第1話「スノウとリアン」
小説のスタイルを名前入りに台詞に修正しました。
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「ゴシゴシ♪錆びたら大変♪鋼製車♪」
意味不明な歌詞だが、楽しそうな歌声が駅のホームに響き渡る。
歌声の主は、ホームに停車中の車輌をモップで丁寧に洗っている女の子・・・いや男の娘・・・もとい男の子である。
男の子の名前はスノウ=オプテラ、赤地に金色の装飾を施したまるで音楽隊のようなロングコートの制服に身を包み、制服に合わせた昔の軍帽を思わせる帽子を被り、そこから覗かせる髪は片方だけ三つ編みに結われた白髪の女の子の様なショートヘアー、色白の透き通った肌の華奢な身体、整った可愛らしい人形の様な顔建ちと、その姿はどう見ても女の子そのものであるが、一応男の子である。
そして、彼が洗っている車輌は、アイボリーの車体にオレンジとグリーンのラインそしてブラウンの窓周りが特長の車輌、そう行方不明になっていたキハ8500系気動車である。
気動車に男の子という組合わせに新種の萌えか?と首を傾げるかもしれないが、これには訳があるのだ。
実はスノウはこの列車に装備された完全自立型の列車運行管理システムTCAI(Train Control Artificial Intelligence)で、いま車体の掃除をしている男の子の身体はインターフェースデバイスでしかなく、本体は列車内に分散配置された量子コンピュータユニットなのである。
言い換えれば、このキハ8500系気動車自体が彼の身体なのである。
さて、ではなぜこの様なシステムを列車に装備しなければならないのか?理由はこの列車が走る軌道にある。
この列車は、通常の軌道以外に次元を超え異世界同士を結ぶ亜空間軌道と呼ばれる軌道を走行する。
当然、11次元の座標移動をするための膨大な計算やその軌道走行に必要な機器を制御するための高い処理能力を持った制御システムが必要となる。
更に、亜空間軌道走行用の機器の制御は極めて複雑かつシビアで、マニュアル操作では事故の危険がつきまとう。
絶対にミスをしない運転士として生み出されたのが彼の様な人手を介さず自らで考え判断し列車を運行させるTCAI なのである。
女性
「お前・・・今日も洗車してるのか?」
スノウ
「あ、リアンさんおはようございます!!」
振り返り挨拶をするスノウの前には、白色の白衣の様な制服とその制服に合わせた白い鉄道員の帽子を被った美しい金髪の女性が立っていた。
彼女の名前はリアン=ウィンチェスター、この列車に乗り込みスノウのシステム全般の保守する専属の技術員である。
リアン
「昼だけどな・・・それより、お前のその洗車にかける情熱の理由を聞きたいね。」
スノウ
「昔みたいに錆びてボロボロになるのは嫌ですから・・・」
リアン
「ふーん、お肌ケアとかする感覚みたいだな・・・洗い過ぎて塗装剥がすなよ♪」
スノウ
「はうぅぅぅ(>_<)怖い事言わないで下さい!!怒りますよ!!!」
リアン
「あははは、お前は怒っても可愛いだけだろ。」
プゥっと両頬を膨らませ怒りを表現するスノウの頭を、リアンはポンポンと軽く叩きながら大笑いする。
すると、スノウは両手を振り回して更に激しい怒りを表現するが、リアンはその頭を抑えて、スノウの前進を阻止する。
当然、リーチの短いスノウの腕は空を切るという非常に微笑ましい光景となってしまう。
まぁ、スノウのシステムが制限モードであるが故なのだが・・・
スノウのシステムはオプテラシリーズと呼ばれる戦闘列車を制御するシステムをベースに旅客列車用の追加機能と
危害防止のために能力制限が加えられるようにした派生型である。
制限モード時には本来システムが持つ能力が制限されている。
当然インターフェースデバイスの運動能力も大幅に制限されているのだ。
彼が通常モードだった場合はこうは行かないが、リアンは彼が制限モードであるサインを見てこの対応をしたのだ。
そのサインは簡単である。
彼の眼の色と耳の部分にあるヘッドホンの様なイヤーユニットから生えている突起部分の発光ユニットの色である。
そこが淡い青色ならば制限モード、鋭い赤色ならば通常モードであることを表している。
リアンはひとしきりスノウをからかって遊ぶと、列車の足周りの点検をしに行ってしまった。
スノウ
「リアンさん見てると、ヴァンパイアのイメージ崩れちゃうよ・・・」
スノウは洗車を再開するが、モップに掛ける力がさっきより強くなり、不機嫌オーラが漂っている。
ここまで、感情的なコンピュータはある意味凄い技術だと思うが、非情に無駄使いな気がするのは私だけだろうか?
それはさておき、スノウから出た言葉通り、リアンは下級ではあるがヴァンパイアである。
もっとも、異世界同士を結ぶこの鉄道では大して珍しい存在でもないが・・・
スノウ
「洗車終了♪明日は出発かぁ・・・ああ!!!」
洗車を終わらせた満足顔だったスノウだが、ふと重大な問題に気付き泣きそうな顔になった。
スノウ
「積み込むお弁当とか準備してなかった!!!」
そう、明日のワゴンサービスで使用する物が一切準備されていなかったのだ、普通の旅客列車用のTCAIならこんな事は無いのだが、彼の場合元々の運行させるシステムは完璧なのに、後から付け加えられた旅客用のシステムに関しては抜かり無くドジっ子属性が付与されてしまっているのだ。
まぁ、今から急いで準備すれば何とか間に合うだろうが、乗務員に怒られ涙眼になるTCAIという非常にレアな光景が見られる事は確実だろう。
リアン
「ごるぁぁぁ!!スノウ!!!」
スノウ
「ふぇぇぇ・・・ごめんなさ~い!!!」
…To be continued
スノウ君の性格は最後まで迷いましたが、リアンとのやりとりで一番面白いのはヤッパリドジっ子かなぁと思い、こうなりました。
もう今後の展開は間違いなく、リアンブチキレ、スノウ涙眼になりそう。
でも、スノウ君は運行に関しては他の旅客用TCAIの追従を許さないハイスペックなので、普段のダメっぷりはご愛嬌って事で優しく見守ってあげて下さいませ。
それでは\(__)