第3話「亜空間軌道へ」
”Snow express”は8‰(パーミル:1‰で1000メートル進むと線路の高さが1メートル上昇する)の勾配のトンネルを豪快なエンジン音を響かせ駆け上がっていく。
ぐんぐんと加速し、通常軌道(普通の線路の事)での限界速度120km/hに達した。
スノウ
「一番のりぃ~♪」
リアン
「まったく・・・」
乗務員室ではしゃぐスノウの様子を見て、リアンが呆れ顔でため息をついた。
スノウは旅客列車用とはいえ高性能なオプテラシリーズのTCAIの最新型である。
最新鋭のTCAIのメンテナンスができる!!
そう思い乗り込んだ結果がこの子守り状態である。
そりゃため息のひとつも出るであろう。
スノウ
「景気付けに、どけよホーン・・・」
悪ノリしたスノウが懲りもせず3号車運転台のミュージックホーンペダルを踏もうとした。
リアン
「だから、中間車輌で鳴らすなって!!」
すかさず、リアンがスノウの頭をこつき、スノウが頭を抱えてうずくまる。
スノウ
「ウグググ・・・整備員さんなのにボクを壊すつもりですか?」
涙目になりながらスノウが抗議する。
どうやら痛みは感じる様に作られているらしい。
リアン
「ああ悪い、ちょうど良い位置に頭があったからついな♪」
悪びれる様子も無く、リアンは煙草に火をつける。
その様子を見てスノウは手足をばたつかせて・・・
スノウ
「精密機械なんですから大切に扱って下さい!!!あと全車禁煙ですぅ!!!壁が黄色くなるから止めて下さい!!!」
・・・と顔を真っ赤にして訴える。
リアン
「硬い事言うなよ、お前のたっての願いって事で、ミュージックホーンを(無許可で)増設してやったんだし♪」
しかし彼女は、煙草の煙をスノウに吹きかけ、過去にスノウの無理を聞いて車輌の無断改造を行った事を持ち出した。
そう、このキハ8500系気動車に本来搭載されていないミュージックホーンが搭載されているのは、リアンが無断改造をして特注品を取り付けたからなのである。
今回のミュージックホーンはスノウの願いで取り付けたが、彼女は無断魔改造の魔術師と呼ばれる無断改造の常習犯なのである。
彼女は、ナイポという小さな世界にあるこの列車の修理を担当する車輌工場の工場長と古い友人らしく、工場に回送される度に工場長とつるんでこの車輌に魔改造を繰り返している。
例えば、本来は搭載されていない筈の車体傾斜装置も、寒冷地仕様の傾斜角6度の曲線ベアリングガイド式のこれまた特注品が取り付けられていたりする。
スノウ
「ゲホッゲホッ・・・そ・・・その件については感謝してますけど・・・ってか煙草の煙は精密機械には大敵なんです!!!ほんとに整備員ですか貴女は!!!」
リアン
「ほぅ、なら整備員である証明にお前を分解してやろう♪なぁスノウ♪」
煙たがりながら更に抗議をするスノウに、リアンは邪悪な笑みを浮かべながら、右手にドライバー、左手にスパナを持って迫る!迫る!!迫る!!!
スノウ
「ヒッ・・・ワ・・ワゴンサービスしてきます。」
その恐怖に押され、スノウは逃げる様に乗務員室から出ていった。
リアン
「ふぅ・・・さてと至福の一服の続きを・・・」
逃げるスノウの後ろ姿を見送り、勝ち誇った様に煙草を吹かそうとしたリアンだったが・・・
シュゥゥゥゥ
乗務員室の二酸化炭素消火装置が作動した、しかもピンポイントで・・・
リアン
「あのヤロウ!!私を殺す気か!!!」
怒りの中乗務員室の扉を開けようとした彼女だったが・・・
ガンッ
扉には遠隔操作でロックがかけられていた。
リアン
「ちょwスノウww」
思わずひきつった声を上げるリアン、まぁ当然だろう一歩間違えば死ぬ状況なのだから。
スノウ
「煙センサーが作動しちゃいました☆テヘッ☆」
リアン
「てへじゃねぇって、はやく止めろマジで死ぬからコレ!!!」
スノウ
「えーと、人にお願いするときは、ちゃんとお願いしないとダメなんですよ♪」
リアン
「(コイツ、マジでぶん殴りてぇ)お願いします、扉を開けてください。」
スノウ
「煙草の件は♪」
リアン
「(後でぶっ殺す!!!)もう吸いませんからお願いします。」
その後、扉が開いた瞬間に血の雨が降ったのは言うまでもない。
それはさておき、列車は無事に滑走軌道のトンネルを飛び出し、空中軌道区間に入った。
空中軌道区間と言うのは、列車に装備されたエアレール(空中軌道)システムで空間を固定し固定された空間の線路を敷きながら走行する区間である。
この空中軌道区間で11次元移動が可能な速度200km/hまで加速し亜区間軌道区間に侵入するのである。
亜区間軌道上の誘導信号所(亜区間軌道の入口にある信号所でここで列車の待機等が行われる)からの誘導重力波(重力波が11次元で伝達される事を利用した誘導電波の様なもの)を頼りに、亜区間軌道の入り口を目指し列車はブリザードの中、高度を上げ、それと同時に車体は赤い光に包まれそして空間の裂目に飲み込まれる様に消えた。
…To be continued
ナイポの工場で吹いてしまった人、中々の手練れですね。
ちなみに、ナイポというのはアイヌ語で小さな川という意味で、苗穂の語源になっています。
そう、モトネタはあの北海道の変態気動車軍団を誕生させた魔改造の聖地苗穂工場です。
実は、曲線ベアリングガイド式の振り子はここで実際に作られたもので、北海道の過酷な自然環境(白い魔物とか超低温とかete )でも平然と動くバケモノです。
さらに、山手線でも通用する加速力を持つ気動車とか・・・
とにかく、苗穂工場の生み出す変態クォリティー全開な車輌って凄いんです。
最後に、マニアックなネタが次々と飛び出しますが、今後もお付き合いくださいませ。