第22話「死の行進」
[亜空間軌道]
新名古屋局地ターミナルステーションを出発したSnow expressは、ルイーネフリーレン局地ターミナルステーションを目指し、亜空間軌道を走り抜けていた。
スノウ
「ご注文のパフェタワーでございます・・・」
双子達は、出発するなり食堂車に陣取り、スイーツを注文し無くなればまた注文をするという行動を既に50分近く続けている。
フィロ
「あの客の胃袋は底なしだぞ♪」
フィロは次のパフェタワーの材料の量産体制をはじめている。
本来なら、注文を受けてから作るべきなのだろうが、現在出撃中のパフェタワーでは双子達の進撃を止めることは出来ない。
この衰える事を知らない双子達ペースなら数分で新たなパフェタワーの投入が必要になることは確実なので全く問題ないだろう・・・と思われたが、他の部分で問題が発生した。
スノウ
「ちょ・・・嘘でしょ?!」
食糧庫に材料を取りにいったスノウは、唖然としていた。
1週間分は積み込んでいた筈のスイーツで使用する材料が底をついていたのだ。
つまり、1週間の運用で消費される量のスイーツを50分程度で双子達が平らげてしまった事を意味する。
ラズロット&リズロット
「おかわり~♪」
満面の笑顔でお皿を差し出す双子達にスノウは次のパフェタワーを差し出しこういった。
スノウ
「申し訳ありません、材料が底をついてしまったので、これが最後です。」
それを聞いた、双子達の目が涙目になる。
リアン
「あれだけ食ってまだ食うつもりだったのかよ・・・」
そんな双子達に、呆れたように絡んできた。
手には夜食の血の入ったコップが握られている。
ラズロット
「何か用ですか?」
リズロット
「用が無いなら話し掛けるななのだ」
リアン
「なぁに、リタは元気でやってるか聞こうと思ってな。」
無礼な態度のリアンを邪険に扱う双子達に対して、彼女は相変わらず砕けた態度でリタという人物が元気かどうかをたずねる。
まぁ、人物というのは多少語弊があるかもしれない。
なぜなら、リタという人物は、双子達が普段使用しているお召し列車専用列車の管理を行っている、リタ=オプテラというTCAIだからである。
ちなみに、スノウのシステムの軍用列車版である。
ラズロット
「リタを知ってるですか?」
リアン
「ああ、前にナイポに回送してきた時に知り合ってな・・・面白い奴だったから覚えていたんだ。」
驚くラズロットにリアンは、ナイポの工場で出会った事をはなした。
リズロット
「面白いかの?リズ達の天敵なのだ」
リタに事ある毎にお説教やデザート抜きの罰等の神様とは思えない扱いを受けている双子達は、リアンの面白い奴という評価に疑問符がついた。
リアン
「特にお前らの評価についての話しが面白かったな。」
ラズロット
「何て言ってたですか?」
嫌な予感を感じつつも、リアンは満面の笑みでこう答えた。
リアン
「要約するとかなり根性のひん曲がったクソガキだって言ってたな。」
ラズロット
「リタとは一度じっくりお話しないといけないですね。」
リズロット
「しなくちゃなのだ」
リアン
「ま・・・まぁ、素直じゃないが優しい子供だとも言ってたから・・・」
さすがにヤバイと思ったのかリアンは、双子達を誉めていた部分を出し、フォローしたが・・・時既に遅し・・・リタがスクラップにされない事を祈るばかりである。
[ルイーネフリーレン]
広大な高原を支配地域にするハイランド王国、その支配地域は王族が支配する中央領域と貴族達が支配する周辺領域に分かれている。
そして、その周辺領域の中でも最も広大な地域を支配しているのが通商連合を牛耳るアルトゥール公爵である。
ルイーネフリーレンも元はアルトゥール公爵領だったが、通商連合の立ち上げの際にアルトゥール公爵が通商連合に割譲する形で、現在の中立地帯となっている。
まぁ、通商連合を牛耳っているのがアルトゥール公爵なので、実質何も変わっていないのだが・・・
しかし、現在ルイーネフリーレンはシュバルツァークロイツ防衛局第3列車総隊に完全に占拠されてしまっている。
なぜこうなったのかというと、アルトゥール公爵率いる通商連合はルイーネフリーレンに駐留する兵力約2万人でシュバルツァークロイツのルイーネフリーレン局地ターミナルステーションを攻撃したが、ステーションに駐留する防衛局第3列車総隊の近代兵器の前にあっという間鎮圧され、ルイーネフリーレン全体をシュバルツァークロイツに奪われてしまったのだ。
当然、ルイーネフリーレンにある本部を失った通商連合は機能停止に追い込まれ、アルトゥール公爵は隣の自分の領地に逃げ込んだ。
ダーク元帥
「監視衛星網は準備できましたか?」
オペレーター(衛星監視)
「はい、全て軌道上に全て乗せ終わり、データリンクも異常ありません。24時間体制でウェストハイト全体を監視できます。」
ルイーネフリーレン局地ターミナルステーションの退避線に停車中の軽戦闘列車ヴェファリアⅡの指令車内でダーク元帥は作戦の進捗状況を確認していた。
車内中央には立体スクリーンがあり、刻一刻と変化する状況がリアルタイムで表示されている。
ダーク元帥
「今後アルトゥール公爵領内のいずれかの街で諸公軍の兵力が集結するはずです、見逃さないように注意してください。」
オペレーター(兵器統制)
「集結地点への攻撃は、都市部でも戦略爆撃を行いたいのですが?」
ダーク元帥
「理由は?」
オペレーター(兵器統制)
「主にコストパフォーマンスです。それと、懐古主義的な攻撃手法は元帥閣下のご趣味に合うかと。」
ダーク元帥
「そうですね、市街地への絨毯爆撃とは懐古主義の極み♪よろしい、許可します。」
オペレーター(兵器統制)の示した懐古主義的な攻撃手段が気に入ったらしく、怪人マスクから覗かせる口の両端がつり上がる。
都市部に高射砲や地対空ミサイルが配備されているのならいざしらず、中世ヨーロッパ並みの兵器と低レベルな魔法しか存在しないこの世界には、そもそも防空という概念すら存在しない。
それならば、スタンドオフ兵器のプラットホームとして持ってきた戦略爆撃機に大量の通常爆弾を積み込み、絨毯爆撃という前時代の攻撃を行うのも悪くは無い。
オペレーター(補給統制)
「元帥閣下、そろそろ賞味期限切れになるマスタードガス弾の在庫が大量にあります。この際使い切ってしまったほうが・・・処分費用ももったいないですし・・・」
ダーク元帥
「在庫の数は?」
オペレーター(補給統制)
「全ての拠点の在庫を合わせると・・・まぁ3日間丸々は大丈夫ですね、特急貨物なら1日程度で第1便が届き2日で全てかき集められます。」
ダーク元帥
「ふむ、スケジュール的にも問題ありませんね。今すぐかき集めてください。あと、アルトゥール公爵領内の全ての街に諸公軍が集結した場合は、市街地への無差別攻撃を行う旨のビラを撒いておいてください。」
オペレーター(情報統制)
「了解しました。偵察機についでに撒かせておきます。」
ダーク元帥のウェストハイト侵攻作戦は着々と進行していた・・・
[ハイランド王国首都バルハナ]
アルトゥール公爵
「シュバルツァークロイツはルイーネフリーレンを占拠するばかりか、我々ハイランド王国への侵攻も計画しておるようです!!」
ハイランド国王
「ついに来おったか・・・アルトゥール公爵は至急貴族達を我の名で召集し諸公軍を編成するのじゃ!!指揮はそなたに任せるゆえ、必ず勝て!!よいな?」
アルトゥール公爵
「御意に・・・必ずや陛下のご期待に沿う結果を持ち帰ります。」
アルトゥール公爵は国王に一礼し、謁見の間をでる。
ルイーネフリーレンでの闘いは、彼に見通しの甘さを痛感させていた。
何しろ敵は1人の死者も出さずこちらちの2万人を壊滅状態に追い込んだのだから、余程のバカでも無いかぎり絶望的な現実を理解する。
更に、フェルム帝国と魔法都市国家マジーアルノが相次いで三国条約を破棄しシュバルツァークロイツとの戦闘を放棄したことで、さらにハイランド国王が窮地に立たされている。
だが彼も負けるつもりは無い。
ハイランド国王内全ての貴族達に王命での召集をかけ兵力をかき集めれば約20万の兵力となるだろう。
これだけの兵力があれば、現状から停戦交渉まで十分に持っていくことが可能だと考えていた。
彼の見積はある意味間違いでは無い、なぜならルイーネフリーレンに展開しているシュバルツァークロイツの兵力は約4000人程度の規模で、20万人という大規模な兵力で雪崩れ込めば十分勝算があるのである。
ただし、それはシュバルツァークロイツがNBC(核、生物、化学)兵器等の非人道的な兵器を使用しない全うな組織である場合である。
しかし、暗黒武装鉄道結社シュバルツァークロイツは人道的に戦略を展開する全うな組織ではない・・・この組織は悪の組織を自称し敵対する相手には、都市の上空で放射性廃棄物を粉末状にした粉を散布したりと容赦と言うものが全く無い。
今回も広範囲のびらん効果を狙いマスタードガス弾をばら撒く気満々である。
更にルイーネフリーレンの闘い同様に、劣化ウラン弾をばら撒き、戦場を放射性廃棄物処分場として有効活用することだろう。
そうなれば、ハイランド王国は大量の被爆者等の後遺症患者を抱える事になり、その救済措置で国が破綻するだろうし、最悪の場合、領内が人の住めない死の大地となり国土そのものが消滅してしまうだろう。
そして、そうならない唯一の方法は、早期にシュバルツァークロイツとの戦争を回避するしか無いのだが、戦争を仕掛けたアルトゥール公爵としてはそれでは面子が保てないし、何より勝てる気でいる彼に、その選択肢は無い。
そして、王命を承けた貴族達は持てる兵力全てを率いて続々とアルトゥール公爵領に集結しつつあった。
その動きは全てシュバルツァークロイツに探知されているとも知らずに・・・
その行軍は、さながら破滅へと向かう死の行進のようでもあった。
…To be continued