過去は墓場まで持っていきたい
「私は父親が刺されたことがあるから」
なんというか……………だいぶ重い答えが返って来たな。
「刺された?なんで?」
「強盗に入られてね、父親が最初に気づいたんだけど、強盗がパニックになって、持ってたナイフで………………」
辛い記憶のようで、途切れ途切れに話す深愛さん。
「ちなみに父親は」
「生きてたよ、その時は本当に安心した」
父親の性格が同じなら、だいぶしぶとい人だろうしな。
「さっきの人に『どれぐらい同じなのか』調べるって言われた時に、同じようなことを経験してるのかなって思ってさ、それで聞いたんだ」
そういうことか。
「すみません、辛い思い出を話させてしまって」
「ううん、いいよ、こっちこそごめんね、こんな暗い話聞かせちゃって」
さて、これで深愛さんと同じなのが結構絞られて来たわけか。
残っているのは遺伝子を調べるとかしか残ってないだろうな、後で田原さんに今の話と一緒に話しておこう。
「ごめん、何度も悪いんだけどもう一個だけきいていい?」
「構いませんよ」
本当ならもっと質問が出ないとおかしいんですから、なんで俺あんまり気にならないんだろう?
「もし、さ」
「はい」
「自分が武器を持ってて、それを目の前の人に使わないと、大切な人が死ぬとしたら」
「目の前の人、殺せる?」
……………なんとも重い質問だ、
けど
「多分、殺せるかもしれないですね」
俺のことだ、深く考えずにサクッとやってしまうかもしれない。
一応経験あるし。
「やっぱり、性格は違うんだね」
深愛さんの目がまた悲しいものを見る目に………なってない、それどころかむしろ、
憧れているような目で俺を見ている。
見間違いだとは思うが、もしまちがいでなければ、
……………………………なんか仮説が立ってしまった。が、とりあえず無視。
「まあ、考えるのとやるのでは全然違いますから、僕も実際そうなったらできないかもしれないですし」
心の中の九割は殺せるに一票いれてるけど。
「それに殺せないほうが健全でいいじゃないですか、そんな人普通いませんよ」
ふつーはね、ふつーは。さっきから俺の口と心が真逆のことばっかり考えてるのだが。
「そうだよね、ごめんね変なこと聞いちゃって」
「こっちからも質問してもいいですか?」
「うん、いいよ」
さて、と。
俺は無視した仮説を振り返った。
「その質問って強盗のことと関係ありますか?」
深愛さんの顔が一瞬止まる。
あんまり人のプライバシーに踏み込んではいけれど、気になってしまったし、何より、
スプラッターな出来事は人を壊すか狂わせる。
おせっかいかもしれないけど、これでも何人かそんな人に会ってるから、
その人達のように酷くしたく無い。
「もしかしてなんですが、あなたは父親が刺された所を何か武器を持って見ていたんじゃ無いんですか?」
「……………………なんで…………………………分かるの……………?」
あたりのようでなにより。
「まず、強盗がパニックになったところです、後から警察に聞いてもそこまではわからないでしょうし、父親はそういう辛いこととかは基本話さない人でしたから、つぎにさっきの質問です、質問のタイミングからしてどう考えても強盗がらみでしょう、そして最後に僕が答えた後です、見事に顔に感情が出てましたよ。」
ふう、珍しく長く喋ってしまった。
しかし、まだつづけねば。
「あなたは父親が刺された所を見たまま動けなかった、だからあんな質問をしたのでは無いですか?」
「…………………そうよ」
深愛さんが肯定する。
「でも、殺せるわけ無いよね、そんな度胸無いし、手も足も震えっぱなしだった、ものすごく怖かった、でも、それなのに」
「あの母さんは」