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シラクサの賦  作者: Iz
第一楽章 辺境の宝石箱
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第一楽章 辺境の宝石箱

ゴッッ!!


短く苛烈な音。間髪いれず


ゴォォンッ……


鐘の音の如き響きがして、さらに

どさどさと何かが地に崩れていった。


わっと沸く歓声とも悲鳴とも付かぬ声。

周囲から沸くいまだ幼いそうした声の群れを、

最初の音の辺りから特大の雷声が上書きした。



「成否を問わず撃たば退け!!

 あれほど言うておるだろうが!!」



恐ろしく張りのあるがなり声が一面の芝生を

凪ぐように渡り、歓声とも悲鳴とも付かぬ

声の主らはこぞって耳を抑え縮こまった。


鐘の音の如き音がした辺りでは数名の子らが

転がっており、一人が早くも涙目で起き上がり

吹き飛んだらしきサリットを拾おうとしていた。


「くそ、痛いわうるさいわ最悪だ……」


泣きべそで悪態を吐く軽装の少年。

後方では巻き添えらしき数名が似た感じで

唸りつつ、各々もぞもぞと起き出していた。



「最悪はお前だ!


 荒野の異形らはあらゆる点で

 我ら人の子の上を行くのだぞ。


 飛び出し暢気に突っ立つ粗忽者を

 飛び道具扱いする程度は朝飯前だ。


 そうして僅かでも守備が綻べば

 あっと言う間に崩され蹂躙される。

 後は寄って集って『踊り食い』だぞ!」



左手に具えた重盾メナンキュラスをブンと

血刀の如く脇へと振るって老騎士は嘆息し、

かつて彼が宴の最中最前線で直に目にした、

大口手足の群れによる惨劇を物語った。


涙目の少年も転がる彼の小隊の面々も

周囲で自隊の出番を待っていた十数名も

こぞってその光景を想像し或いは呻いていた。





重盾メナンキュラスは陸の孤島、荒野の只中に

孤立する中央城砦に拠って人魔の大戦の最前線

を担う、城砦騎士団の誇る第一戦隊中最精鋭の

大隊、「精兵隊」の制式装備だ。


これ一つで小柄な子供ほどに重い。


破城槌の一撃に匹敵する異形らの猛攻をも

数度は平気で跳ね返す防壁なみの強度を有す。


流石に甲冑の方は薄手な平原仕様だが、

今なお十分に異形らと渡り合えそうな

老境の武人は眼差しをちらり。


遠巻きに見守っていたローブ姿へと

もの問いたげな視線を向けた。


視線を受けたローブ姿は涙目で頭をさする

少年らを品定めするように見やり、視線を

武人へと戻し小さく肩を竦めた。


べっこりへこんで涙目なだけで、

どこも怪我はないという意味だ。


武人はいかめしい表情のまま目のみでこれに

うなずきを返し、少年と小隊、とついでに

見学していた子らをも十把ひとからげに

それは昏々と説教を開始。


昼下がり、城砦騎士団領アウクシリウム。

城砦の子らの学び舎「スクリニェット」

での、ごくありふれた光景であった。





一面芝生な学び舎の中庭において、聞き手の

誰もが望まぬリサイタルが第一楽章を終えた頃。


そろそろ勘弁してやれと狙い済ましたように

北手の建物から新たなローブ姿が現れ言った。



「シェスター卿。

 院長がご足労願いたいと」


「うむ、心得た」



元人の世の守護者にして絶対強者。


すなわち城砦騎士であった老シェスターは

手短かに応じ、これに子らがほっと嘆息する

のにキレて更にひとくさり吠えた後、建物へ。


かつては城砦騎士団の防衛主軍、第一戦隊で

教導隊長を務めていたほどの名うての英傑だ。


老いてなお壮健なシェスターは武装の重さを

微塵も感じさせずに建物に入り階上の一室へ。


「お待たせしました」


と騎士団流の敬礼を成した。



「講義中済まんなシェスター卿。

 年長組の仕上げは順調のようだ」


シェスターより10は歳経た印象の、

装飾豊かなローブのこの人物はジュレス。


二代前の城砦騎士団参謀部筆頭軍師であり、

当代筆頭軍師ルジヌの父だ。


彼の筆頭軍師としての在任期間は僅かに数年。

軍師としては不思議なほど篤実温厚な人柄を

買われ、騎士団の宝とも言える城砦の子らの

育成を引き継ぐ事となったからだ。


一代前の筆頭軍師は現連合軍師長でもある

彼の妻ルミヌ。城砦騎士と同様城砦軍師に

世襲はない。にも、かかわらず。


彼らは親子三代に渡り平原の人の子4億の

智謀の上澄み20名に。それも頂点に君臨

してきた叡智の粋、名門中の名門であった。



「抜きん出た者こそおりませんが高水準で

 粒揃いです。うまく緒戦を超えてくれれば、

 必ずや次代を担う良い戦力に育つでしょう」



ジュレスにそう応じつつ、副官の差し出した

書状に目を通すシェスター。開封済みの書状

には騎士団の印章で封蝋された残滓が見られた。


ただそこにあるだけで人々に安らぎを与える

ようなジュレスの表情も、書状の内容に目を

通すシェスターの表情も、次第に険しさを

増していく。ジュレス曰く、その書状とは。



「先日終了した『黒の月』及び今期の

『宴』における、最終戦果報告だ」

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