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緑の騎士の物語  作者: かなえ&るうき
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 回想に耽っていた彼の意識を、草踏む音が引き戻す。音先を探れば、拠点の裏口から歩いてくる一人の姿。彼の親友だった。

 レーヴェンは片手に細い花束と酒瓶、もう片手に酒杯を二客、器用に持っていた。オリーブの樹下は小さな慰霊碑の前にどかりと座って花束を供える。

 夕暮れの茜色が、淋しげな横顔を照らす。

「よっ。…やっと落ち着いてきたぞ、フェル。」

 酒杯にそれぞれ酒を注いで、乾杯…小さく呟くと、慰霊碑の前に置いた酒杯と自分の酒杯を触れ合わせた。

「部隊長の後任も決まったし、お前の部下たちのお咎めは勤務態度と情状酌量で、ほぼ無いに等しい。言うことなしだな。」

 舐めるように酒を味わいながら、遠い目をする。

「時間は瞬く間に過ぎてしまうな。…お前が居ないだなんて、嘘みたいだ。」

(「レーヴ…。」)

「実は、な。ここいら近辺に、辺境伯を置こうかって話が王都で出ているらしい。隣国の一部がきな臭くなってきて、色々とな。…まぁ、それを目指すのもいいかもしれないとも思ってる。けっこう気に入ってるんだ、ここは好い所だからな。」

 空にした酒杯に酒を注いで今度は一息に呷る。酒気帯びる吐息が震える。

「…なに、安心しろよ。お前の分まで、うんと長生きしてやるから。…。」

 立てた片膝に腕を預け、額を押し付ける。沈黙する。肩が僅かに揺れていた。

(「…ああ、長生きしてくれよ。…。」)

 小さな慰霊碑から離れた彼は、相手と背中合わせに腰を下ろす。蒼槍を肩に乗せ、組む腕で柄を抱いて俯く。

 知られることが無いと知りながら、ただ傍に寄り添い続けた。



 押し黙る親友が杯を空けるまで。

  瓶の酒が空になるまで。


     夜が訪うまで。



                                         了

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