事の発端
この三人は特殊な訓練を受けています。
良い子は真似しないでください。
「でもあれよね、こうやって三人で集まるのも何度目かしらね」
とあるアパートの一室で三人の女の子がテーブルを囲んでいた。
「さあ、この三人っていうのは大学入ってすぐに遊ぶようになったのは覚えてるけど、もう数え切れないくらいだわ」
ショートカットの女の子が言う。名前は倉橋楓。勝ち気な瞳が特徴的だ。
「悪いわね楓、大学から近いからっていつも場所借りちゃって」
そう言った女の子の名は安藤葵。ゆるいカールの髪を二つに結んでいる。
「そういえばあんたら二人は幼なじみだったっけ。私だけ大学からの付き合いなのよね」
ボブカットの女の子がコップのお茶を飲みながら言う。名は砂庭幸。
(以下楓)「葵とは小学生からの付き合いだったかな。思えば長い付き合いだよな」
(以下葵)「けど幸とは出会ってまだ一年足らずとは思えないわね。もっと昔から一緒だったような感覚だわ」
(以下幸)「そうね、私もそう思うわ。何でだろ、妙に気が合ったのよね」
三人思い思いに座ってくつろいでいる。ワンルームの部屋に三人がぴったり収まり、空間に寂しさがない。まるで鼎のように三人一緒だと安定感があり、心地良いと感じるのだ。
(葵)「不思議よね、こんな外道と気が合うなんて」
(幸)「なに? あんたまだ食堂であんたの箸ブチ折った事怒ってんの? あれはあんたが私のラーメンに胡椒入れまくったからじゃないの。トイレから帰ってきたら汁が真っ黒で食えたもんじゃなかったわよ」
(葵)「あ?」
(幸)「お?」
鼎がブチ折れる。
(楓)「おいやめろよ! ここあたしんちだぞ!」
(葵)「だいたいあれは楓が胡椒入れようぜって言ったんじゃないの!」
(幸)「なあに? それ初耳なんですけど」
(楓)「ってめ、余計なことばらすんじゃねえよ!」
(幸)「あんたが原因なんじゃない」
(楓)「実行犯は葵だろうが!」
(葵)「責任逃れしてんじゃないわよ!」
(幸)「あ?」
(葵)「お?」
(楓)「ん?」
外道、鬼畜、ろくでなしの三人が睨み合う。
(楓)「やめようぜ、ここで暴れたら隣から苦情が来ちまう」
(幸)「じゃあどうすんのよ。表出る?」
(楓)「ちげーっての。ゲームでもして遊ぼうぜ」
(葵)「あー、あんたゲーマーだしね。この部屋色々あるわよね」
(幸)「ところで楓のお薦めは?」
楓が引き出しをごそごそ漁りながらしゃべる。
(楓)「色々あるぜ。初代マリオブラザーズ、アイスクライマー、ドカポン、桃鉄、ボンバーマン……」
(幸)「見事に友情破壊ゲームばっかりね……」
(楓)「しかたねえだろ? パーティーゲームってのは多かれ少なかれそういう要素が含まれてるもんだ」
(幸)「平和的に人生ゲームとかの選択肢がないのがあんたらしいわ」
(葵)「けどさ、ゲームも今まで結構やったじゃない? たまには違うことがしたいわ」
(楓)「じゃあカードゲームでもやるか? 漁ってたらこんなのが出てきたんだが」
そう言って楓が取り出したのはUNO。
(葵)「UNOか、何だか懐かしいわね。昔楓とやったことあったっけ。わたしは構わないけど、幸はルール分かる?」
(幸)「私もオーケーよ。でもただやるだけじゃ面白くないわね。何か賭けない?」
(楓)「あたしも賛成だ。何賭ける?」
(葵)「ちょっと、わたしは金品とかは嫌よ」
(楓)「別に物じゃなくてもいいだろ、罰ゲームとかさ」
(幸)「そうね、何にする?」
(葵)「罰ゲームって負けた人にしっぺとか命令とか?」
(楓)「命令はやめようぜ、えげつない事言ってくるやつとかいるしな」
(幸)「何それ私の事言ってんの?」
(楓)「誰も幸の事だって言ってねえだろ。それともクズだって自覚してんのか?」
(幸)「いい度胸じゃない、表に出なさい」
(楓)「おう」
(葵)「おう、じゃないわよそこのヤンキー共。喧嘩しないようにゲームしようって話だったでしょ」
葵の言葉に楓と幸が冷静になる。
(楓)「そうだったな、じゃあ何賭ける?」
(幸)「激マズドリンクとかどうかしら」
(葵)「なに幸、まだ胡椒ラーメンの事根に持ってるの?」
(幸)「そうよ、あんた達二人にも地獄を味わってもらおうと思ってね」
(楓)「ほうほう、幸さんはもう勝った気でいやがりますか。どう思います奥さん」
(葵)「いやあねえ自信過剰な女って。今からそんなフラグ立ててると痛い目みますわよ」
(幸)「しばくわよあんたら。……で、どうなのよ、受けるの?」
(楓)「オッケー、やってやろうじゃねえか」
(幸)「じゃあ混ぜるようの飲み物買いに行きましょうよ。一人二、三種類くらいで被らないように」
再び部屋に集まる三人。
(楓)「じゃあ買ってきた物を出そうぜ。あたしは定番の青汁とトマトジュース」
(葵)「わたしは控えめにお茶と飲むヨーグルトとコーラ」
(幸)「私はコーヒーと紅茶よ」
三人共うげっという表情になる。
(楓)「飲むヨーグルトはやべえだろ」
(葵)「コーヒーみたいな味の濃いものよりはましでしょ」
(幸)「青汁とトマトジュースとか地雷臭しかしないじゃない」
(楓&葵&幸)「「「…………」」」
しばしの沈黙のあと、神妙な顔で切り出したのは楓だった。
(楓)「じゃあルールを確認するぜ。一番がこの中から三種類選んで混ぜ、それを三番が飲む、二番はセーフだ」
(葵)「UNOのルールはどうするの? ローカルルールとかあるんじゃない?」
(幸)「それは確認しておきたいわね。私だけ出身地が違うわけだし」
楓がカードを取り出す。
(楓)「じゃあ基本的なことも含めて確認するぜ。カードは赤、青、黄色、緑の四種類の色がある。それに0から9の数字と数種類の特殊カードが組み合わさって計百八枚ある。数字カードが各色二枚ずつ、0だけ各色一枚。記号カードが各色二枚ずつ、それに加えてワイルドカードとワイルドドロー4が四枚ずつで百八枚だ。次の人が出せるカードは色が同じか数字もしくは記号が同じカードのみ。ワイルド系のカードはどの色にも対応出来て、出した人は次の色を指定できる」
(幸)「記号カードは
リバース……順番を反対に
スキップ……次の人の順番を飛ばす
ドロー2……次の人は山札から二枚引く
ワイルド……次に出す色を好きな色に変えれる
ワイルドドロー4……ワイルドの効果に加えて次の人は山札から四枚引く
よね?」
(葵)「順番はじゃんけんで勝った人が一番、あとは時計回りでいいんじゃない? 二回目からはトップの人からで。リバースとスキップはどうなるの?」
(楓)「リバースは順番が反対に、スキップは一つ飛ばされるカードだが、まあ三人しかいないから実質効果はほぼ同じだな。ただリバースを使った場合は時計回りが反時計回りになる」
(幸)「ドロー2の後にワイルドドロー4はいいのよね?」
(楓)「ああ、ワイルドドロー4の後の色替えで対応した色のドロー2を持っていた場合も重ねて出せる。その場合最終的に出せなかった人がまとめて山札から引かなくてはならない。例えば緑ドロー2→ワイルドドロー4で赤を指定→赤ドロー2ときて出せなかった場合合計八枚カードを引くことになる」
(幸)「オーケー、勝者はカードが失くなった人でいいとして、二番三番はどう決めるの?」
(楓)「得点加算式にしようぜ。最後に持ってたカードに対応する得点の合計が一番多かった奴が負けだ」
(幸)「あらそうなの? 確か公式ルールでは敗者のカードの得点を勝者に加算して五百点先取だったと思ったけど」
(楓)「そうなのか? まあ三人しかいないし一発で決まった方がいいだろ」
(葵)「得点はそれぞれ何点なの?」
(楓)「数字カードはそのままの数字が得点になる。0は十点だ。記号カードは二十点、ワイルドとワイルドドロー4は五十点」
(幸)「じゃあ強いカードを残しておくとデメリットもあるわけね」
(楓)「そういうこった。あと最後の一枚がワイルドかワイルドドロー4だった場合は山札から二枚引いてもらう。それ以外パスは山札から一枚引く」
(幸)「ワイルドドロー4のチャレンジはどうするの?」
(楓)「あん? 何だそれ」
(幸)「ワイルドドロー4は場札に他のカードを出せない場合にしか置けなくって、チャレンジを宣言するとワイルドドロー4を出した人の手札をチェックできるの。出した人が本当に場札に対応したカードを持ってなかった場合は宣言した人がペナルティ、フェイクだった場合は出した人がペナルティ」
(楓)「あたしらがやってたのはそんなルールはなかったなあ。んー、それだと自分の手札をみせなきゃならんし、チャレンジはなしにしようぜ」
(幸)「わかったわ。始めましょう」
(楓)「じゃあ各人七枚ずつ行き渡ったな? 最初のカードをめくるぜ」
楓が山札からカードをめくる。カードは緑リバース。
(幸)「……こういう場合どうするの?」
(葵)「わたしらは数字が出るまでめくり直してたね」
(幸)「オーケー、じゃあめくって頂戴」
カードは赤3。
(楓)「じゃあ順番決めようぜ。最初はグー、じゃんけんほい!」
グー、チョキ、チョキで葵の勝ち。
(葵)「わたしからだね。青3」
(楓)「かあ、いきなり色変えてきたかあ。青7」
(幸)「ふふふ、こういうのも和やかでたまにはいいわね。青0」
(葵)「そうだね、青ドロー2」
楓の顔が強張る。
(葵)(ふふふ、わたしってカード運いいんだよね。二人には悪いけど負ける気がしないわ)
葵の手札は残りワイルドドロー4、赤リバース、青スキップ、赤スキップ、黄5。これだけ揃えば勝ち筋は見えている。
(楓)「てめえ……」
楓が葵を睨みながら二枚引く。
(幸)「次は私ね。青しか出せないから、青1ね」
そこからは一方的だった。
(葵)「青スキップ、赤スキップ、赤リバース、ワイルドドロー4で黄色、う~の! そしてとどめの、黄5!」
残ったのは山のように手札を持っている楓と残り五枚の幸。
(楓)「てめえ、狙い撃ちしやがって」
(葵)「いやあ、運が良かったなあ」
(幸)「それにしたって偏りすぎじゃない? イカサマはしてないのよね?」
(葵)「不正はなかった」
(楓)「忘れてたぜ、こいつ昔からこういう時やたら運が良いんだ。ぬかったぜ」
(幸)「ところで敗者にはドリンクよね?」
(楓)「ぐっ」
怯む楓。
(楓)「わーったよ。三種類選んで混ぜてくれ」
(葵)「じゃあ青汁とー、トマトジュースとー、コーラ!」
(楓)「最初だろ!? ちったあ情けってもんはねえのか!?」
(葵)「自分で買ってきたんだから自分で処理しないとね~」
(幸)「自業自得だわ」
(楓)「ぐっ、てめえら覚えてろよ……」
出来上がった茶緑の液体を手に持ち顔を引きつらせる楓。
(楓)「なあ、これ泡だってんだけど」
(葵)「コーラは優しさだよ。ほかを薄めてるんだよ」
(幸)「当然一気飲みよね」
(楓)「ぐっこの鬼畜生共があ! やってやらあ!」
ごっごっごと喉を鳴らして飲み切る。
(葵)「どう?」
(幸)「目が虚ろになってるわね」
唐突にカッと目を見開きトイレに駆け込む楓。
(楓)「うげえええええ!」
(葵)「ちょ、大丈夫?」
(幸)「乙女がしちゃいけない顔をしてるわよ!」
しばらく咳き込み、五分後にようやく落ち着いた楓が顔を上げて言う。
(楓)「大丈夫だぜ。ちょっと炭酸が器官に入っただけだ。思ったより美味かった。さあ続けようぜ」
(幸)「いや、鼻からドリンク出しながら言っても説得力ないわよ」
(葵)「やっぱこれやめにしない?」
ドン引きの二人。
(楓)「なあに言ってやがる、大丈夫だって」
そう言って二人の肩に腕を乗せる楓。
(楓)「今更逃げはナシだよなあ?」
(葵)「あ、葵さん用事を思い出したような」
(楓)「逃がさん」
(幸)「……わかったわよ。続けましょ」
しぶしぶと席につく二人。
短編のつもりが長くなったので分割しました。
続きは連日投稿します。