遺された者
誰もいない、どこまでも続く草原。
それが今の俺がいる星だ。
昔話で読んだことがあるぐらい昔。
もう、きっと誰も覚えていないぐらいの過去。
人は何百億人といて、謳歌していた。
しかし、自ら同士を憎み、相手をなじり、そして愚かにも戦争へと踏み出してからは、世界は変わってしまった。
戦乱は人の数を減らし、人の繋がりを強くし、そして、内に閉じこもるようになった。
いつしか一つ、また一つとその集団は消え、世界中に張り巡らされていたとされる通信網も途切れ途切れとなり、空からは捨てられた星が落ち、次第に生命が消えていくこととなった。
俺がいるのはそんな時代。
ただ一人の人間の生き残り。
海はすでに広域に及ぶ汚染によって、空は戦乱の煙によって、土地は人の長年の営みによって。
それぞれが人間へと冷たい存在となった。
今や、緑と呼ばれた星、青の宝石のこの星は、見る影もない。
俺が死んだら、その記憶も全て消える。
それでもいいかもしれない。
この愚かな行為を繰り返さないようにするためにも、一度、綺麗にリセットするべきだったのだ。
戦乱をやめ、人が和睦し、全てが生き延びれる道がどこかにあったはずだ。
その全てが、今となっては後の祭りではある。
今を生きるしかない俺にとっては、遠い祖先の話よりも、明日の飯の心配をする必要がある。
打ち捨てられた集落を漁りながら、そんな想像は消えていった。