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エピソード2意志疎通こそ、最高の魔法

悲報、今だ冒険出来ず。

まぁ、赤ちゃんですし仕方ないですわね。

それにしても、小説を書くためにまさか、子育てについて調べることになろうとは……。

そんな感じで今回もよろしくお願いいたします。

 「お、ちぁんと転生できたようだね」


 そう言って、テーブルの上においた勾玉が流し出す映像を見て呟く。

 新しい家族に囲まれて、すくすくと育つ。

 転生としても、良い境遇ではないだろうか。

 

 「一時はどうなることかと思ったけど、何とか元に戻って良かったわぁ」


 ダスベスは勾玉をテーブルの端に置き直し、仕事を進める。

 その合間にちらちらと映像を観てはほっこりとした気持ちになっていた。

 その直後、悲劇が起こった。

 

 「あっ!?」

 

 ジンを写していた映像の中で、ベビーベッドから、出ようとして柵を乗り越えた際、手を滑らして頭から落ちたのだ。

 

 「あ? なんで?」

 

 しかし、ジンが床に叩き付けられることはなく、そのままふよふよと宙を漂い部屋の外へと出ていってしまったのだ。

 

 「……あー、うん。 私はなにも見なかった」

 

 そう言って、ダスベスは勾玉の映像を切り、仕事に没頭したのである。

 そして――肝心のジン方はと言うと、すくすくと育つこと1年と3日。

 

 「ひまら」

 

 なにもすることなく、只日がな1日館の中で過ごし、食事をとって、たまに、専属のメイドと手を繋いで館や敷地の庭を散歩する。

 だが最近になって、ようやく言葉が理解て来てきたので舌足らずながら話すことができるまでになった。

 この事は大きく、言えばトイレに連れていって貰えるようになったのだ。

 

 (あぁ、意思の疎通ができるとは、素晴らしい)

 

 と、おしめから解放されたジン本人はそれ以上の感想は無く、なんでもないように考えていたのだが、そもそも生後1年そこらで完璧な意志疎通ができる赤子なんていやしないのだ。

 もちろん、その時の家族の驚きは凄まじく、父のダスティンと兄のエグザは天才だと大騒ぎしていた。

 と言うのも、あまりにもやることがないために、仕方無く覚えたと言うことでもあるのだが――。

 そんなことはさておいて、ジンは遊び相手になってくれている姉達とした話を思い出す。

 魔法――。

 おとぎ話の中でしかなかったそれは、この世界では実在する技術であるらしい。

 そして、話を聞き続けた結果、マナと呼ばれる魔法発動の為のエネルギーを知覚する事が初歩のことであると言うことだった。

 

 「たしか、マナのながれをかんじるらったな」

 

 そこまで考えて、ジンは目を閉じる。

 流石に目安となるものが無いため、とりあえず前世の理科で習った血液の流れを参考にして心臓から首、頭、肩、腕、腹、足と血液がめぐる道を頭の中で思い描きながら感覚を広げるようにイメージする。

 

 「ん? らんじゃこり?」

 

 するとその感覚の先に突如ぽっと光る何かを感じ取った。

 夜の水辺で蛍が光っているような淡い淡い光だった。

 

 「おー! こりがマナか!」

 

 その小さな光に、指で触れるようなイメージをして自分の中で、これは自分のマナだと確信に至った。

 直感とも言えるこれは、他人に伝えるのは難しい。

 

 「な、なんら? うぁ!?」

 

 しかし、それを自分のマナだと自覚しどんなものか«もっと見よう»とした次の瞬間、淡い光だったものは、突如として無数の輝きへと変わった。

 まるで、満点の星空のように煌めき、一つ一つは小さな輝きなのだが、それが数えきれないほど無数にあるのだ。

 驚いて目を開いたジンであったが、それでもうっすらとマナの光が見えているような感じがした。

 

 「おー! しゅごい」

 

 文字通り彼には、世界が変わって見えていた。

 その彼は、空気中に漂うマナを捕らえ、館の建材となった物の中にあるマナを知覚し、壁の向こうにいる人の姿を正確に認識していた。

 そんなとき、ジンは思った。

 

 「これならかくれて、ぼうけんできるかも?」

 

 そう思ったが早いか、彼はベビーベッドにあたかも、ジンが丸まって寝ているかのように細工をした。

 そしてその後、柵を乗り越えて、ベッドを降りようとした正にその時――。

 

 「あっ!?」

 

 手を滑らしてしまい、後ろに倒れ込む。

 ジンは、何とか頭を守ろうと体を縮める。

 

 「……あれ?」

 

 しかし、思っていたような衝撃はいつまでたっても襲ってこない。

 恐る恐る目を開けて、周囲を確認すると視界がゆっくり上下している。

 まるで、船にのって波に揺られているかのような感覚だった。

 だが、違うと思うのは、自分が宙に浮いていると、自覚できる。

 できてしまったのだ。

 故に彼は自在に宙を漂うことができることも分かってしまった。

 同時に先ほどまで、キラキラと輝いていた世界は成りを潜め、いつもの視界に戻っている事にも気が付く。

 

 「さっきのも、これも«まほう»なんかなぁ?」

 

 と、そこまでは考えたが、それ以降考えることなく、彼はふよふよと宙に浮いたまま、部屋の外へと旅立って行った。

 その数分後、小さなメイドが一人、ジンの部屋に入ってきた。

 彼女はジンの専属メイドとして、この家にやって来たイリス·フォンタマスである。

 

 「失礼します、ジンおぼっちゃま、貴方のイリスが来ましたわ」

 

 そう言って小さなメイドが、ジンのベッドに近づき丸まっている。

そんな格好に微笑ましさを感じながらも、タオルケットを優しく剥ぐと、中にはいるはずの小さな寝顔がない。

 

 「え?」

 

 一瞬硬直し、徐々に理解が深まって行くのと同時に彼女の顔が青ざめていく。

 

 「だ、だれか! だれかぁ!」

 

 そう叫びながら彼女は部屋を出ていく。

 

 「どうした、騒々しいぞイリス」

 「あぁ! メイド長! ぼっちゃまが! ぼっちゃまが居ないんです!!」

 

 そのやり取りを皮切りに、どんどんと館にいるもの達に伝染し、上を下への大騒ぎとなってしまい――。

 

 「ジーン!」

 「ジンちゃぁん!」

 「ジン、どこー!」

 

 結果システィや休みだったユウリ、稽古をしていたアディ達も参加した館の人員総動員した大捜索をすることとなってしまった。


「すぴーすぴぴー」


 しかし、とうの本人はそんなことつゆほども知らず、館の屋根の上で呑気に日向ぼっこをして、そのままお昼寝をしていたのである。


「ジン……いったい、何処に行ったというのだ……」

「まさか、誘拐?」

「っ! 不吉なことを言うな! 馬鹿者!」


 数時間後、誘拐なのではないかと言う話がちらほらと出てきており、ユウリの顔は絶望に染まっていた。

 

 「おっかぁさー?」

 「……ジン?」

 

 その最中、ユウリはふとした瞬間に見た窓の外に、きょとんとした愛しい我が子を見た。


 「!? ジン!」


 弾かれたような速度で窓に駆け寄り、力の限り窓を開ける。

 その為か、ガラスにヒビが入り、留め金と窓枠が少し砕けてしまった。

 

 「おっかぁさぁないとぅのぉ?」


 舌足らずに自分のことを呼ぶ我が子の声を聞き、安堵からかユウリは思わず子供のように泣きじゃくる。


 「あ、あぁ! ジンンンン! あぁー! よがった! よがったぁ!」

 

 ふよふよと宙に浮く我が子を身を乗り出して抱き寄せ、もう離さないと言わんばかりに抱き締める。

 抱き締めた我が子の温もりに、必要以上の力が入ってしまったのは、仕方ないことだろう。

 

 「うー、おかぁさぁ、くりし……」

 「あぁ、ごめんな。 ジン、痛かったな、ごめんな」

 

 ジンの抗議の声にユウリは拘束を緩めて、ジンの顔を見る。

 きょとんとして居るジンの様子に、安堵と同士に疑問が湧いてきた。

 

 「ジン、今までどこにいたんだ? 皆で探したんだぞ?」

 「ん? うえー」

 

 そう言って、ジンは母の言葉に答えるように、母の手を離れてまた宙を舞い天井をぺしぺしと叩く。

 その様子に、先ほどは見つかったと言う安堵のせいで、理解が追い付いてなかったのだろう。

 今、冷静になった全ての人員が驚きで固まってしまい、全ての視線がジンに突き刺さっていた。

 そして、同時に見つかるはずがないわと言う思いが全員の胸中で木霊する。


 「うー?」

 「凄い……凄い、凄い凄い凄い!」

 「ジンちゃん、凄いー!」

 

 いち早く硬直が解かれたのは彼の二人の姉だった。

 ふよふよと、宙を舞うジンの姿に姉妹は興奮していた。

 生後一年少しの赤ん坊が意志疎通出来るだけでも凄いのにあまつさえ、その子は、練習したこともない魔法を使って宙を舞っている。

 例えるなら、赤ん坊が、自転車に乗って自走しているようなものなのだ。

 普通ならば、あり得ないのだ。

 そんなあり得ないと言う興奮は、次第に使用人達へと伝染し、母のユウリまで達した。もう皆揃って興奮を押さえられないでいた。

 そんな母の前までふよふよと舞い戻り、ジンはポツリと呟く。

 

 「ぼく、しゅごい?」

 「ああ! 凄いぞ、ジン! 流石、私の息子だ! 皆のもの! 今宵は宴だぁ!」

 

 ジンを今度はさっきとは別の意味で抱き締めて、ユウリは使用人達にそう言って激をとばす。

 使用人達も、大きな声で返し宴となったのである。

 

 「おぼっちゃま、おぼっちゃま。 もう起きる時間にございます」

 

 そんなとき、ふと響くような声を聞き、ジンの意識は薄れていく。

 そして、今度は段々と意識がはっきりとしはじめる。

 目を開けると、そこには幼さが少し残るも、美しい女性の姿へと変貌を遂げた専属メイドの姿があった。

 

 「おはよ、イリス」

 「はい、おはようございます。 お着替え致しますね……あ」


 イリスが優しく掛け布団を取ったそこには、男子特有の朝の生理現象が起こっていた。

 

 「えと、あ、あの……処理、致しましょう、か?」

 「致さなくていいよ、ほっときゃ治まるんだから」

 

 真っ赤になってしどろもどろになっているイリスに、そう言って、着替えを始める。


 「着替えてる間に、何か飲み物を入れてくれないかい? 少し、喉が乾いてるんだ。 冷たい物が良い」

 「あ、は、はい! ただいまお持ち致します!」


 頬を赤く染めて、じっと着替えを見つめられていると、流石に居心地が悪いので、彼女にそう指示を出す。

 本来であればメイドに着替えを手伝わせるところであるのだが、この主従は姉弟同然に育ったために、非常に緩い主従関係となった。

 それに、主であるジンが、現代日本人の感覚を持ち合わせている事もあり、自分でできることは自分でするように自然となってしまった。


 「あ、そうですわお坊っちゃま」

 「うん? なんだい?」

 

 彼女に視線を向けると、穏やかな眼差しでこちらを見て 、言葉を発した。

  

 「お誕生日おめでとうございます、ジン様」

 「ああ、そうか。 そうだったね。 ありがとう、イリス」

 

 そう言った彼女は心からそう言っているのだとわかる美しい笑顔をしていた。

 今日は魔導歴3039年春後月66日重曜。

 ジン·アーク·アクティビアが生誕して10回目の誕生日であった。

いかがでしたか?

読み手の皆さんが良いと思えていただけましたら、幸いです。

感想等ありましたら、お待ちしております。

ではでは。

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