第18話「シエルの奇策とフィロの巣立ち」
[ルイーネフリーレン局地ターミナルステーション]
フォマー駅長
「防衛局は何を企んでいるのだ・・・うぬぬぬ・・・」
皐月
「駅長はん、落ち着いておくれやす。」
フォマー駅長
「私は冷静だ!!」
ラビ
「どこがやねんオッチャン、めっちゃ熱うなっとるやんけ・・・」
シエル
「(ズズズ・・・)このお茶・・・美味しい・・・」
ラビ
「なに呑気に茶ぁしばいとんねんこのボケ女!!」
シエル
「・・・なに熱なっとるねん・・・」
ラビ
(な・・・殴ってええか?ええよな?)
フォマー駅長は、駅長室に回遊特急のTCAIの二人とその技術員を呼び、防衛局の今後の動きについての予想を聞いていた。
シエル
「ダヒド機関区長・・・凄く怪しい・・・これをみて・・・」
今まで、会話に参加せずお茶をすすっていたシエルが、やっとやる気になり、何かの資料を机の上に拡げた。
どこまでもマイペースな娘だ・・・
シエルが机の上に拡げた資料は、ダヒド機関区長が、内情を密かに調べ、通商連合に送っていものだった。
その内容は、意図的にシュヴァルツァークロイツの力を過小評価して、この世界、ウェストハイトの文明レベルでも充分に太刀打ちでると錯覚させるものであった。
フォマー駅長
「こんな資料を見せられたら・・・」
ラビ
「いてまえ言い出すやろな・・・」
シエル
「そして今、ダーク元帥は機関区に足を運んだ・・・導き出せる答えは?」
皐月
「ダヒド機関区長はんが防衛局の・・・」
シエル
「通商連合を戦争に導くために防衛局が派遣した工作員・・・」
フォマー駅長
「何という事だ!!彼は防衛局側の者だったのか・・・完全に見落としていた・・・」
フォマー駅長が机を力まかせに叩き、机の上の資料が舞い上がった。
今まで、ダヒドを通商連合側の者だと決めつけ、その結果防衛局にしてやられてしまったのだ、悔しさも人一倍だろう。
そんなフォマー駅長の様子を気にする事無く、お茶を一口すすったシエルは、茶菓子をほおばりつつ・・・
シエル
「・・・でも、防衛局を止める手立てが一つだけある・・・」
ラビ
「ちょwそれをはよ言わんかいな!!」
皐月
「まあまあラビはん、落ち着きぃ、ほんでどないすればええんやろか?」
何処までもマイペースなシエルの態度に怒り狂うラビを宥めながら皐月はいつもの調子で、シエルに問いかける。
シエル
「ルイーネフリーレンはカルーアの有名な産地で珈琲豆の輸送は現在通商連合側しか行っていない・・・あと、スノウがお召し列車の代行役になった・・・この二つの事象を上手く利用する・・・」
フォマー駅長
「っ!!なるほど、その手があったか!!」
力強く机を叩き、一人で納得したフォマー駅長は、駅長室をすごい勢いで飛び出していった。
残されたラビと皐月は、何が起きたのか全く理解できず、唖然とした状態で固まっていた。
シエルはというと、お約束のごとく、我関せずといった表情でお茶をすすっていた・・・
[魔法都市マジーアルノ]
裏路地でエセフ率いる魔法近衛団を襲撃し、無事にアブトを奪還したスノウ、ジマー嬢、リアン、フィロ、イブトの5人は、足早に列車が待つマジーアルノステーションめざし、歩いていた。
フィロ
「ご主人・・・無事で良かったぞ♪」
アブト
「フィロや・・・心配をかけてしもうたの・・・すまぬ」
イブト
「全くじゃ・・・なぜワシに一言そうだんせなんだ?」
リアン
「感動の再会の最中悪いが、今後の事を決めさせてもらう。」
感動の再会を喜んでいた、フィロ達の会話に割り込んだリアンは、今後の予定の話を始めた。
リアン
「まず、ルイーネフリーレンまでの移送は保証するその後は・・・」
アブト
「その件で頼みたい事があるのじゃが・・・」
リアンがルイーネフリーレンまでの移送を保証する旨を伝え今後の予定を聞こうとした時、アブトは申し訳なさそうにこう願い出た。
アブト
「ワシ等はここに残る、じゃからフィロをそちらで保護して貰いたいのじゃ・・・フィロの特殊な力はこの世界にいる限り狙われ続けるじゃろうから・・・」
ジマー嬢
「一つ良いかしら?そのフィロの特殊な力の内容について何一つ聴いてないのだけれど・・・」
確かにジマー嬢のツッコミはごもっとも、今まで何故フィロが賢者の塔に狙われていたのかを全く聴いて居ない。
アブトもそれは承知していたようで、一呼吸おいてフィロの特殊な力について話始める。
アブト
「フィロには、植物を自在に制御する力がある。賢者の塔はこの力を使い魔獣の森を変幻自在の迷宮にしようとしておったようじゃ。」
リアン
「なるほどな・・・確かに森さえあれば何処でも変幻自在の迷宮が作れるとなれば、欲しがりそうな所はたくさんありそうだ。」
アブトの説明でリアンは、フィロの特殊な力を防衛の要となる能力であると評価した。
無論このウェストハイトでの話だが・・・
シュバルツァークロイツとしては正直あまり必要の無い能力でもある。
何故なら、植物を操って妨害したところで、機甲師団に力任せに粉砕されるか、航空機で飛び越えられるのが関の山だし、何より量産できない戦力である点が、物量と安定した補給で攻める戦略をとるシュバルツァークロイツには致命的な問題となる。
リアン
「だが、うちにメリットがひとつもn・・・」
スノウ
「・・・食堂車のウェイターなら空きがあるよ。それなら問題無しだと思う。」
諸々を考慮しリアンが丁寧にお断りしようとした時、スノウが会話に割り込んだ。
しかも、リアンの思惑の反対ベクトルに・・・
リアン
「ちょwスノウ!!」
スノウ
「良いでしょ?検札で食堂車オープンが毎回遅れてたし、ウェイターが居ない食堂車って寂しいから。」
確かに、Snow expressでは、スノウの検札が終わってから、食堂車がオープンし、開店が遅いという利用客からの不満がおおかった。
しかし、それはスノウが頑なにリアン以外の乗務員の配置を拒否していたからである。
リアン
「だけどよぉ・・・お前私以外の乗務員は要らないとか・・・」
当然リアンはそれを指摘するが・・・
スノウ
「列車の運用に関する最終決定権は、TCAIのボクが持ってるはずだよ♪」
リアン
「うぐっ・・・列車運行規則か・・・分かったよ好きにしろ、だけどちゃんと世話しろよな。」
スノウはシュバルツァークロイツ列車運行規則で、「TCAI搭載列車では故障が無い限りTCAIが最終的な決断を行い列車の運用を行う」と定められている点を武器に強引に押しきった。
それに対しリアンは、面倒だから好きにしろと言わんばかりの態度でそれを了承する。
それにしても、ちゃんと世話をしろとはまるで捨て犬を拾ってきて、子供の熱意に根負けして渋々飼うことを了承する親のセリフであり、最終的にその面倒をみる羽目になるフラグに感じるのは私だけだろうか?
スノウ
「・・・と言う事になりましたが、フィロさんは問題ありませんか?」
まぁ、それはおいといて、スノウはフィロに最終確認をとる。
フィロ
「ご主人と離れるのは寂しいけど・・・ご主人の命令だから従うぞ♪」
スノウの質問に、フィロは元気にこたえた。
その時、5人の行く手に、覆面をした一人の男が染み出るように現れた。
当然5人は各々に武器を構えて警戒体勢をとる。
・・・しかし
覆面の男
「警戒しなくて良い、私は賢者の塔からの使いで、争うつもりは無い。その証拠に武器を持っていない。」
その男は、武器を持っていない事をアピールし賢者の塔からの使いだと言った。
ジマー嬢
「さっき魔法近衛団と一戦交えたのだけれど・・・大丈夫かしら?」
覆面の男
「魔法近衛団はエセフ元賢者の私兵です、そして今回の一件はジョセフ元大賢者とエセフ元賢者の独断によるもので、賢者の塔の一切関知せぬ所で起きたことでございます。」
挑発的な態度のジマー嬢に対し、覆面の男は穏やかに答える。
さらに
覆面の男
「なお、ジョセフ元大賢者は裏で通商連合と密接な関わりを持ち、マジーアルノの国益を損なう行為を繰り返していた事が発覚し、賢者の塔議会よりその地位を剥奪され、エセフ元賢者は、賢者の塔議会の許可無く市街地での戦闘及び魔法使用罪により同じく地位を剥奪されております。」
と付け加え、今回の一件はジョセフとエセフが独断で行われた事であり、賢者の塔にシュバルツァークロイツと争う姿勢は無い点を強調した。
リアン
「さっきの事なのに随分と手際が良いな・・・まるでこうなる事を予想して準備万端で待ち構えていたみたいに・・・」
覆面の男
「賢者の塔内部にも様々な勢力がありましてね・・・今回の一件はジョセフを失脚させたがっている勢力の格好の攻撃材料となった・・・そしてその勢力は貴女方に感謝し、争うつもりは無い・・・これだけで十分ではありませんか?」
この一件に対する対応の異常なまでの手際の良さをリアンに私的された男だが、全く動じる様子は無い。
ジマー嬢
「キナ臭いけどまぁ良いわ・・・で、それを言いに来ただけじゃないのでしょう?大体想像はつくけど・・・」
覆面の男
「聡明なお嬢様ですね、話が早くて助かります。我々は積極的にシュバルツァークロイツとの交易を行いたがっている勢力です。故に今回の一件はできれば闇に葬り、シュバルツァークロイツとは今後とも友好な関係を持ちたいと考えております。」
ジマー嬢
「その先は言わなくて良いわ、様は私達が今回の一件の事を忘れれば良い・・・そういう事でしょ?」
覆面の男
「本当に話が早くて助かります。後は貴女方が話の分かる方達であることを願うばかりです。」
ジマー嬢とのやり取りを終えると、男は一礼をする。
先程と比べると、覆面から覗く目が細くなっている。おそらく覆面の下の素顔には不敵な笑みが浮かんでいるのが容易に想像できる。
ジマー嬢
「私は構わないと思うけど、他はどう?」
リアン
「そうだな、最終的な決定権はフィロにあるんじゃないか?」
どうでも良いと言った態度で他に意見を求めるジマー嬢に対し、リアンは一番の被害者であるフィロが決めるべきだと主張した。
ジマー嬢
「それもそうね・・・フィロ?どっちが良い?どう貴方が判断しても私達が最後まで面倒をみるのは変わらないのだから好きに選ぶと良いわ。」
ジマー嬢がそういうと、フィロはゆっくりと男に歩み寄り、こう訪ねた。
フィロ
「もうご主人を狙わないか?」
覆面の男
「無論だ。我々はこの都市を閉鎖された要塞にするつもりは無い・・・ゆえに貴公の能力は必要としない。」
フィロ
「なら、忘れるぞ♪」
覆面の男
「感謝いたします。」
フィロは男にまた、自分の主人であるアブトを狙う意志が無いかを訪ね、男がその意思が無い事を確認すると、今回の一件の事は忘れると無邪気に答えた。
覆面の男
「それと、アブト様とイブト様を賢者の一員としてお迎えせよとの指示受けております。」
イブト
「なんじゃと?」
アブト
「ワシらが賢者じゃと?」
突然の話に唖然とする二人を気にせず、男は更に話を進める。
覆面の男
「ジョセフ元大賢者とエセフ元賢者の空席を急遽埋める必要があり、フィロ様を造り出したアブト様とその弟イブト様が適任であると賢者の塔議会が賛成多数で可決いたしました。」
覆面の男は、必要な部分だけを抜粋し二人に伝えた。
アブト
「ジョセフ勢力の生き残りが体勢をを立て直す前に賢者の席を埋める必要がある訳じゃな・・・」
覆面の男
「その通りです。ジョセフ元大賢者が中心となっていた閉塞派が力を失っているうちに我々開放派の勢力を伸ばす必要があり、兼ねてより都市の要塞化に反対されていたアブト様、そして都市の外を拠点としておられたイブト様は、開放派として是非とも迎え入れたいと言うのが本音です。」
しかし、アブトは直ぐに話の本質を見抜いた。
男もそれに気付くと、包み隠さず全てを話し、開放派としての協力を申し入れた。
アブト
「うむ、派閥争いは好かぬが、致し方あるまい・・・」
イブト
「じゃな・・・これでこの都市が良い方向に向かうのであれば・・・」
覆面の男
「で・・・では、承けて頂けると?」
男の言葉に、アブトとイブトは静かにうなずいた。
リアン
「これで一件落着・・・ん?それじゃぁフィロはここに置いて行って良いのか?じいさん達が権力にものを言わせて護りゃいい話だしな。」
一件落着と締めようとしたリアンだったが、フィロを預かる理由の根本が完全に崩壊していることに今更ながらに気が付いた。
そう、アブトとイブトはこれから賢者としての地位と権力を手に入れる、そうなればシュバルツァークロイツの保護無しでもフィロを護ることは容易に可能となってしまう。
つまり、フィロをここに置いていき、アブトと共に暮らさせる事が可能になったのである。
しかし・・・
アブト
「その件なんじゃが、フィロには様々なものを見て学んで欲しいのじゃ・・・」
フィロ
「ご主人・・・フィロがジャマなのか・・・要らない子なのか・・・」
コツンっ
不安そうな表情でアブトを見つめるフィロの頭をリアンがコツいた。
フィロ
「~~~っ・・・何する!!フィロ悪い事してないぞ!!」
当然頭を抱えて怒るフィロだったが、リアンはこう良い放った。
リアン
「いやしてる、アブトはお前に色々な物を見て学んで欲しいと言ったんだろ?」
リアンの言葉に、フィロは静かにうなずいた。
リアン
「じゃぁお前の将来の事を考えての判断だ、それをお前はジャマだから追い出されたと勝手に判断した。悪い子だなぁ、折角アブトがフィロの事を考えて寂しい思いをしてるのになぁ。」
フィロはハッとした。
フィロ
「フィロ悪い子・・・ご主人の想い気づけない悪い子・・・」
リアン
「じゃぁ、寂しいのを我慢して頑張れるな?それでお前は良い子だ♪」
フィロは元気にうなき、
フィロ
「頑張ってお勉強するぞ♪」
と元気良く答えた。
スノウ
「リアンさぁ~ん、フィロの乗車は反対だったんじゃ?」
リアン
「五月蝿い黙れ!!」
コツンっ
リアンはスノウの頭をコツいた。
・・・フィロより強めに。
スノウ
「~~~~っ!!精密機械なんですから叩かないで下さい!!」
コツかれた頭を押さえながら、涙目で抗議するスノウを無視して、"これで一件落着"とリアンが言おうとしたとき・・・
ギム
「リアン聞こえるか?」
リアンの乗務員用の無線機からギムの声が聞こえた。
リアン
「どうしたよ?」
ギム
「緊急指令だ、速やかに列車に戻ってくれ、内容は車内で伝える。」
リアン
「分かった、急いで戻る。」
「・・・って事だ、フィロには悪いがゆっくりお別れをしている時間がないようだ。まぁ、今度ここに来た時にゆっくり話せるだろうしな。」
フィロ
「分かったぞ!!ご主人、行ってくる♪」
アブト
「うむ、気をつけてな。」
リアン、スノウ、ジマー嬢、フィロの4人は、マジーアルノステーションに向かって再び走り出した。
…To be continued