逃げるが勝ちは有能だ
「う…うぅん……」
空は青かった。いや、当たり前か。
気が付くと、見知らぬ森の開けたところに横たわっていた。まあ、インドア派の俺が知っている森なんてある筈ないんだけど…
「なんだ…天国…か…あはは…」
「違いますっ!」
「うわっ!」
びっくりしたぁ…
「何をそんなに驚いているのですか。」
いや、急に目の前に美少女が顔を覗かせてきたら驚くでしょうよ。萌え死ぬかと思ったよ。
「いや、何でもない。」
「それより、さっきは何が起こったんだ?」
確か、何かが急に目の前で眩しく発光して、気づいたらここにいて…死んだんじゃないなら何で森の中にいる?疑問が多すぎる。処理が追いつかない。
「先程は、貴方の能力を強制的に発動させました。それ以外は私にも何が起こったかは…」
「ん?何で強制発動させた本人が何も分からないんだ?」
「強制と言っても自発的に暴走するよう促すだけですので…貴方こそ、自分で発動したんですから、どんな能力か分からないんですか?」
「いや、それは…」
グィィィン…ドオオオォォォォン!!!!!
「うわぁっ!」
「きゃあ!」
突然、少し離れた位置に立っていた木が爆発した。
「な、何だ!?」
「やあやあ、どうも、手荒い挨拶をお許しいただきたい。次は外さないと約束しましょう。」
木の陰から人が出てくる。
「誰だ!」
「おやぁ?私をご存知ないのにこの‘‘星’’に足を踏み入れたのですか?」
近づいてきたそいつの顔はニヤニヤと嫌味な笑みを浮かべていた。
「っ!貴方は…スズラナ・シントライト…!」
「ふむ、そちらのお方はご存知のようで。」
「ス、スズラナ?」
「彼は、この契約戦争の中で今最も高い権力を持ち、この戦争の勝利候補の1人…」
「契約戦争?何のことだよ!おい、詳しく教え…」
「その必要はございません。貴方達はもう死ぬのですから。」
「契約者同士が出会ったらどうなるか、知っていますか?…」
「ど、どうなる…?」
スズラナが顔を歪め、不気味な笑みを浮べた。
「決まってます…殺し合うんですよォ!!!」
そう言うと、スズラナは自分の周りにいくつもの火の玉を作り、構える。
「あ、あいつ…ヤベェやつだ!?」
「スズラナは変わり者な事でも有名ですので…と、とにかくどうにかしないと私たち死んでしまいますよぉ!」
「それなら提案がある。」
「何ですか?」
「もう一度、能力を暴走させてくれ。」
もし、アレが俺の能力だとしたら…いけるはず。
「な!今度こそ死ぬかもしれないんですよ!」
「大丈夫だ…」
と思う。
「何がですかぁ!」
能力が暴走したのなら、俺の能力が殺傷系だった場合とっくに死んでる筈。だが、死んでいなく、尚且つ、気付けば知らない森にいたんだ。だとしたら、可能性が最も高いのは…
「俺の能力が転移系だからだ!」
「っ!?分かりました。死んでも知りませんからねっ!」
「おしゃべりはおしまいですよぉっ!!」
「は、早くしろっ!」
「分かっています!」
目の前が真っ白になっていく…
「ぐっ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「…………さいっ!」
何か聞こえる。
「起き………下さいっ!」
すごく綺麗な声だなぁ。
「起きて下さいっ!」
「っ!」
気が付くと、今度は大きな水場の近くに横たわっていた。
「よかった…死んだかと思いましたよ。」
やはり俺の憶測は正しかったようだ。てか、心配してくれたのか。彼女の安堵する様子もこれまた可愛い。
「ここは?」
「残念な事に同じスズラナ領の星です…幸い、先程の場所からかなり離れた場所みたいですが…」
「そうか…でも、位置が知られていたとしても、時間はかかるよな。」
「はい。少なくとも2時間程度はかかるかと。」
「なら、色々と説明して欲しい。ええと…」
「自己紹介がまだでしたね。私は《エナ・キュエライト》。《エナ》でいいです。」
「俺は《信条 タイト》よろしく。」
「まず、この世界の話から……」
──1時間後──
「なるほど…」
要するに、この世界では昔から絶えず戦争が起きてて、それを見兼ねた神様が制約を定め、契約者だけが殺傷を出来るようにしたと、しかし、それでも尚、世界を欲する者達が契約者と共に戦争を再び起こした。それが《契約戦争》。ん?待てよ…
「じゃあ、なんであの追っ手は俺達に攻撃出来たんだ?」
「私にも分かりません…もしかすると、神様の力が弱まっているのかも…」
「そもそも、なんで追われていた?なんか悪い事でもしたのか?」
「してませんっ!私が…悪魔の子…だからだと…思います…」
エナは暗い表情をした。まずい、地雷踏んでしまった。
「なんか、ごめん…」
「いえ、貴方は悪くありません。それに、もうあまり気にしていませんから。」
エナは無理して笑顔を向けてきた。可愛いがあまり感心はしないな…
「そうか?じゃあ、そろそろここを離れたほうが良いな。もう一度、能力の暴走をお願いしたい。」
「ダメです。今度は貴方の身が持ちませんよ。」
「大丈夫だって!ほら、このとお…り…」
立とうとして倒れた。うわぁ…今の俺超ダサい。
「だから、言ったじゃないですか。能力を使う代償に身体に疲労が蓄積するんです。使い過ぎると、死ぬ場合もあるんですよ。」
「でも、早くここから離れないとスズラナが着ちまう…」
ガサっ
「誰だ!」
奥の草むらから人影が現れる。
「す、すいません!」
スズラナではないようだ。
「お前は?」
「ぼ、僕はセイン・ランボルト。近くに住んでいる者です。あの、スズラナに追われてるのですか?」
「聞いてたのか…」
「ご、ごめんなさい!たまたま居合わせて、気になってしなってしまって…」
「まあいいよ。俺はタイト。」
「私はエナです。あの、この事は黙って頂けると有難いのですが。」
「勿論!あの、宜しければ僕の家に来ませんか?僕の家はサーチが効かないので少なくともここに居るよりは安全だと思います。」
「…」
どうするか…信用出来る情報が少な過ぎる。でも、もし本当なら…
「タイト、簡単に信用してはいけませんよ。」
「分かってるけどさ。ここでスズラナに殺されるよりは賭けに出た方が良くないか?」
「…貴方に任せます。」
「ありがとう…分かった。案内してくれ。」
「あ、はい!こっちです。」
俺…成り行きでここまで来たけど、マジでどうしよう…
どうも、時ノ雨です。今回はいつもより少し長く書いてみました。内容がマンネリ化しないように気を付けたい…!