過去は墓場まで持っていきたい2
「あの母さんは」
深愛さんの声に怒りが混じる。それは、誰に向けられたものか、おそらく母親だけでは無いだろう。
俺はその一言でほとんど理解した。母親の性格を知っていればすぐに分かる。
先ほど田原さんに母さんのことを説明した時は「愛に生きる人」と答えたが、簡単に言ってしまえば「ヤンデレ」である。つまり。
「父親が病院に搬送された後、母親が最初に言ったのが『なんで刺さなかったの』だったの。───ああ、持ってたのは包丁なんだけど───強盗に襲われた後母親が娘に言う言葉じゃ無いよね、母親だからしょうが無いとも思ったけど」
やはりか、母さんらしい。
実は、余りにも母さんが父さんにべったりなので、一度、正直に答えて欲しいと質問したことがある。
「父さんと俺、どっちが大事?」と聞いたら「鋼太」と0.5秒後に返って来た。
ともかく、それぐらい母さんの愛情は深い。
父さん限定で。
ある程度ものごころついたあと考えた時には、育児放棄しなかっただけましか、と思ったものである。一応は俺にも優しかった。性格は同じようなので深愛さんも同じだろう。
「その後、反省してたみたいで謝ってきたけど、なんというか、家族で溝ができたみたいだった、母親はよそよそしくなったし、父親はあんまりその問題に踏み込んでこなかったし」
まあ、当たり前だ。そんなことがあったのに平気な顔していつも通り話しかけられる人間そうそう居ない、そんなの俺ぐらいだろう。
どうやら、かなり境遇が違うようだ。性格が違うのも当たり前か。
「結局、誰が悪いんだろうね、こんなふうになったのは、あんなことを言った母親が悪いのか、仲を取り持とうとしなかった父親が悪いのか、家に入ってきた強盗が悪いのか、それとも」
「強盗を刺さなかった私が悪いのかな」
悪いのは誰か。
ここからは深愛さんを「壊さない」という目的にも触れてくる。
慎重に答えよう。
「そうですね」
でもそんな必要ないか。
「普通に考えれば悪いのは強盗と母親でしょう、前者はどストライクに犯罪ですし、後者は責める人を間違えてます。気持ちは分かりますけど」
まあ当然だよね。
「多分深愛さんは母親の気持ちが分かるから悩んでいるんでしょうけど、もし刺していたら精神的にも立場的にも危なかったでしょうし」
「人を刺すことはいいことじゃ無いんですから、そんな憧れないでください」
ふう、しゃべり切った。これで少しは安全圏になったか。
「でもそういわれても……………」
意外にもまだ考えを変えないようだ。というか人を刺すことに憧れてるのを否定しないんですね。
なんて考えていたら深愛さんが衝撃の一言を口にした。
「同じようなことがもう一回あったし……」
………………………………は?