エピソード4 立場と約束と時々姉上
なんかまた長いこと書いてしまった。
この小説冒険メインのはずなんだけど、まだ冒険できない悲しみ。
今回もよろしくお願いします。
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アホや、何でタイトルミスとかやらかしとんねん
魔導歴3039年夏後月82日雷曜。
その日、ジンの父ダスティンは王城を訪れ、伯父である国王ライザ·ブリッジ·オルテシアのもとに来ていた。
公的な謁見ではない為、ダスティンは国王の私室に通される。
程なくして、そこに国王ライザが入ってきた。
彼は、すでに白髪白髭、顔には多くの皺が入った老人であったが、その体はガッシリとした体格でダスティンにも負けておらず、背筋は真っ直ぐしており、瞳はとても力強い輝きに満ちていた。
その姿は、とても70を超えたご老体には見えなかった。
「伯父上、貴重なお時間を割いていただき誠にありがとうございます」
「構わん、可愛い甥が訪ねてきたのだ。 無碍になどせんよ」
そう言ってがははと豪快に笑う国王ライザに相変わらず元気なお方だとダスティンは内心で思う。
しかし、それもつかの間、彼は椅子に座ってダスティンに神妙な様子で話しかける。
「それでダスティン。 用向きは、この手紙のことか?」
「はい、叔父上」
彼は、取り出した手紙を机に置き、腕を組んで眉をひそめる。
手紙には、ジンの操魔属性について書いてあった。
「これは事実なのか? にわかには信じがたいのだが……」
「私もはじめに聞いたときは、そう思いました。 しかし、事実ジンは重魔法に特化した操魔属性であるようなのです。 赤子の時分より宙に浮かんで館の中を駆け回っていたため、てっきり風属性の天才なのだろうと思っておりましたが……」
風の属性の上級魔法に«フライング»と言う空を飛ぶ魔法がある為、赤子の頃よりぷかぷかと宙に浮かぶ姿に勘違いしていたのだ。
そのことに気がついた時には、すでに准成人である10歳の誕生日をすぎてしばらくしてのことであった。
幸いにも、まだ社交界に顔を出しておらず、他の貴族たちにも広まっては居ない。
「珍しい重属性、しかもそれに特化しておるとは……。 しかも次男坊というのがまた、状況をよりややこしくしておるなぁ。 儂に後継者がおらなんだらそこにつかせるのじゃが……。 息子も孫もおるしのう」
「全くおっしゃるとおりです。 家督はもうすぐエグザに譲る手筈になっておりますし、重魔法の使い手を他国や修道院にやるわけにも……」
そういった後、二人は押し黙る。
「となれば、どこかで力をつけ大きな功績を立てて貰わねばならぬなぁ」
「となりますと、やはり軍属もしくは国の魔導機関に所属ですかな」
「それしかあるまいて」
「くっ、親でありながら子供の進むべき道を狭めねばならぬとはなんたる事か……!」
悔しそうに、ダスティンは顔を歪ませ自分の膝を力一杯叩く。
その様子に、王は見ていられないと視線を退けると、そこには若かりし頃の王の絵が飾られていた。
「あ、もう一つの道無いこともないな」
「え?」
その絵を見て王はもう一つの道を考え付く。
「それは、いったい?」
「なに、儂の様に冒険者として一度世界を回らせるのだ」
「なっ!?」
王の言葉にダスティンは驚き、目を白黒させる。
「し、しかしそれは! 誘拐などされたら!」
「そのための、お前じゃ。 残り5で育て上げい。 儂も言い出しっぺだ、昔の仲間に声をかけよう。 そして、15の真成人のときより、旅立たせるのじゃ。 社交界には国外留学中とでも言っておけば、触れ回られることもあるまい」
「しかし……」
困惑を隠せないダスティンの肩を王は優しく叩く。
「お前も人の子だ、我が子愛しいのは分かる。 しかし、じゃからこそ時には厳しくしてやらねばならぬのだ。 このままでは、ジンは国で飼い殺しにするしか無いのだぞ?」
「うぐ……」
王の言葉をダスティンは正しく理解していた。
現在、重魔法の研究は盛んに行われているが、遅々として進んでいない現状。
そこに、重魔法に特化したジンがいればどうなるか。
例え王家の血を引く公爵家の末息子と言えど、実験動物となるのは明白の理だった。
国の繁栄を考えるならば、王としてはそれを命じなければならず、そうなれば例えダスティンであろうと、手の出しようがないのだ。
「そうなれば、ジンの母ユウリの祖国であるヤマトとも、関係悪化は避けられまい。 何せ娘が嫁いだ先の国で産んだ孫が、実験動物にされておるのだからな」
「……」
その言葉が止めとなったのか、ダスティンからはすでに言葉がなかった。
少しして、押し黙っていたダスティンが口を開く。
「……帰ったら、ジンと少し話をしてみようと思います」
「それが良いじゃろうな。 さて、どちらに転ぶかのぅ……」
そう言って、ライザは少し冷めてきた紅茶を啜る。
ダスティンはそれを期に窓の外へ視線を向ける。
雲一つ無い快晴の空が、逆にダスティンの心をざわつかせた。
魔導歴3039年夏後月72日重曜。
ダスティンが王との会談を果たす日より10日前のこと。
ジンは約束を果たすために、イリスを供にとある場所に来ていた。
「と、ここであってるのかな?」
「はい、こちらにございます」
その約束とは、今より約69年も前、ジンがジンで有る前の話である。
もう忘れてしまいそうなほど昔の約束であったが、ジンは覚えていた。
故に、この場所を訪れたのである。
「ごめんください、お祈りをさせていただいても、宜しいでしょうか?」
「まぁ、ジンお坊っちゃまではありませんか。 ええ、もちろんでございます、この場所は万人に開かれた場でごさいますので」
「ありがとう、シスター」
「それでは、私はそばにて控えております」
イリスはジンにそう言って、端の方に向かう。
「それでは失礼しまして……」
教会の老シスターにそう言って、ジンは祭壇の前まで歩み出る。
そして、片膝を着き頭を垂れて両手を胸の前で握り会わせ、祈りを捧げる。
ここは、神母教会と言い母神ダスベスを祀る場所であった。
「(遅くなりまして、申し訳ございません。 あのときの、お約束を果たしに参りましてございます。 この素晴らしい世界に私を導いてくださってありがとうございました)」
そう、心のなかで祈りを捧げる。
ーーそのつぎの瞬間である。
《いやぁ、まさか、覚えているとはねぇ。 本当に律儀な奴だよ君は》
忘れもしない、あの少し幼いような可愛らしい声が、脳内に直接響く。
驚きがなかったかと言えば、嘘になるがジンはさして動揺はしなかった。
何となくなのだが、返事があるような気がしていたのだ。
「(困ったことに、ここまで育つのに、10年もかかりまして)」
《良い10年だったかい?》
「(はい、とても。 感謝したり無いほどです)」
《そんな風に言われると、ちょいとこそばゆいよ。 元々はあたし達側のミスだったんだから》
ジンの言葉にダスベスは少し気恥ずかしそうな雰囲気を出す。
目の前にしていたら、少し頬を染めてそうだなとジンは考えた。
《それにしても、今までよく頑張ってきたわねぇその行いが魂にまで結び付いているわ》
「(神様にお褒めいただけるとは、恐悦至極に存じます。 もしや、その魂に結びついているというのは……)」
思い当たるフシがあったため、ジンはそう考える。
《まあ、隠すようなことでもないから言うよ。 考えている通り、君の操魔属性のことだよ》
「(やはりそうでしたか……この才能もあの貴重な体験がなければ意味が薄かったのです。 ですからやはり僕から言うべき言葉は、ありがとうございますしかありませんよ)」
ダスベスの言葉にジンは嬉しそうに、少し口角を上げるが、直ぐ元に戻す。
別に誰に見られるというわけでもないのだが、気恥ずかしさ故かそんな行動を彼女に取らせていた。
《んー、あんまりこう言うのは良くないんだけど、約束を守った君にお姉さんからごほうびだよ、受け取りな》
「(え?)」
彼女の言葉と共に、ジンは握り込んだ手の中に重さを感じ、全身に力が沸き上がるような感覚を覚えた。
《あたしの祝福と、聖印だよ。 その聖印は君にしか触れることができない代物だ。 なに、お守りとでも思っておきなさいな》
「(……他に言葉が見つかりません。 本当にありがとうございます!)」
《いいさ、お礼なんて。 さて、それじゃあそろそろ行きなさい。 君の人生に幸あれーー》
その言葉を最後に声が聞こえなくなった。
ジンはゆっくりと目を明け、手のなかを覗く。
そこには、布でくるまれた赤子が杯の中に入っており、後光が指し十字架の意匠をした掌サイズの金属制のお守りのようなものがあった。
ふと、横の窓を見るとすでに、西陽が指し始めるような時間になっていた。
聖印を手にし、さぁ帰ろうと振り替えると、何故か多くのシスターやイリス、参拝者達がジンの方を向いて祈りを捧げていた。
「な、なにごと?」
混乱の中にあるジンだったが、実はこれはジンのせいでもあった。
神との交信を行っている間、目を瞑っていたジンは気が付かなかったが、交信の最中は彼の頭上より光のヴェールが降り注ぎ優しく包み込んでいたと言う現象が起こっていたのだ。
更に、祝福を授かった際には、彼自身が優しく美しい光を放つと言うとんでも現象が巻き起こっていたのだ。
暫く、呆然としていると、先程の老シスターがジンの下まで歩み寄り、額づく。
「ちょ、あ、頭をあげてください! いったい、どうなされたんですか!?」
「すみません、あの様な光景をこの老いぼれは感動を押さえられませんで、他の者達を呼んできてしまったのでごさいます」
シスターはそう言ってまたも、頭を垂れる。
訳がわからず、視線を右往左往させていると、一団の中にイリスを発見し、彼女に声をかける。
「いったい何があったのさ?」
「はい、恐れながら申し上げます」
そうして、語られた事の顛末に、ジンは頭を抱えてしまった。
しかし、これ以上の騒ぎになる前に離れようとすぐに思い立った為、イリスに声をかけて足早に教会を後にしたのである。
「……ジン、様」
そんな自身の姿を、一人の少女が見つめていたことになど、気づくことなく。
魔導歴3039年夏後月89日風曜。
その日、ジンは予定が他に何もなかったため、天気が良いので庭のテラスに出て、日陰で風を感じながら最近日課になりつつある魔導書の読書を行っていた。
最初は趣味だった読書から、興味のあった魔法の本ということで読み始めたのだが、魔導書は読み物としての完成度が高く、この世界の価値観を持ちながら、現代日本人に近い価値観も有するジンであるが故、はじめはおっかなびっくりと言った感じだったのだが、書に記されている呪文や、どのようなイメージをするべしなどと言ったことが書いてあり、小さな挿絵も書いて有るため、ゲームブックを読み込んでいるような感覚に近く、楽しんで読み込むことができた。
「……ぃぃぃ……ぅぅぅ……」
「……ん? イリス、何か言ったかい?」
「え、いえ、何も?」
「ん?」
そんな時、読書をしていると、何やら自身を呼ぶような声が耳に届いたため、傍に控えていたイリスに声をかけた。
しかし、思っていたことと違う返事が帰ってきたため、ジンは本から視線をそらし、顔を上げた。
「ジィィィィィンくぅぅぅぅん!」
「ブェッファ!?」
「ジン様!?」
その瞬間、弾丸のように何かが飛来し右脇腹を打ち抜き、押し倒されかなりの力で体を締め付けられた。
しかし、締め付ける力が強すぎて、もはや鯖折りに近い状態だったが。
こんなジンでも王族の末席である、そんな自分にこんな事をしでかす阿呆は一人しか知らない。
「ジンくぅぅぅぅん!」
「ア、アディ、タ、姉、上。 ぐ、ぐるぢぃ!」
「アディータお嬢様! そのようになされては、いけません! ほどほどに、ほどほどにお願い致します!」
5つ年上の腹違いの姉、アディータであった。
年の割に成長した胸に顔を埋められながら、鯖折りされると言う珍事は、この国の学園に姉たちが通いはじめ、寮から帰ってきたその日には毎回行われてきた。
「(あ、意識が遠く……)」
「あれ? ジン君がぐったりしちゃった?」
「ジン様ぁぁ!?」
そして、毎回ジンは加減を知らないアディの力に耐えかねてその意識を沈めていったのであった。
「う、うーん……?」
「ん、気がついたのよ。 おはようなのよ、ジン」
「ん……おはよう、ネーアシス姉上」
意識が浮上してきたのは、それから15分ほど経ってからの事であった。
一番先に視界へ飛び込んできたのは、美しいターコイズブルーの瞳だった。
ついで聞こえた声に、人物を特定したジンは自分のもう一人の姉、ネーアシスの名を呼んだ。
だんだんとはっきりしてきた思考に、現状を確認させた。
風が頬をなで、草と土の香が漂うことから未だ外にいる事はわかる。
そして、後頭部には少しやわらかい感触と姉の顔が上下逆さまに写っていることもわかる。
そこから導き出される答えはただ一つ。
「なんで毎回膝枕なのです?」
「いやなのよ?」
ジンの言葉にネーアは、少し表情を曇らせる。
「嫌ではないです」
「そう、なら良いのよ」
すぐ帰ってきた返事に、今度は、すこし鼻歌でも歌いそうなほどに期限良さげになる。
とは言っても、他の人から見れば、微々たる変化すぎてよくよく観察しなければわからないほどである。
「アディータ姉上は?」
「イリスと一緒に正座」
「そう……ん? イリスと一緒に?」
「ん」
彼女の言葉に、どういうことなのかと返事を返すと、一言つぶやいて、右の方を指差す。
見ると、そちらには、首に【私は、力加減を知らない愚姉です】という板を首から下げショボくれているアディータと、【私は主を守れなかったダメイドです】という板を首から下げたイリスが涙目で正座させられていた。
「いや、あの子的にはどちらも仕えるべき対象の一人だったわけでしょうに……」
「あの子は、貴方の専属なのよ。 アディをしばき倒してでも貴方から引き剥がさなきゃいけないのよ。 その結果、罰を受けるのだとしてもよ。 そしてその罰からは、貴方が守るのよ。 それが主従関係と呼ばれるものなのよ」
そう言って、ネーアはジンの頭を優しく撫でる。
何とも横暴な話ではあるのだが、そう言う世界に居るのだなと言うことを、彼女の言葉で実感させられる。
「さて、そろそろ良いのよ」
そう言って、ネーアが二人の方に向けて手を振るようにして伸ばす。
すると、二人の首にかかっていた鎖が取れて、看板ごと輝きを放ち、光の粒子となって消えたのである。
「ジんぎぃァァァ!?」
「ひっぎぃ!? あ、足がぁ!」
立ち上がろうとした二人であったが、正座から開放された足が痺れを訴えているのか、二人共が足を抑えて悶絶していた。
「これが、マナから物質を産み出す《クリエイタ》と呼ばれる系列の魔法なのよ。 ちなみに、無機物を作れるのは無属性魔法だけなのよ」
「相変わらず、上手だよね」
「もっと、誉めて良いのよ」
ジンの言葉に、気を良くしたのか控え目な胸を張ってふふんと得意気に言う。
双子の姉妹でどうしてここまで差がついたのか、運命とは残酷である。
閑話休題、そんなことをしていると、足の痺れから開放された二人が近寄ってきた。
「いたた、足がもげるかと思ったわ……」
「やっと痺れが取れました……」
そして、アディは懲りずにジンへと抱きつく。
今度は加減されている為、ネーアも彼女を止めない。
「にゅふふ。 ジンくーん」
「ふふ、ジン」
嬉しそうにたっぷりと陣との触れ合い笑顔を浮かべている。
それは食事の時間まで続いたのである。
そんな中、ジンは小さな疑問を浮かべる。
「なんで学園から帰ってきたらふたりともスキンシップをしたがるのさ……」
「ふふ……」
そんな風に本気で首をひねっているジンを見て、小さく笑う。
それだけお二人がジン様の事を可愛がっていらっしゃるという事なのですよ、と心のなかで思いながら。
いかがでしたでしょうか?
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ではではノシ