第5話「凍てついた遺跡の街ルイーネフリーレン」
[高原と闇の荒野の世界ウェイスハイト-文明レベル 中世-]
ウェイスハイトは高原一帯を治めるハイランド王国と闇の荒野と呼ばれる霧に覆われた低地一帯を支配するフェルム帝国そして魔獣の森と呼ばれる広大な森林の中にある結界に守られた魔法都市国家マジーアルノの3つの国が大まかに支配する世界である。
そして、ハイランド王国は人間、フェルム帝国は人魔、魔法都市国家マジーアルノはエルフの国である。
この3国は、通商連合と呼ばれる巨大な通商機関の仲立ちで交易を行う事で成り立っていて、通商連合に実質上支配されている状態であった。
しかし近年、暗黒武装鉄道結社シュバルツァークロイツが鉄道網を整備し営業を開始した事でその支配が揺らぎ始め、通商連合が危機感を募らせている状態である。
今までは、文明ランクに合わせ蒸気機関車牽引の貨物や客車の運行にとどまっているが、数ヵ月前から通商連合の手引きと思われる機関区のストライキが頻発し車輌運行に支障をきたしている。
事態を重く見た中央運行管理局は自動運行可能なTCAI装備型の中央幹線車輌とその整備の人員を一時的に投入し事態を打開しようと考えていた。
そこで白羽の矢が立ったのが、固定された運用区間を持たない回遊特急列車と亜空間軌道の貨物輸送を担当しているTCAI 装備の気動車型のレールカーゴ達であった。
[ルイーネフリーレン局地ターミナルステーション]
凍てついた遺跡の街と言われるルイーネフリーレンは、3つの国のほぼ中間点に位置し、共同で統治をしている街である。
この街の地下には広大な遺跡があって、発掘が盛んに行われ古代文明の遺産が毎日大量に掘り出されている。
これらを買取、馬車輸送網で輸送し販売するために生まれ、事業を拡大していったのが現在の通商連合である。
つまり、この場所は通商連合の拠点なのである。
そして、そこにシュバルツァークロイツの局地ターミナルステーションが存在するとは何とも皮肉な話である。
駅員
「11番線に到着の列車は当駅止まりの列車です。ご乗車になれませんのでご注意ください。」
11番線にSnow expressが速度を緩めながら入っていく。
先頭車の運転台にはスノウが座り、列車をマニュアルで動かしている。
TCAI装備の列車は本来全ての操作がTCAIの遠隔操作で自動で行われているのだが、スノウはインターフェースデバイスの身体を介して、列車をマニュアル操作する事が多い。
理由は、「こうじゃないと雰囲気が出ないから」だそうだ。
コンピュータらしからぬ非合理な理由だが、スノウらしい理由でもある。
ジリリリリリ……
列車が互換性のある旧式のATS地上子を踏み警報が鳴動する。
スノウ
「ATS確認……よし」
スノウは指差し確認を行いながら、ATSの確認扱いを行い警報ベルを止める。
キンコンキンコンキンコンキンコン……
確認扱いを受けたシステムは、注意喚起用の警報音に切り替える。
そして列車が停止位置で止まると、警報音の鳴動が止まる。
スノウはすぐさま運転台の椅子をたたみ、ドアスイッチでドアの開閉扱いを行い、さらに車内放送を行う。
リアン
「いつみても思うんだが……」
スノウ
「ん?なぁに?」
リアン
「意外と器用なんだなお前……」
普段のドジっ子ぶりからは想像できないアクロバティックな動きに、リアンが呆れている。
スノウ
「アクロバティック運行だよ♪」
リアン
「なんだそれ?」
スノウ
「アクロバティックにするのが今の流行りなんだよ♪」
リアン
「まぁ、それなら普段もアクロバティックにやってくれ。」
スノウ
「やってるじゃん!!」
リアン
「どこがやねん!!!」
スッパーン!!
思わずツッコミを入れてしまったリアンだったが、直後に言い様の無い敗北感がおしよせる。
言い表すなら、チキンレースに負けた様な……
スノウ
「だから叩かないで!!」
リアン
「いや、ツッコミを入れないとボケた人に失礼だとおもってな……」
スノウ
「ボケてません!!貴女は何処の関西人ですか!!ほんとに……」
頭を両手で押さえながら抗議するスノウだが、リアンが悪びれる様子はない。
リアン
「まぁ、そう怒るなって、あそこ見てみ、懐かしの列車が居るぞ。」
スノウ
「そうやっていつも話題を変えて誤魔化すんですから、今回は騙されま……え?!、キハ85……」
いつもの様に、話題のすり替えで誤魔化そうとするリアンに、今回は騙されないぞと自分に言い聞かせつつスノウは彼女が指差す方向をみた瞬間固まった。
その先の3番線には、白く塗装された綱製の尖った顔を着けたステンレスの車体、ダークグレーの窓周り、窓下のオレンジ色の帯、自分と全く同じ足周り、そう名鉄時代のライバルワイドビューひだ、キハ85であった。
スノウ
「ちょっと見てきます!!」
固まっていたスノウが、急に走りだした……3番線に向かって。
リアン
「おい!!車内清掃はってしょうがないなぁ……ったく、音信不通だった肉親を見つけたぐらいの勢いだな。」
呼び止めようとしたが、すでに無理だと解ったリアンは、おもむろにタバコに火を付け、ひと吸いして考え込む。
どうやら、スノウはこの列車自体の記憶を受け継いでいる。
理論的にはあり得ない事だが、スノウの言動が、それを実証している。
例えば、車体の汚れや錆を異常なまでに嫌う点、恐らく会津鉄道の苛酷な環境での運用で車体が錆てボロボロになった記憶からだとしか考えられない。
他には、ミュージックホーンへの異常なまでのこだわり。
名鉄特急の車輌なのに、諸事情でミュージックホーンが搭載されなかった記憶が影響しているとしか解釈できない程のこだわりだ。
リアン
「おい駅員、しばらくこのホームに停車しても問題ないか?」
駅員1
「大丈夫っスよ、ここの機関区がスト中っスから普通列車は全面運休、ホームに余裕がありすぎて困ってるくらいっスよ。」
リアン
「そうか、なら遠慮なく停めさせて貰うぞ。」
駅員1
「了解っス。」
駅員の敬礼を受けると、リアンも3番線に向かって歩きだした。
リアン
「問題は、向こうのTCAIがスノウと同じように、車輌の記憶を受け継いでいるかどうか……って何を心配しているんだ私は……」
リアンは苦笑いしながら、歩くのを速めた。
一方、残された駅員は……
駅員1
「これはまた凄い車輌が来たっスね、だけどこんなバケモノ投入したら通商連合を完全に追い詰める事になるっス……中央は何を考えてるっスか?通商連合を追い詰めればこの世界が火の海になることぐらい解る筈っスよ……」
迫り来る不穏な何かを感じ取っていた……
…To be continued
やっぱりきな臭くなっちゃいました。
まぁ、暗黒武装鉄道結社ですから、国から独立した軍事力も持っているしある程度はしょうがないのかなぁ。
脳内のフラウ総帥がまたもや陰謀を張り巡らせています……
なんかキャラクター達が勝手に動き始めた感じで、作者なのに制御不能かもです(ToT)
もうこうなったら成り行きを楽しむしかないと諦めモードに移行。