夏と共に去りぬ
11.
ムゥの脚は、二人の消えた場所に落ちていました。
拾ってくっつけると、痕も残らず元通りになりました。以前と同じように歩き、走り、まったく問題ありません。無事セヴァを蹴飛ばすこともできました。自分の意思で移動できる身体の、なんと有難いことでしょう。
余談ですが、脚を取り戻した際は、酷い目に遭いました。焦ってすぐに装着してしまったため、あまりの痛みに悶絶する羽目になったのです。姫人形が裸足で森を踊り回ったものですから、爪という爪は欠けて割れ、土や小石が入り込み、切れて痣だらけの傷だらけ。セヴァが治してくれましたが、順序を間違えたと、つくづく後悔しました。
ヘンゼルは、ケーキを作って与えたら、機嫌が直りました。単純で助かります。相変わらず目に付いたものを拾っては来ますが、今のところ、その中に人形はありません。あったら速攻で焼却炉へ放り込め、と厳命してはいますが。
あれから二十日ほど経ちました。
今日も一日、何事もなく終わって、三人は平和な寝床にいます。
なんとなく寝付けず、ムゥは寝返りを打ちました。
隣では、セヴァがヘンゼルを抱き枕にしていました。
取り返すべく、高い鼻を摘まんでやります。
がっ、と寝息を詰まらせてヘンゼルを手放し、ごろり転がって、セヴァは、腹を掻きました。じき鼾の続きが聞こえます。これでよし。
ヘンゼルの金髪を撫で、ムゥは、布団を肩まで引き上げました。
カーテンの隙間から、青白い月光が漏れています。
そうえいば。
ムゥは、ふと思い出しました。
害はないから、と前置きして、セヴァの教えてくれた話。
ちょうど、今夜のように満月の美しい夜は。
瓢箪池で、ふたつの人影が、寄り添って湖面に踊っている。
そんな光景を、見ることがあるのだそうです。
ひとりでワルツを/了




