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幕間:vector D→A ~Dくんの煩悩~

「―じゃあね、ダイチ」

「おー、頑張れよー」

ぶんぶんと手を振って、教室を出て行く明日香を見送る。

「・・・はあ」

おれは後ろに手をついて天井を見上げた。

「やっべ、まだ心臓バクバクいってるし」

少し前に告白してから何か知らねーけどおれに対して信頼みたいのが生まれたみたいで、こんな風に頼ってくれることが多くなった。それはすげえ嬉しいし、男としてはグッとくるものもあるんだけど。

・・・あるんだけどさ。

「明日香が可愛すぎて死ねる、とか言ってみたりなんかしちゃったりして」

言っとくけど冗談じゃねーぞ?マジだかんな。

だってもう・・・普段あんなにつれないのに二人になると急にデレるとか、

「反則だろ、もう・・・」

さりげなくくっついてみても何も文句言わねーし(むしろ向こうからもくっついてきてくれるし)、正直言ってイケナイ気持ちを起こしそうになったことは一度や二度じゃない。

「おれいつまで()つかな・・・?」

いつ理性が途切れるか、おれとしても自信がないところだ。でも。

「付き合ってるわけじゃないもんな・・・」

旭を諦めたのは確かみたいだけど、結局明日香の気持ちがどこを向いてるのかは分からないままで。

おれのことを好きじゃないのに手を出してしまったら最後、今度こそ本当に・・・嫌われる。

「それに仮にだ、仮に明日香がおれを好きで今後付き合えたとしよう」

公認の仲になればわざわざ突っかかる必要もなくなるわけで。そしたら、もしかして今のツンデレ明日香が見られなくなったりして・・・。

「それはそれでなーんか勿体無いような気がするんだよなあ」

あー、もうどうしたいんだよおれ。

でもこれって完全に生殺しだしな・・・。明日香って意外に魔性の女?魔性の女っていうとこう、露出高めのドレスで迫っ・・・あっちょっと待てエロい想像に走るなおれ!無し!今の無し!

「あっぶねー・・・」

魔性(以下略)はやめよう。じゃあ小悪魔、とか?そういや何かの漫画で見たけど、悪魔のコスチュームって結構胸元が開いてたりとかして目の保養に・・・じゃねーし!何でそっちに発想が飛ぶんだよおれは!?あ、待って今すっげぇリアルに明日香の悪魔コスが想像出来・・・すんじゃねーよ!そんなことやってる場合か!?

・・・ごめんなさい。男は所詮ケダモノです。

妄想の中の明日香(天使コス)が突然眼前に迫り、

『何考えてんの、このエロダイチ!!』

ぱっしいいぃぃん。鮮やかな紅葉マークを頬に受けてぶっ飛ぶおれ。

『最ッ低!!』

『ちょっと待って明日香!行かないでえええええ』

「はは・・・は・・・」

リアル過ぎるゆえに笑えない冗談に顔面が引きつるのを感じながら、おれは自分の理性がちゃんと保ってくれることを切に願った。



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