第17話「魔法のステッキは撲殺具?」
[魔法都市マジーアルノ]
表通りから離れた魔法の使えない貧困層が暮らすスラム街の細い路地を、エセフが率いる魔法近衛団の隊列が足早に進んでいく。
この細い路地を通れば、賢者の塔に最短で行けるのだが、人2人がやっと通れる様な狭い道幅で、襲撃を受ければまともに戦う事すら難しい場所である。
また、細い路地が入り組んだ構造は、少数での襲撃に非常に有利である。
本来は襲撃を警戒して避けるべき場所なのだが、彼等は相手が誘いに乗らなかったため、襲撃は無いものと油断しきっていた。
そこへ、隊列の先にスノウとフィロが現れた。
スノウは、手には雪の結晶の形をした飾りにアイボリー地にオレンジ、グリーン、ブラウンで装飾した柄が付いている、"どう見ても魔法少女のアレです、本当にありがとうございました"的なステッキが握られている。
エセフ
「奴等が現れたぞ!!ヒゲ!!」
魔法近衛団団長
「はっ!!かかれ!!」
魔法近衛団団長の命令で、魔法近衛団兵士が一挙に押し寄せるが、道幅が狭いため2列の縦隊に近い状態で、その人数全く生かせないのは明らかである。
それを確認してスノウは、ゆっくりとステッキを構え、そして振りかざした。
すると、迫り来る兵士の集団のすぐ手前の足元の空間が固定され、先頭の数人がそれに足を引っ掛け盛大に転倒、更に後ろから雪崩れ込んだ兵士達も、止まる事ができずその上に覆い被さる様に次々と転倒し、団子状態で身動きがとれない状態になった。
スノウ
「せ・・・成功したけど、お怪我はありませんか?」
ジマー嬢
「これから怪我する人にそれは意味があるのかしら?」
スノウの天然発言にツッコミを入れながら建物の屋根から飛び降り、団子状態の集団に襲いかかるジマー嬢。
その手にはスノウと同じ形の先端が銀色で柄が白地にオレンジとブラウンとグレーで装飾されたステッキが握られている。
そして、ジマー嬢がステッキを踊らせると、その先の空間がその動きに合わせてズタズタに引き裂かれていく。
当然、その空間の中に団子状態になっていた兵士達もズタズタの肉片に引き裂かれていく。
そして、ジマー嬢が着地し、指をパチンと鳴らすた瞬間、切断されていた空間だけが元に戻り、兵士達だった肉片はその場にぐちゃぐちゃと嫌な音をたて崩れ落ちる。
魔法近衛団団長
「何が起こった?!」
リアン
「ただの正当防衛だ気にするな。」
パンッ
突然の出来事に、唖然としていた魔法近衛団団長の背後から、染み出る様に現れたリアンは、その後頭部に拳銃の銃口を押し当て、躊躇なく引き金を引いた。
後頭部を撃ち抜かれた魔法近衛団団長は、前屈みになり崩れ落ち落ちた。
リアン
「さてと、後はお前だけだな・・・投降してからぶち殺されるか、ぶち殺されてから投降するか好きな方を選べ♪」
ジマー嬢
「ぶち殺されてからどうやって投降するのかが疑問ね。そもそも動きだした時点でホラー確定ね・・・」
エセフに銃口を向けて、理不尽極まりない降伏勧告をするリアンにごもっともなツッコミを入れるジマー嬢・・・
目の前の惨状とは裏腹に、緊張感の欠片も感じられない・・・いや、完全にふざけている。
エセフ
「ふざけるな!!こっちには人質が居るってぇ事を忘れちゃいねぇかい?」
エセフが杖の先をアブトに向ける。
エセフ
「俺様は生まれつき魔力が強い体質でなぁ・・・」
アブトに向けた杖の先に火球が出現し、渦巻きながら巨大化していく。
スノウ
「い・・・いったい何を?」
エセフ
「解んねぇか?少しでも動いたらこのジジイが消し炭になるってぇ事がよぉ!!」
身構えるスノウに、嫌らしく笑うエセフだったが・・・
リアン
「お前、バカだろ?」
ジマー嬢
「真性のバカに疑問型は失礼じゃなくて?」
リアンとジマー嬢は全く気にする様子は無い。
エセフ
「お・・・嚇どしじゃねぇからな!!このジジイが消し炭になるんだぞ!!解ってんのか!!」
リアン
「お前・・・人質がどういう状況で使えるのか理解してねぇだろ。」
エセフの更なる嚇しに対しても、動揺する事なく、逆に彼をバカにした態度で説明をはじめる。
リアン
「そもそも、人質は2人以上居て始めて殺害をちらつかせ嚇しに使えるんだ。理由は簡単だ、人質が1人の場合は、そいつを殺すと人質そのものが居なくなり、自分の命が保障されない状態になる、だから絶対に殺す事ができないという事になる。」
エセフ
「うぐっ・・・」
リアン
「そうなれば、人質を殺すという嚇し自体が意味を成さない事になる。もっとも、死ぬ覚悟でやってる奴が相手なら話は変わるだろうが、そもそもそういう奴は人質なんてもんはとらない。」
エセフ
「・・・・・・」
リアン
「って事で、殺るなら殺れ、その瞬間お前は蜂の巣か細切れ肉になるだけだからな。」
ジマー嬢
「あら?蜂の巣になった細切れ肉じゃなくて?」
笑顔だが目が笑って居ない二人が迫る!迫る!!迫る!!!
エセフ
「寄るんじゃねぇ!!」
杖を二人に向け直し、エセフが吠えた。
エセフ
「お前等こそ忘れちゃいねぇか?この俺様は魔力が強い体質だって事をなぁ!!」
杖の先に魔力が収束し強力な魔力の塊を造りだす。
エセフ
「お前等全員吹っ飛・・・うぎゃぁぁぁぁ!!!」
その塊を放とうとしたエセフが突然悲鳴を上げ、足を押さえながら転げ回る。
当然魔力の塊は、精神集中が途切れたため、弾けるように消滅してしまった。
その後、スノウが、風景から滲み出す様にその場に現れた。
リアン
「スノウ・・・お前今いったい何やった?」
スノウ
「えっと、光学迷彩で見えない状態で近付いて、足を強打して集中を妨害してみました♪」
リアンの質問に笑顔で答えるスノウだったが、エセフの足の押さえ方をみる限り、強打されたのは弁慶の泣き所・・・つまり脛である。
地味だが、ある意味一番凶悪な攻撃かもしれない・・・
リアン
「なぁジマー・・・」
ジマー嬢
「なによ?」
リアン
「お前等のそのステッキって・・・」
ジマー嬢
「制限解除状態で使うのが前提なのだから軽量化なんてしてないわよ・・・ちなみに殴れば警棒としても使う事ができるわよ・・・」
リアン
「・・・なぁスノウ・・・、お前手加減したか?」
スノウ
「うーん、あんまり加減してなかったかも・・・」
リアン
「・・・・・・折れたな・・・確実に・・・」
[ルイーネフリーレン局地ターミナルステーション]
フォマー
「この物々しさはいったい何事ですか?」
怪人マスクの男
「邪神様の臨時お召し列車がここから回送されると聞きましてね・・・その護衛ですよ。」
駅のホームではフォマー駅長とタキシード姿に怪人マスクという怪盗の様な姿の男が言い争っていた。
この怪人マスクの男が何を隠そう、防衛局第3列車総隊司令であり防衛局の中核を形成している元帥の一人、ダーク=キッド元帥なのである。
フォマー駅長
「護衛でこの規模は必要ないでしょう!!この規模はまるで・・・」
ダーク元帥
「この世界を侵攻する積もりの様だ・・・ですか?まぁ、当たらずとも遠からずですね・・・邪神様の行動を妨げる危険分子が存在する場合放置する訳にはいきませんからね・・・その時の為の戦力ですよ。」
フォマー駅長
「その様な存在は・・・」
ダーク元帥
「存在しませんか・・・聞く所によれば、機関区労働組合が通商連合と連携し、我々の転覆を計っているとか・・・まぁ誤報であれば良いのですがね・・・」
フォマー駅長
「・・・・・・・」
フォマー駅長が何も言えず押し黙り、重苦しい沈黙が支配しようとしたその時・・・
メイド服?の少女
「痛元帥閣下!!機関区の視察準備が完了致しました。こんな所に引き込もってないで、とっとと来てください。」
ダーク元帥
「ちょ・・・ローザさん?相手を敬っているのか、貶しているのか良く判らない微妙な言葉遣いは・・・」
メイド服?の少女
「何か問題でも?痛元帥閣下♪」
ダーク元帥
「・・・・・もう良いです・・・」
重苦しい空気と一緒にダーク元帥の威厳までも完膚なきまでに粉砕し登場した栗色の密編みの髪型に銀色片眼鏡、メイド服の様な制服と使用人の様な姿の18歳位の少女は、ローザ=マリエンヌ中将である。
ダーク元帥の副官兼専属メイドである彼女だが、ダーク元帥を"痛元帥閣下"と呼称したり、会話の随所に刺を混入するなど、上官を敬っているのか貶しているのか良く判らない態度をとっている。
更に、ダーク元帥に対し様々な場面で彼が困るように仕向ける困ったちゃんであったりもする。
ちなみに、今回の登場のタイミングもわざとだったりする。
あと補足だが、彼女は現行TCAIの前進であるニューロインターフェース(端末を脳内に埋め込む方式)で、TCAIインターフェイスデバイス(人形のロボットタイプ)が生まれる前の産物だったりする。
元々は人間と悪魔のハーフ(何故かこの種族でしか製造が成功しなかった)で、扱いが非常に難しいこのタイプは、ほとんどが廃棄されしまっているのだが、懐古主義者であるダーク元帥のお陰で彼女は度重なる近代化対応の改装を受けながら現在まで存在しているのである。
ちなみに彼女のTCAIは、VefariaⅡ(ヴェファリア2)という、ダーク元帥専用の旗列車の管理を行っている。
フォマー駅長
「機関区の視察ですか・・・」
その場の微妙な空気に耐えきれず、フォマー駅長が機関区の視察について訪ねた。
ダーク元帥
「とりあえず、自分の目で確認しておこうと思ってね・・・」
フォマー駅長
「機関区にその事は?」
ダーク元帥
「ローザが先程・・・」
ローザ
「"さん"はどうした?この変態仮面野郎!!」
ダーク元帥
「・・・・・・ローザさんが先程機関区に連絡を・・・ローザさん、直ぐに行きますので先に行っていて下さい。」
ローザ
「さすが痛元帥閣下♪先に行ってお待ちしております♪」
ローザは、微妙な表情の二人を残し、ホームに停車中のVefariaⅡに乗り込んだ。
フォマー駅長
「彼女の態度は・・・」
ダーク元帥
「あれは彼女の私に対する溢れんばかりの愛情表現なのだよ・・・」
フォマー駅長
「しかし、部下が上司に対し・・・」
ダーク元帥
「愛の形は人それぞれだ!!君にはそれが解らんのかね?」
フォマー駅長
「・・・・・・・・・・」
得意気に語るダーク元帥だが、フォマー駅長の顔はこれ以上無いほどにひきつっていた・・・
恐らく彼がこの異常な愛の形を理解できる日は絶対に来ないだろう。
…To be continued
スノウ君とジマー嬢の戦闘ですが・・・
あっさり終わりすぎてしまったので、最後にスノウの弁慶クラッシャーでオチを付けました。
今回から痛元帥閣下とローザさんという濃いメンツが加わり、益々収拾がつかなくなりそうです。