第21話「ラズロットとリズロット」
[新名古屋局地ターミナルステーション]
深夜24時丁度、普段ならばこんな時間駅が開いているわけが無い。
しかし、今日に限り駅構内には明かりが灯り、駅員達が慌ただしく駆け回っている。
理由は、近鉄側4番のりばに待機し双子の邪神様の到着を待つSnow expressが居るからである。
更に言うなら、双子の邪神様は宿泊していた筈のホテルから姿を消していたのである。
「少し遅れる」という書き置きを残して・・・
当然現地のシュバルツァークロイツ職員、名鉄職員、近鉄職員総出の大捜索が行われて居る。
そんな張り詰めた空気の中・・・
子供の声1
「お待たせなのです♪」
子供の声2
「お待たせなのだ♪」
場違いで全く緊張感の無い子供の声が駅構内に響き渡った。
声の主は黒を基調としたお揃いのフリフリゴスロリ服を着た、双子の少女・・・・いや幼女だった。
白粉を塗ったように真っ白な肌に目の周りや唇は黒い染料で化粧を塗ったように真っ黒な色。
二人で対になっている深紅とブラウンの綺麗なオッドアイ。
ブラウンのボブに近いショートヘアーは、片方がスノウと同じ様に三編みで結われ、その上にはその小さな身体には不釣り合いなほどに大きな黒いフリフリの帽子を被っている。
そして、その姿はまるでボークスのスーパードルフィーを1/1スケールにした様な可愛さである。
シュバルツァークロイツ名古屋駅長
「邪神様!!」
近鉄名古屋駅長
「ラズロット様!!リズロット様!!」
名鉄名古屋駅長
「萌神様!!」
各鉄道会社の駅長がシンクロして二人を呼ぶ。
名鉄名古屋駅長だけは双子の教育的指導が入りそうな気がするが・・・
シュバルツァークロイツ名古屋駅長
「いったいどちらへ行っておられたのですか!!」
近鉄名古屋駅長
「大騒ぎになっていましたよ!!」
名鉄名古屋駅長
「知らない人についって行ってしまったのでは無いかと気が気ではありませんでしたよ!!」
名鉄名古屋駅長は間違いなく双子の教育的指導コース確定・・・かと思われたがどうやら双子達の機嫌が良かったらしく綺麗にスルーされた。
運が良かったね名鉄名古屋駅長さん。
ラズロット
「記念になりそうな物を探していたのです♪」
リズロット
「でも良い物が見つかったのだ♪」
どうも嫌な予感しかしない・・・
そこで・・・
近鉄名古屋駅長
「あの・・・一体何を?」
念の為、何を記念として持ち帰るのかを訪ねる近鉄名古屋駅長・・・
ラズロット&リズロット
「名古屋城のシャチホコ♪」
満面の笑みで答えた双子達は、手元の異空間から巨大なシャチホコを取り出した。
予想の斜め上を行く双子達の返事に3人の駅長は真っ青になる。
シュバルツァークロイツ名古屋駅長
「だめです!!直ぐに返してきてください!!」
ラズロット
「嫌なのです!!」
近鉄名古屋駅長
「てか、何に使うんですか!!そんなもん!!!」
リズロット
「列車に着けたらカッチョイイのだ!!」
名鉄名古屋駅長
「着けるな!!てか絶対にやらないでください!!!」
双子達と駅長達の「常識?何それおいしいの?」的なぶっ飛んだ口論の内容に、それを見ていたスノウとリアンはポカンと口を開け、思考が完全に停止していた。
そして二人は双子達の前では、常識という概念など意図も簡単に崩壊してしまう脆いものなのだと悟るのだった・・・
・・・・40分後・・・・
駅長達の必死の説得によりようやく双子達が名古屋城のシャチホコを返却する運びとなった。
速やかに名古屋城に返却する為、駅職員がシャチホコを回収していくと・・・
ラズロット
「ゴンザレス・・・お別れなのです・・・」
リズロット
「ポチョムキン・・・さよならなのだ・・・」
その際、双子達は(勝手に付けた名前を呼び)泣きそうな顔でそれを見送る。
いやいや、むしろ泣きたい状況なのは3人の駅長達の方だと思うが・・・
しかも、勝手に付けた名前が二人揃って酷すぎる気がするが、気にしたら負けなのだろう。
スノウ
「お忙しいところを失礼いたします。こちらを・・・」
そんな中、タイミングを見計らっていたスノウが、フォマー駅長からの嘆願書を双子達に差し出す。
ラズロット
「これは何かの?」
スノウ
「ルイーネフリーレン駅長からの嘆願書です。内容につきましてはこちらでは確認しておりません。」
嘆願書を受け取ったラズロットはそれが、フォマー駅長からの嘆願書で有ることを確認すると、おもむろに読み始めそしてスノウにこう告げた。
ラズロット
「カルーアが飲みたいからルイーネフリーレンに行き先変更なのです♪」
スノウ
「かしこまりました。速やかに手配いたします。発車まで今しばらく車内でお待ち下さい。」
行き先変更を告げられたスノウは、直ぐに処置し出発する旨を伝え、出発まで車内で待つよ双子達にお願いする。
ラズロット&リズロット
「ほーい♪カルア♪カルア♪カルア♪」
これに対し、双子達は元気良く返事をして、上機嫌で列車に乗り込んだ。
ちなみに嘆願書にはこう書かれていた。
--------------嘆願書--------------
お忙しい中、恐れ多き事と思いながらも、邪神様に是非ともお願いしたい事があり、この嘆願書をしたためさせて頂きました。
ウェストハイトではコーヒー豆とそれを原料としたカルーアが特産品です。今年のカルーアは特にできが良いとのことで、是非とも邪神様に御賞味頂きたいと思っておりました。
しかしながら、防衛局の介入によりウェストハイトが戦火に飲み込まれ、邪神様に御賞味頂く予定であったカルーアがお届け出来ない事となりそうです。
こちらとしましても、邪神様に一番の出来であるカルーアをお届け出来ない事はあってはならないと考えております。
邪神様のお時間が許すのでありましたら、戦争回避のため、是非とも邪神様のお力添えをして頂ければと切に願うばかりです。
ルイーネフリーレン駅長
フォマー=ウーム
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リアン
「餌で釣ったな・・・タヌキ駅長め・・・」
双子達が乗り込む際に落とした嘆願書を見たリアンが溜め息混じりにつぶやいた。
その後、列車は出発準備が整い、名物の特急専用の発車メロディードナウ川の漣(8ビット音源)と共に亜空間の中に消えていった。
それを見送った駅員達の顔に安堵の表情が浮かんでいるのはきっと気のせいだろう。