第0話『前夜』
本編の前夜のできごとです
時計は深夜二時を指している。その闇に溶け込む佳のように三人の男(いや、一人は女だろう)が身を潜めていた。
三人はそのたたずまいにいずれも隙はなく、その瞳をみるだけでも只者ではないことがわかる。
彼らが潜むのはイギリスの、ある公立図書館の付近のビルの屋上。
『大丈夫だ。半径5キロ以内には守護者<ガーディアン>はいない』
『そうか。中には何人いるかわかるか?』
『図書館の中にはいない。まぁ、この時間だから当たり前かな』
『問題はその下ね・・・どう?』
『どうも能力を拒む結界のようなものが張ってあるみたいだ。ノイズ混じりだけど・・・そうだね、この呼吸音からすると40〜50人ってところか。そのうち半分以上は寝てるみたいだね』
『これ以上待っても人数は減らないか・・・どうだ?中には跳べそうか?』
『闇がある場所にはどこへでも、任せてちょうだい。でも、魔女のいる部屋の前までね。あの中は少し異様ね、入り込む余地がないわ。これじゃ例え入り込めたとしても魔女にあうことすら適わないかも…』
『問題ない。拒むのならぶち破るだけだ』
『ふふふ・・・君のそういところ、好きだよ』
『わかったわ。じゃ、手筈通りあなたを送り込むだけでいいのね?』
『ああ』
男はそれだけ言うと自分のネックレスを空にかざす。一瞬で一振りの刀と鞘に変化し男の手と腰元に落ち着く。
『準備はいいみたいね。じゃあ私の影の中に入って』
言われるまま女の影の中に進みでる。
『じゃあ頑張ってね。健闘を祈っているわ』
『異常があったらすぐにぼくに報せてくれ。多分聞こえるはずだ』
静かに頷くと男は影の中に消えていった・・・
図書館の地下。どうやら侵入にはせいこうしたようだ。何階かはわからないが多分相当深いのだろう。自分の立っている場所を見上げる。そこには壁いっぱいに広がる美しい女性の肖像画が掛かっている。その肖像画の影を伝って移動したらしい。
早速魔女のいる部屋を探そうとしたがその必要はないようだ。目の前の大扉から異様なエネルギーを感じる。
(まさかここまで正確に跳ばしてくれるとは…さすがだな)
辺りを見回すとこのフロアは今自分がいる大広間とそこに通じる通路と階段、でかい肖像画、それとこの先の扉しかないようだった。
しかし、この肖像画は魔女を描いたものなのだろうか?画のなかの女性は美しく優雅にそして妖艶ともとれる笑みをたたえている。まるでこの肖像画自体が生きているかのようだった。
『そこで何をしている』
声がした方向に振り向きつつ後ろに跳び、体勢を立て直す。
馬鹿な!画に気をとられていたとはいえ敵の接近に気付かないとは…声の主の顔を見ようとする。が、男の顔は黒い仮面で覆われていて素顔をみることは適わなかった。
『まさかここまで入ってこれる者がいるとはな・・・どうやって潜りこんだかはわからないが・・・この先は通せん!』
言うが早いか仮面の男の手には両刃剣が握られ、ものすごいスピードでこちらに斬り掛かってくる!
紙一重で攻撃を躱し逆に斬り掛かる。
『はあっ!』
だが、仮面の男は足をまるで体操選手のように地面すれすれまで開きその体勢のまま攻撃を繰り出す!
『くっ!』
後ろに跳びその攻撃をなんとか躱す。が、仮面の男は更に追い討ちをかけるべくその独特のスタイルの攻撃で男を追い詰める。
『させるかっ!』
男の手から電撃のようなものが発せられる。
『ぐっ!ふっ・・・やるな。だが、次も防げるか!?』
『・・・だいたいわかった。奇妙な動きでさばきづらかったが、もうまどわされん』
『口ではなんとも言える。第一スピードは私が上だ』
『動きのスピードはな。だが・・・剣のスピードは俺が上だ』
『ふっ・・・さっきから私の剣をさばききれてなかっただろうが』
『言ったろう?もうわかった、と』
「ヒュン」とかざ切り音がする。それと同時に仮面の男の左肩から鮮血がほとばしる!
『ぐっ!ふっ、やるな・・・』
『ちっ・・・』
侵入者の男の腹部からも出血がある。どうやらお互いに斬りあったらしい。
『はっ!』
仮面の男が傷口に手をやると傷口が光出しあっという間に傷がふさがる。どうやら侵入者の男も同様らしい。
『この程度傷のうちにはいらんな』
『お互いにな!』
両者はお互いを睨み付けた後また斬り合い開始するのだがお互いにダメージは与えるものの、致命傷とはならず、すぐに回復してしまう。
さて、どうする?手数も与えたダメージも僅かだが、確実に俺が上。だが時間がかかり過ぎた。どうやって均衡崩す・・・そんなことを考えていたその時運は俺に巡ってきた。
『おい!誰かいるのか!』
どうやら見張りが異変に気付きこの部屋まできたらしい。そりゃあこれだけ気をバチバチとばしてりゃ馬鹿でも気付くだろう。そして本来ならばこのことは俺にとっての不運であり撤退の潮時だったのだ。
だが、それは時間に直せばコンマ1秒に満たなかっただろう。しかし、仮面の男は僅かに隙をみせた。そう、仲間がきた
「安堵」によって。
グシャア!
仮面の男の頭上に真向両断に刀振り下ろす。見事に頭蓋を切り裂き、刃は脳に達する。
『なっ・・・』
援軍に来た男達は今見た光景に頭がついていかない。
その隙を見逃さず、一瞬で二人の首を斬り落とす。恐らく自分が死んだことすら気付かなかっただろう。
『さて、障害ははいじょした。他がくる前に用をすませるか』
そういい男は大扉に手を掛ける。
しかし、全く開く気配がない。
『やはり、な。結界か』
そういって男は目を閉じる。男の手に光が集まりバチバチと音鳴らす。
『雷、光、垉!』
ものすごい雷の渦が結界ごと扉を吹き飛ばす。
『あらあら、随分と乱暴なのね』
その先は部屋ではなかった。ただの闇の空間。その中央にポツンと台座が浮遊しているのみだった。そしてその台座に座っているものこそが・・・
『あんたが・・・1000年の魔女か?』
顔を肖像画と照らしあわせようとしたが闇が深くよく見えない。だが声質は想像どおり艶やかだった。
『そうよ。会いにきてくれて嬉しいわ。何か私に用?』
『・・・ああ、そうだ。あんたには・・・死んでもらう!』
男はそういうと全身に力を溜める。すると男の身体は半分異形の者と交じり合い変貌していく。
『あら、もう
「神化」がつかえるなんて。やっぱり
「今回」はあなたが他の子と比べると群を抜いてるわね』
『何を訳のわからないことを言っている!』
男は全身にオーラを溜めると魔女に飛びかかろうとした。しかし、見えない壁に阻まれその場に倒れこむ。
『なっ・・・』
『ごめんなさい。私は殺される訳にはいかないし、あなたを殺したくもないの。』
『くそっ!』
壁を破ろうとするがまるでびくともしない。
『これは扉にかけたものとレベルが違うわあきらめて。そもそも普段は扉にもこのレベルの結界か張ってあるんだけど今日はあなたと少しお喋りがしたかったからわざと弱いものにしておいたの』
『俺と何を話したいというんだ?俺の組織のボスのことか?お前を殺す目的か?』
『そんなことどうでもいいのよ。どっちも検討がついてるしね。目的の方はやめたほうがいいわね。間違いなく混乱が起きるし、私が死ぬことによって世界にどんな影響がでるかは私も死んだことがないからわからないしね。わかった?』
魔女はまるで子供に言い聞かせるかのように男に話す。
『だが、このままではいずれ!・・・』
『大丈夫よ』
ピシャリと言い切り男の言葉を遮る。
『「彼」も目覚めつつあるみたいだし、他の子たちも着実に実力をつけてるみたいだしね。』
『うふふ、全員が揃うのら1000年ぶりかもしれないわね。まぁ、
「彼」が目覚めること自体1000年ぶりだから当たり前なのだけど』
何を言っているんだ?
「彼」?誰のことだ?
『ながかったわ・・・どれだけ苦労をしたか・・・何度諦めかけたことか・・・でも実ったわ!積年の願いが!これで・・・奴らにも勝てる!』
そうか。彼とは…
『あら、気付いたようね。そう、彼とは…』
男がそのあとを引き継ぐ
『・・・のことか。だが血は途絶えたはずだ』
『私が復活させたのよ。私の力だけじゃないわね。そう、科学の発展が思わぬ恩恵を与えてくれたわ』
『成る程、それがあんたの勝算というわけか。だが、俺は命令を受けてきている。あんたを殺せとな。あんたを殺す理由はそれだけで十分だ!』
奴らに勝つには世界中が識る必要がある。この世界の危機を!例え混乱を招こうとも!
俺は魔女が自分の世界に浸っている間に右腕に全オーラを集中させていた。
『これなら、どうだ!』
『残念ね。私の騎士様がきたみたい』
魔女が俺の後ろを見据え言う。何とさっきころしたはずの仮面の男が俺と同量炎に包まれたオーラを今正に放とうとしていた。その姿は俺と同じく半分異形の者と交じりあっていた。
『くっ』
俺は男の放つオーラを相殺するため仮面の男に向かい全オーラを放つ!
どおぉおぉぉん!
俺は気付くと仲間二人に顔を覗きこまれていた。
『あ、気付いた!ビックリしたよ。何の連絡もなしにいきなりここに飛んでくるなんて・・・』
『魔女には会えたの?』
『あぁ、どうやらその魔女に飛ばされたらしい』
『どういうこと?門前払いされたってこと?その割りには時間がかかってたみたいだけど』
『いや、違う。その辺あとだ。とりあえずボスに連絡をする』
『何てするのよ?』
『プランBに移行するよう申請する』
『つまり、魔女狩りは無理ということね』
『ああ、格が違う。触れることすらできなかった』
『組織一番の戦士が触れることすらできなかったなんて・・・』
『残念だが事実だ。いくぞ』
そういうと3人の姿は闇に消えていった・・・
『よろしかったのですか?あの男を逃がして』
『ええ。彼はだいじな駒だもの。こんなところで無駄死にさせられないわ』
魔女は闇の中に手をかざす。すると世界中の映像がそこに球となって現れる。
『さて、お仕事しますか。うふふ』




