双竜の誇りの子
これを起点として新しく連載を書きたいなと思っています。いつになるかは分かりませんが。
竜。
其れは、最も強きモノ。其れは、最も誇り高きモノ。其れは、最も想いを尊ぶモノ。
空高く舞うモノ、地に聳えるモノ、海を制すモノ。縦横無尽に翔けるモノ、大いなる地に座し続けるモノ。
其の姿は無限とも言えるほど多様であり、いずれも其の名に違わぬ力を有する。
竜は、「覇す」モノである。天を覇し、海を覇し、地を覇し、そして時には其の全てを覇し。
竜は、いつの時代も、世界の覇者であった。世界が生まれた時も、滅びかけた時も。数多の生物が溢れた時も、世界の生命が絶えようとした時も。己が絶対的な強さを誇る時も、己に届きうる力を持つものが現れた時も。
世界がどう遷り変わろうとも、竜は世界の覇者であった。
そして、そんな竜にも矜持というものが、誇りというものがある。竜は、己が頂点となることを至極とする生き物。故に、争いは絶えない。其の中で結ばれている「竜の盟約」の一節。
『竜の盟約 第3章(1部抜粋)
己が力のみで世を覇することを求めることができぬもの、親の命とも言える卵、其の二つは、何があっても守らなければならない。例え己が命尽きようとも、例え当代の竜が全て死に絶えようとも。今が滅びようとも、未来を滅ぼすな。子孫を絶やすな。故に、小竜・卵を害せしものは、いかなる理由があろうとも死を以て償うこととする』
「未来を守れ」。そう結ばれた誓いは、今もなお竜という存在が残っていることからも、硬く、強く、大切に、誇るべきものとして守られていることが窺い知れる。
其れが竜。其れこそが竜。
最も強きモノ。最も誇り高きモノ。最も想いを尊ぶモノ。故に、世界の覇者であるモノ。
◇◇◇
流れる川は、果たして何を誇りに思うのか。
其処に、1匹の竜がいた。
其の竜は、最も流れを誇る竜であった。故に、其の竜は古き竜であった。
其処に、1匹の竜がいた。
其の竜は、最も広さを誇る竜であった。故に、其の竜は今の竜だった。
しかし、どの川も、誇るものが違おうとも、たどり着く場所は同じだった。
だからだろう、其の2匹の竜は思った。流れ着く場所が、たとえどんな流れであろうと、たとえどんな広さであろうと、変わらぬと言うならば。果たして己が求めた誇りは何だったのか。
されど、やはり己が追いかけ続けたものになんの意味もないと、そんな事を認められるはずもなく。
己の誇りが正しいことを証明するために、其の竜達は対極へと挑む。
竜が誇りをかけて戦うとき。其れは、覇者であることを求め続けている竜にとっても、特別なものである。竜は、己が強さを示すため、時折他の竜へと挑む。
竜同士が強さの証明のために戦うとき、何か一つ、賭けるものが必要になる。其れは、己が守りたいものでないといけない。
ただ、強さのための戦いで死ぬ竜が出ることはない。
しかし、誇りのために戦うときは違う。
誇りをかけて戦い、負ける。其れは、己の信念が死んだということ、すなわち己が死んだということ。ならば己が生きていることに意味はなく、正に執着するようなこともないのだ。
ならばこそ、誇りをかけた戦いでは1匹の竜しか生き残れない。いや、生き残らない。かけた誇りに賭けたものの重さは自分以上である故に。
誇りをかけた戦いで賭けられるものは「卵」。竜の卵は、其の他の卵生類の其れとは違い、母体から生まれた芯に魔力を纏わせたものを核とし、其の上に何らかの想いが込められた物体を殻として完成される。
つまり、誇りをかけた戦いで勝ったモノは、相手の体を殻、自身から生まれた芯に相手の卵が持つ芯と自身の魔力を溶け合わせたものを核として構成し直す。其れは「誇り」と「想い」が融合したものであり、すなわち竜にとって最も重んじるべきものが一つになっているということ。
であればこそ、其の卵は最も尊ぶべきものであり、最も誇り高きものなのである。故に、其の卵から生まれた竜は、王となるのである。
◇◇◇
其の戦いは、苛烈を極めた。100年200年と、人の身からすれば途方もない時間をかけて続いた。しかし、どれだけの時間をかけようとも其の戦いには結末は訪れなかった。いつしか、其の2匹が争う辺りはだんだんと谷のように削られ、そこから出された土は長い年月をかけ山となっていった。そして、其れは双竜山脈と呼ばれるようになってなお、戦いは続いた。
戦い続けるうちに、其の2匹は自分の誇りについて深く考えるようになった。
流れを誇る竜は、其の流れが途絶えぬためには何が必要かを考えた。
広さを誇る竜は、其の広さを広げ続けるためには何が必要かを考えた。
其の2匹の体は、既に限界を迎えていたのかもしれない。ただ、其れがなんだというのか。
竜は、ある時から時を数えることをやめた。竜は、ある時から傷の数を数えることをやめた。
何もかもやめて、残ったのはただ永遠に戦い続け、其の最中に己の誇りを考えることだけだった。
だからこそ、戦いは終わった。戦いが始まってから、────年──ヶ月──日目のことだった。
竜が、誇りをかけて戦い、そして引き分けた時。一体、其の身と半身はどうなるのか。
全く前例のない其の問いに、2匹の竜は、双竜は、一つの答えを出した。
曰く、「己にも、相手にも、全く関わりのないものに、両者の芯を埋め込んだものを核とし、其の周りに両者の魔力を纏わせ、殻を両者の体で作る」。
見つけた答えは、果たして正しかったのか。ただ、双竜は想う。たとえ其れが間違いであったとしても、悔いはないと。
故に、核と中心となるものも、正しさで言えば間違っていたのかもしれない。なぜなら、其れは偶然に見つけた、人間の赤子だったから。
ただやはり、悔いはない。そうして、其の双竜は最後の力を振り絞った。とうの昔に、限界は来ていた。今生最後の魔法。其れならば、出し惜しみはしない。
ある人間の国の歴史書によれば、其の日、双竜山脈の方向から、膨大な量の魔力が感知されたという。其れとともに、迸る2つの閃光も。
其れは誇りを認め合った証であり、同時に想いの結晶。
そして、其の卵は途方もない年月をかけて孵化することになる。そして、双竜は意識が完全に無くなる直前に、己の愚かさに気づき……そして、安らかに眠りについた。
「受け継がれてきた流れを絶やさぬためには、其れ相応の広さが必要である」
「もっと広さを求めるなら、流れを絶やさぬことが必要である」
双竜の答えは、卵の中にいる、いつか其の時が来るまで眠りにつく誇りの子へと受け継がれる。
だから、きっと大丈夫。理解し合えたから。そんな確信を胸に抱いたからこそ、双竜は安らかに眠りについたのだ。
そして、其の────年後。ピキ、と。卵に、ひびが入る。生まれるは、想いの結晶たる、誇りの子。
ひびが、大きくなってゆく。最初は緩やかだった其の速さも、徐々に速くなっていく。そして、誇りの子が姿を現す。
産声代わりに響いたのは……双竜山脈を消し去りかねないほどの、およそ赤子から発されるとは思えない咆哮であった。
そして、世界にまた一つ。竜王、いや、其れすらも超えうる可能性を孕む1人、あるいは1匹の「竜人」が生まれたのである。




