君がくれた物語
肩の力を抜いてから読んでください。
コンクリートの塔に、あちこち切り取られた青空。
ふと見上げると、真っ白な線が、空にひとすじ。
飛行機雲。
君と二人で、空を見上げていた。
堤防から見える空は、どこまでも広くて、見下ろした川面は青く輝いていた。
「どうして空が広いのか、知ってる?」
空を見上げたまま言う君。
「…わからないよ、そんなこと。」
ソラって、漢字で書いてごらん、と君は言う。
僕は指で空中に『空』と書いた。
「それ、なんて読む?」
「ソラでしょ?」
君は首を横に振った。もう一つは?
「カラ?」
今度はうなずいてくれた。
「空って本当は、こっちの地面と同じだけの広さしかないんだよ。でも……。」
中身がなくて空っぽだから、広く見えているだけなんだ。君はそう言った。
飛行機が大きな音を立てて、二人の上に影を作る。
一筋の、白い飛行機雲。
「じゃあ、飛行機雲はどうしてできるのか、知ってる?」
君はまた、空を見上げたまま言った。
僕は何も言わずに、君が話してくれるのを待った。
「あれはさ、足跡なんだよ。」
なんの跡もついていない雪原に足跡をつけたい、って思うでしょ?空には何もないから、人は空に足跡をつけてみたいから、飛行機雲ができるのさ。
ふと見上げた空。
君の物語と、故郷の青空を思い出した。
いつも変わらずそこにある、何もない空。
白い足跡は、どこまでも長く続いていた。