表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑の騎士の物語  作者: かなえ&るうき
1/13

1

 物語は、両刃の剣を伝い流るる血滴で始まる。


 騎士同士の諍い…というには、どこか様子が違った。場所は森なか、片や鎧を着込んだ騎士は無傷、片や兜ない軽鎧の騎士は不意打ちらしき斬傷を首に・腕に・脚に負い、そして正面から腹を、剣に貫かれている。

「な、ぜ…」

 剣が引き抜かれ、血飛沫と共に地へ倒れた彼は小さく呻くが動けない。その背にも斬傷があった。

 視線だけは相手へ向けるものの、双眸からは徐々に光が薄れてゆく。

「っは、は、ははっ、…これで我が手中よ! …貴族こそ……、…」

 相手は高笑いをして、何かを踏み躙り去って行った。


 彼の口から、最期の吐息が一つ。


   + + + + +


 心地よいまどろみに浸っている。眩い白光のなかを揺り籠で揺らされるように。痛みが嘘のように消え去って。

 …微睡む? 疑問を認識した瞬間、『彼』の周囲が晴れてゆく。緑深い森の景色が広がる。

「(ここ、は…それに、俺は…?)」

 意識は霞みがかり、前後の記憶が思い出せない。彼は周囲を見まわした。

 緑陰樹のよく繁る森だった。届く光が薄いからか、落葉の茶色い絨毯には下草が寂しく点在し、広葉樹は幹を高く伸ばして、はるか遠くに梢を揺らす。

 その樹幹は蔓草や苔に覆われていた。仄暗い森は空気も湿り気を帯びているのだろうが、今の彼には何も感じられない。両手を見下ろそうとして視線を下げると、落葉の地面が広がっている。いつもなら下草を避けて踏む足が、無い。

「(……身体が、無い…?)」

「それはそうさ。アンタは死んで、現在いまは魂だけの存在だもの。」

「(なにっ?!)」

 彼は驚き後退る…つもりが、視界が横へ移動するだけだった。そして声の主は予想以上に近くに居て、彼は勢い(気持ちは仰け反って)後退し距離を取った。

 まじまじと見つめて、その姿にも驚いた。

 彼と同じ目線にまで落下浮遊した姿は、翅の生えた小人だった。青紫の髪は短くも絹のように艶があり、空色の瞳は大きく円だ。上衣は黄葉を・下穿きは紅葉を縫い合わせたかと思わせるほど精緻な刺繍で彩られている。そして背中に生える二対の翅は長細く、虹に煌めく水晶を薄切りしたように透明だった。

 その小人が、器用に翅で滞空しながら小首を傾げる。

「なぁ、アンタは悔しくないのか?」

 高く澄んだ声は、内容に反して柔らかだった。

「(なにを言っているんだ?……というか、そもそも俺はなぜ死んだんだ?)」

「え! …それ、は…、…」

 瞠目した小人は、動揺して翅を震わせる。隠し事ができなそうだ。肉体は無いものの、彼は微笑ましさを堪えておく。

「本当に、覚えていないの…?」

「(ああ。確か、…何かを掘り上げようとしたことは覚えているんだが…)」

「そっか…。まあいいや。」

 小人は首を振って肩を竦めた。それならそれでいいと安堵すらしているような微苦笑だった。

「このままここに居てもしょうがないから移動するよ。」

「(でもどこに?)」

「森の奥だよ。どうせ外に行ったって、人間には見えないんだから。」

「(そういうものか。)」

 彼は、とりあえず頷くと、さっさと翅を動かして空中を泳ぐ小人の背中を追っていく。そっと感嘆する。

 あまり上下せずに視界が前進する光景というのも、不思議なものだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ