室で軍議を行います。

 

 ……支度を済ませておきなさい」

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