対決の行方は
次局、楓の手札は青3、黄7、黄0、赤5、、赤ドロー2、緑リバース、ワイルド。
(楓)(ちっ、見事にバラけたな。色が固まったほうがやりやすいんだが)
その分どんな色が来ても対応できるという利点はある。要はやりようだ。カード運が良い奴が勝つという単純なゲームではない。
(葵)「じゃあ勝ったわたしからね。場札は黄9、うーん、黄2」
このゲームにも定石というものは存在する。例えばこの場合出せるカードは黄7、黄0、ワイルドのいずれかだが、ワイルドはラスト二枚になるまで取っておく。その上で負けた時のために点数が高い黄0から切っていく、といった具合だ。ここは定石に則って切っていく。
(楓)「黄0」
(幸)「赤0」
(葵)「赤スキップ」
(楓)(早速来たか。だがこの手札ならどんな形でもある程度対応できる。)
楓は余裕を崩さない。
(葵)(ふっふっふ楓ちん、またも地獄に落ちてもらうよ)
対する葵は残り赤スキップ、青スキップ、緑1、青3、ワイルドドロー4。スキップ連打にラス前のワイルドドロー4で決める算段だ。
(幸)「……ないわね。パス」
幸が山札から一枚引く。
(葵)「赤スキップ」
(幸)「パス」
(葵)「青スキップ」
(幸)「パス」
(楓)「ちょっと幸、あんたマジで持ってないの?」
(幸)「ええ。例え持っていたとしてもその場合パスしちゃいけないってルールは無かったと思うけど?」
(楓)「……そうだな、確かにそんなことは言ってなかった」
この時の幸の手札、赤3、赤4、青スキップ、青リバース、緑8、黄9、黄ドロー2、黄スキップ。本来ならばどうとでも出せる形。
だが。
(幸)(今はまだ動く時ではない)
とにかく手札を増やす。勝利条件の反対に全力疾走する。
(葵)「じゃあ青3。ふっふーん、いいのかにゃあ? もうあと二枚だよお?」
楓、ここで熟考する。
(楓)(どうする? ここで青3を出すこともできるが……恐らく葵は攻撃力の高い特殊カードを持っている。敢えて二位狙いならそれもいいが、葵のカードがワイルドドロー4だった場合四分の三の確率で四枚引くことになる。そうなると最終形の手札は幸が七枚、あたしが九枚、五十点のワイルドも抱えちゃってるし三位になる可能性が高い)
楓が半眼から目を開き、宣言する。
(楓)「パス」
ゆっくりと山札に手を伸ばす。
(楓)(あと一枚、攻撃が欲しい。欲を言えばワイルドドロー4、せめて違う色のドロー2があと一枚……! 残りの山札から赤以外のドロー2かワイルドドロー4を引く確率は九・四パーセント、それ程悪くない賭けのはず!)
そして現れたのは……
(楓)(来た! 緑ドロー2!)
その一瞬の表情に幸が反応する。
(幸)(何か掴んだわね。頃合いか)
(幸)「赤3」
(葵)「ふっふーん、ワイルドドロー4、色は緑! ウノ!」
楓の目がカッと見開く。
(楓)「緑ドロー2!」
(幸)「はい黄ドロー2」
葵が口をあんぐり開けてふるふると震えている。「早く八枚引いて」と促されるもその手つきは覚束無い。
(葵)「いちまーい、にまーい、さんまーい、よんまーい、ごまーい……」
(楓)「番町皿屋敷かお前は。黄7」
(幸)「黄スキップ」
(楓)「やっぱスキップ持ってんじゃねえか。パス……あーところでパスで引いたカードが出せるカードだった場合はどうする?」
(葵)「んー、出しちゃっていいんじゃない?」
(幸)「私も異論はないわ」
(楓)「んじゃあ黄7」
(幸)「パス」
(葵)「緑7」
(楓)「緑リバース」
ここで楓がお菊さん化した葵に手番を振る。ただでさえ引きが強い葵が八枚引いた時点で危険を感じたからだ。
(葵)「えっわたしの番? あ、緑9」
(幸)「ちっ、緑8」
幸が舌打ちしつつカードを出す。幸もまた同じ気持ちであった。
(幸)(だが青に変えることが出来ればチャンスはある)
先程のパスで来たカードは青ドロー2。青を三枚持っていることになる。
(楓)「パス」
一方楓もワイルドを持っているにも関わらずパスを選択、ラス前まで温存するつもりである。
(葵)「赤8」
(幸)「赤4」
(楓)「赤ドロー2!」
(葵)「うっ無い。ふえーん。ついてないよお」
(楓)「どうやら葵の運も尽きたようだな」
(幸)「そうね、あんたも。青ドロー2」
(楓)「なにぃ!?」
(葵)「次はわたしね。何を出そうかなあ、よりどりみどりだよう、ふふふ~青9」
(幸)「もはや目のハイライトがないわね。青リバース」
(葵)「またわたしの番ね。青7」
(楓)「ぐっやってくれんじゃねえか。青3」
(幸)「青スキップ、そしてウノよ」
(楓)「……じゃああたしの番だな。青2」
そこからは幸の連続攻勢が止まらなかった。結局ウノを三度繰り返し勝負は決する。
(楓)(やべえな、これは無理だ。降りるか)
(楓)「ワイルドで黄色にするぜ」
(幸)「あら、運がいいわね。黄9で上がりよ」
楓も葵も互いに残り手札は三枚。一枚一枚手札を明かしてゆく。
楓は黄1、黄2、緑3。
葵は緑1、緑3、青4。
(楓)「げえ、こいつ降りてやがった!」
葵はただの激運バカではなかった。勝てぬと見るや得点の高いカードを捨て二位狙いに切り替えたのだ。
だが僅差で三位は葵。
幸が立ち上がり冷蔵庫に向かう。
(楓)「おい、何するつもりだよ」
(幸)「別に買ってきたドリンクしか使っちゃ駄目ってルールは無いでしょう? だからこれをね」
そう言って幸が持ってきたのは卵。
(葵)「ちょっ固形物はルール違反でしょう!?」
(幸)「卵って固形物かな楓さん?」
(楓)「殻さえ入れなければ液体じゃあなくって幸さん?」
(葵)「あんたらねえ……」
呻く葵に差し出されたのは飲むヨーグルト、トマトジュース、卵のドリンク。
(幸)「名づけてボミットブラッディカクテルでございます」
(楓)「アルコールは入ってないけどな」
(葵)「それ吐血じゃないの!」
最早見た目だけで吐き気を誘う。
(葵)「お父さん、お母さん、わたしに勇気を!」
一気に煽った状態で数秒止まっていた葵が、急激に膝から崩れ落ち、しかし既の所で体を捻って壁に体重を預ける。
(楓)「お、おい、こんな所で吐くんじゃねえぞ」
(葵)「ぼ」
(幸)「ぼ?」
(葵)「ぼりゅーみい」
(楓)「は?」
(葵)「たまごが……ぼりゅーみい」
(楓)「大変だあー! 葵が壊れた!」
(幸)「大丈夫よ楓、元から壊れてるわ」
(幸)「で、まだやるわけね」
(楓)「当然だろう? 一人だけ逃れようったってそうはいかねえぜ?」
(葵)「ぼりゅーみい」
(幸)「大変! 葵ちゃんが息をしてないの!」
(楓)「ぷっくく……。いや、喋ってんじゃねえか。葵、お前も面白い顔してねえでいい加減復活しろ。幸にも同じ目にあわせてやりてえよな?」
(葵)「うえー、当たり前じゃない。こうなりゃもうとことんまでようえー」
(幸)「語尾がうえーになってるけど」
(楓)「可哀想に葵、仇はとってやるぜ!」
(葵)「いや、死んでないけどうえー」
(幸)「で、結局やるわけね」
三局目、始めのカードは緑2。手番は幸から。
(幸)(こいつらは絶対組んで私を狙ってくるわよね。冗談じゃない、あんな目に会うのはごめんだわ。どうする……?)
幸の手札は黄ドロー2、黄リバース、黄8、黄3、赤9、緑7、青3。
(幸)(運の偏りはない。手札が怖そうな葵の次は楓、リバースさえ来なければ安全。ここはひとまず流れに任せる)
(幸)「緑7」
次番葵の手札、ワイルドドロー4、青ドロー2、青6、黄9、黄1、赤3、緑2。
(葵)(わたしはとにかく一番を目指すよ~。温存温存っと)
(葵)「緑2」
楓の手札、黄ドロー2、黄4、黄3、赤スキップ、緑6、緑3、青4。
(楓)「何とか幸にこのドロー2をぶち込んでやりたいが……今はやつも持ってるかもしれん」
(楓)「緑6」
(幸)「パス」
(葵)「青6」
(楓)「青4」
(幸)「青3」
(葵)「青ドロー2」
(楓&幸)(来た!)
序盤からの攻撃手、葵の手札だからこそ出来る強気のカード。
(楓)「行くしかねえ! 黄ドロー2!」
(幸)「黄ドロー2」
(葵)「むう、ワイルドドロー4で色はそのまま黄色」
(楓)「げえ! あたしかよお!」
渋い顔で十枚山札から引く楓。来たカードは数字カードばかり、運を葵に吸い取られているようだ。
しかし例えドロー2を更に出されても幸にはパスの時に引いた緑ドロー2があった。
(幸)(どうやら運は向いているようね。手札を増やした楓の攻撃が怖いし、ここは順番をかえておきましょう)
(幸)「黄リバース」
(楓)「おっ? んーと、黄7」
(葵)「黄9」
そこからは葵がたまに残り一枚までいくものの、切り札を使ってしまったために決定打にかけ、長期戦の様相を呈する。幸が残り一枚になるとそうはさせじと二人が阻止する、そのために強カードを使ってしまうので二人共上がりまでいけない。まさに泥沼であった。
(幸)「ウノ!」
(葵)「むう、パスして一枚引くよ……引いた! ワイルドドロー4!」
(幸)「うげ、あんたここぞという時に引くわよね」
(楓)「つーか異常だぜ、葵だけで三枚使ってるもん」
(葵)「そうだっけ?」
(幸)「ほんと、何か憑いてるんじゃないかってくらい引きが良いわね」
そして終盤、山札が残り両の指で数えられる位になった頃。
楓、手札黄スキップ、青6、そして虎の子のワイルドの三枚。
葵、ワイルドドロー4、黄4、赤1の三枚。
幸、黄6、黄6の二枚。
手番は楓。
(楓)(さて、ここが勝負どころ。一手間違えれば死、あるのみ)
(幸)(このまま逃げ切ってみせる!)
(葵)(この虎の子ワイルドドロー4を何としても幸にくらわす!)
三者睨み合う。ここで楓が出した手は……。
(楓)「黄スキップ」
(幸)「ということは葵を飛ばして私ね。黄6のウノ」
楓に緊張が走る。ここで幸に勝たせる訳にはいかない。
(楓)(かといってあたしもここは勝ちがかかる大事な局面。目標は幸を最下位に飛ばしてあたしが勝つこと)
葵を見やると不敵な笑みでアイコンタクトを送っている。あの様子ではワイルドかワイルドドロー4、最悪場札と同じ黄色のドロー2を持っているのだろう。
幸の足を引っ張るだけが目的ならば容易い。だが、今のところ楓だけが一位を獲っていない。どうせなら一位を獲って手ずから幸に特製ドリンクを飲ませ、気持よく勝ちたいものだ。
楓の脳がフル回転する。
(楓)(緑2、緑7、緑2、緑6、青6、青4、青3、青ドロー2、黄ドロー2、黄ドロー2、ワイルドドロー4……)
楓が思い浮かべているのは場札に出たカードだった。これはカウンティングという、出たカードを全て記憶する技術。
とはいっても普通ならば五十二枚プラスジョーカーのトランプでやる高等技術。プロのディーラーやマジシャンでも難しいものを百八枚ものカードがあるウノでやろうというのだ。
恐るべき記憶力である!
(楓)(……黄2、黄スキップ、黄6、自分の手札が黄0、ワイルド。残りの札はワイルドドロー4一枚、ワイルド一枚、青リバース、青5、赤0、赤6、赤1、黄0、黄6、黄4、緑3。うん、もし葵がワイルドドロー4を持っているのならどの色でもドロー2で返される事はない。残り一枚でワイルド、もしくはワイルドドロー4を残していたらお手つきで二枚引く事になるから幸が持っているのはおそらく数字カード。問題はここでワイルドを出すとして素直に青に変えてウノを宣言するかどうか)
定石としてはラスト二枚でワイルドを出し、自分の目的の色に変える。だが楓の出した結論は。
(楓)「ワイルドで赤に変えてウノ」
(楓)(葵がワイルドドロー4を持っている確率は高い。ならば幸はどうすることも出来ずあたしに手番が回ってくる。そして単純な葵のこと、赤に色替え宣言したならばあたしの最後のカードが赤だと思って他の色に変えてくるはず。そして場の黄色からわざわざ赤に変えたのだから黄色でもない、と邪推してくれるだろう。そうなれば残りは緑か青の二択、勝率五十パーセントなら悪くない賭け!)
果たして結果は。
(葵)「ワイルドドロー4で青!」
(幸)「くっ、でもこれで……」
(楓)「悪いな、そいつだよ」
上がりと宣言した時の二人の顔は、何とも見ものだった。
(楓)「ほれ、出来たぜ」
(幸)「ちょっ、どうやったらこんなの出来るのよ」
幸に渡されたのはスムージーな赤と茶色のマーブル模様の飲み物。
(楓)「トマトジュースと飲むヨーグルトとコーヒーのブレンドだぜ」
(葵)「うわあ、わたし絶対に飲みたくないわあ」
(楓)「ほれイッキ、イッキ」
(幸)「あんたら、後で覚えてなさいよ」
三分の二まで飲んだ幸の腰が砕ける。
(幸)「うっぷ、これ絶対最悪の組み合わせよ……。コーヒーが気持ち悪すぎるわ……」
(葵)「だいじょうぶ~? もう一杯いっとく?」
(楓)「ぎゃはははは! お前今いい顔してるぜ!」
(幸)「あんたら……」
幸がゆらりと起き上がる。
(幸)「容赦なさすぎなのよ! 何なのこの組み合わせは!」
(楓)「コーヒー買ってきたのお前だろうが!」
(幸)「大体二人して組んでんじゃないわよ! あまりにも卑怯すぐるでしょう!?」
(葵)「冷蔵庫から卵取り出した幸に言われたくないわ!」
(幸)「ドリンクっつってんのにヨーグルト買ってきたのはどこのどいつよ!」
(葵)「飲むヨーグルトだからセーフでしょうが! 大体何で私のお茶誰も使ってないのよ!」
(幸)「あんたも使ってないでしょうが!」
(楓)「てめえのコーラでこっちは三途リバーを渡りかけてんだよ!」
(葵)「丁度いいじゃない、いっぺん死んでその莫迦な頭治してくれば? あっ、莫迦は死んでも治らないかあ」
(楓)「上等じゃねえか、もういっぺん地獄見せてやろうかこのキングボンビーが!」
(幸)「大体罰ゲームとか言い出したのは誰よ!?」
(楓&葵)「「お前だ!!」」
世なべて事もなく、日は過ぎてゆくのである。
激運の葵、逆張りの幸、カウンティングの楓のUNO対決、如何だったでしょうか。
たまにははっちゃけたものを書くのもいいよね!