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序章014

書き直しました。20260329

 遺族が来たのは、発覚から三週間後の土曜日のこと。


 朝から雨。四月の終わりの冷たい雨で、窓の外がくすんでいる。凪は家にいた。奈々未も家にいた。報道陣は雨の中でも二人ほどいたが、もう見慣れている。傘を差して立っている姿を、カーテンの隙間から見ても、心拍が上がらない。それが日常になってしまった。


 土曜日の朝は、二人にとって少しだけ特別な時間だった。平日は凪が仕事で、奈々未は一人きり。土曜の朝だけは、並んでトーストを食べて、コーヒーを飲んで、どうでもいい話をする。テレビはつけない。ニュースを見たくないから。代わりに奈々未が最近読んでいる本の話をしたり、凪が会社の食堂のメニューが変わったという話をしたりする。意味のない話。意味のない話が、今は一番必要な時間。


 インターホンが鳴ったのは、午前十時過ぎ。


 凪はソファから顔を上げる。奈々未も手を止める。二人の間に、一瞬の緊張が走る。宅配便かもしれない。管理会社の人間かもしれない。あるいは報道陣の誰かが、ここまで上がってきたのか。


 凪はモニターに近づく。画面を見る。

 小さな画面に、一人の女性が映っている。中年。五十代か。傘を持っている。報道陣ではない。カメラもマイクも持っていない。普通の格好をしている。紺色のコート。白いスカーフ。顔が少しぼやけて見えるのは、雨のせいか、カメラの画質のせいか。


 凪は少し考えてから、インターホンのボタンを押す。

「どちら様ですか」


「高原さんのお宅ですか」

 女性の声がする。震えている。細い声。何かを堪えながら話している声。言葉の合間に、息を吸う音が入る。


「高原誠一郎さんの息子さんですか」

 凪は答えない。


「お話を聞いていただけますか」

 声が一段高くなる。高くなったのは怒りではない。必死さ。何かにすがろうとしている人間の声。


「娘が、娘が高原製薬の薬を飲んでいて——」

 そこで声が途切れる。


 モニターの中で、女性の顔が歪む。泣いている。雨の中、傘を握りしめて、インターホンに向かって泣いている。


 凪は動けない。

 モニターの前に立ったまま、動けない。指がインターホンのボタンの上にある。応答ボタンを押したまま、女性の声が聞こえている。泣き声。嗚咽。息を吸う音。雨の音。全部がスピーカーから流れてくる。


 ドアを開けるべきか。

 開けて、この人の話を聞くべきか。


 弁護士から言われている。個別の対応は控えるように。個人で対応することで、余計な問題が生じる可能性がある、と。法的な立場が悪くなる可能性がある、と。余計な約束をしてしまう可能性がある、と。


 それはわかっている。わかっているが、目の前のモニターの中で、女性が泣いている。娘が薬を飲んでいたと言った。その先を、凪は聞いていない。聞いていないが、想像はできる。


 凪は開けなかった。


 開けるべきだったのか、開けないほうが正しかったのか。数秒考えて、開けなかった。開けなかったことが正しい判断なのか、ただの逃げなのか、凪にはわからない。わからないまま、モニターの前に立っている。


「会ってください」

 声が聞こえる。少し落ち着いてきている。泣き声が引いて、代わりに別のものが滲んでいる。切実さ。引き下がれない人間の声。


「一言でいいんです。娘に何が起きたか、わかってるんですか」


 凪は壁に背中をつける。背中の冷たさが、シャツを通して伝わってくる。


「うちの娘を返してください」


 その声が、壁を通して聞こえた気がした。インターホンのスピーカーからではなく、コンクリートの壁を貫いて、直接耳に届いた気がした。


 廊下に人の気配がある。振り返ると、奈々未が立っている。寝室から出てきたらしい。パジャマの上にカーディガンを羽織っている。凪を見ている。顔は穏やかだが、目の奥に何かがある。心配でも恐怖でもなく、ただ凪を見ている。


 凪は首を振る。奈々未は何も言わない。凪の隣に来て、壁に背を預ける。二人で壁に寄りかかっている。インターホンの音が止んだ。しばらくして、足音が遠ざかっていく。ヒールの音。コツ、コツ、コツ。だんだん小さくなる。


 女性が去っていく。雨の中を、傘を差して。娘の話を聞いてもらえないまま。


 凪はその場にしゃがみ込む。頭を抱える。両手で、頭を。膝の間に顔を埋める。


「大丈夫?」と奈々未が言う。

「大丈夫じゃない」と凪は言う。


 それだけ。奈々未は何も言わずに、凪の隣にしゃがむ。床が冷たい。四月の終わりだが、フローリングはまだ冷えている。二人で廊下の床にしゃがんで、しばらくそうしている。


 雨の音が窓から聞こえる。さっきまでと同じ雨。何も変わらない雨。でもその音が、さっきまでとは違って聞こえる。


 翌週、また来た。


 今度は男性。

 平日の夕方。凪が仕事から帰ってきた直後で、まだスーツを脱いでいないとき。インターホンが鳴る。モニターを見る。四十代くらいの男が立っている。スーツを着ている。ネクタイを締めている。仕事帰りに来たのだろうか。髪が少し乱れている。手ぶらに見えたが、よく見ると右手に小さな封筒を握っている。


「息子が死にました」


 インターホン越しに、声がする。静かな声。先週の女性とは違う。震えていない。感情的ではない。整えている。整えた上で、ここに来ている。準備して来た人間の声。


「高原製薬の薬を十年飲んでいました」

 凪はモニターの前に立ったまま、何も言えない。


「今年で三十二歳でした」


 三十二歳。凪とそう変わらない年齢。高原製薬の薬を十年飲んでいた。二十二歳の頃から飲み始めた。大学を出た頃。社会人になった頃。凪と同じように就職して、凪と同じように日常を送っていた人間が、十年間薬を飲み続けて、死んだ。


 その薬を作った会社の社長の息子が、今このモニターの前に立っている。


「謝罪でも弁明でも、何でもいいんです」

 男の声が続く。静か。落ち着いている。でもその落ち着きの奥に、ひび割れた部分がある。話しながら、ひび割れが少しずつ広がっていくのが、声の端に滲んでいる。


「ただ、顔を見て話したかった」


 凪はインターホンのボタンを押す。

「申し訳ありません」

 自分の声が、スピーカーを通して外に出ていく。


「私は息子で、直接の関係者ではありませんが、申し訳ないと思っています」

 言いながら、「直接の関係者ではない」という言葉の嘘くささに気づく。直接の関係者ではない。でも高原という苗字を持っている。高原製薬の株を持っていた。高原製薬の薬が人を殺したことと、凪の人生は繋がっている。「直接の関係者ではない」は、法的には正しいかもしれない。でも目の前の男にとっては、何の意味もない言葉。


「あなたのせいじゃないのはわかってる」

 男の声が返ってくる。その一言に、凪は少し驚く。


「でも、どこかに言わないと、私が壊れそうで」


 凪は何も言えない。


 どこかに言わないと壊れる。その感覚を、凪は理解できる。怒りや悲しみは、どこかに出さないと内側から自分を食い破る。この男は、その行き先を探してここに来た。凪を責めに来たのではない。凪に怒りをぶつけに来たのでもない。ただ、どこかに言いたかった。言わないと壊れるから。


 でも凪は、その言葉の受け皿になる資格があるのか。資格という言葉が適切かどうかもわからない。ただ、この男の声を聞いていると、自分がその場所にいることが正しいのかどうかわからなくなる。


「息子は、薬を信じていたんです」

 男の声が、初めて揺れる。


「高原製薬の薬なら大丈夫だって、ずっと言ってた」


 大丈夫。その言葉が、凪の中で反響する。母も「大丈夫」と言っていた。奈々未も「大丈夫」と言っていた。この男の息子も「大丈夫」と言っていた。大丈夫。大丈夫。みんなが「大丈夫」と言いながら、壊れていく。


「返してください」

 男の声が言う。


「返してくれとは言いません。でも、返してほしかった」


 返してくれとは言わない。でも返してほしかった。その二つの文の間にある距離が、凪にはわかる。返せないことはわかっている。わかっている上で、返してほしいと思っている。理屈と感情が、別の方向を向いている。理屈は「返せない」と言っている。感情は「返してほしい」と言っている。その両方が本物で、その両方が同時に存在している。


 男はそれだけ言って、去る。足音が遠ざかる。革靴の音。コツ、コツ。先週の女性よりも重い音。


 凪はインターホンの前に立ったまま、長い間動けなかった。


 奈々未が台所から顔を出す。「誰だったの」とは聞かない。凪の顔を見て、わかったのだろう。何も言わずに、また台所に戻る。


 しばらくして、コーヒーの匂いがしてきた。砂糖の瓶が開く音。スプーンがカップの中を回る音。


 奈々未が、凪の分のコーヒーを持ってくる。テーブルに置く。砂糖が入っている。

「飲んで」と奈々未は言う。

 凪はカップを手に取る。温かい。飲む。甘い。砂糖の甘さが、舌の上にじわりと広がる。


 味がする。

 先週は味がしなかった味噌汁。今日のコーヒーは、味がする。甘い。それだけのことが、少しだけ凪を支えている。


 その後も、散発的に人が来た。

 全員が静かだったわけではない。


 ある日の夕方、複数人が一度に来る。


 インターホンは鳴らなかった。最初に聞こえたのは、声。壁の向こうから来る声。外から来る声。何を言っているのか、最初は聞き取れない。距離がある。マンションの外壁と、部屋の壁と、窓ガラスを通して入ってくる声は、言葉の輪郭が溶けている。


 でもすぐにわかった。


「人殺し」


 その五文字だけが、はっきり聞こえる。他の言葉は潰れているのに、この五文字だけが、壁を貫通してくる。


「返せ」

 別の声。女の声。高い声。


「兄貴を返せ」

 また別の声。男の声。太い声。


 凪は部屋の奥にいた。リビングのソファに座って、本を読もうとしていた。読めていなかったが、開いてはいた。その本を閉じる。声が続いている。一人ではない。複数人。二人か、三人か。声が重なっているから、正確にはわからない。


 奈々未は寝室にいた。横になっていた。お腹が大きくなってきて、午後は体を休めることが多い。


 凪は立ち上がる。寝室へ向かう。ドアを開ける。奈々未はベッドの上に座っている。目が開いている。起きていた。声が聞こえて、起きたのだろう。


「聞こえてる?」と凪は聞く。

「聞こえてる」と奈々未は言う。


 声は静か。平坦。いつもの奈々未の受け答え。でも右手が、左手の薬指をゆっくりなぞっている。考えごとをするときの癖。不安なときの癖。


 凪は寝室に入って、ドアを閉める。外の声が少し遠くなる。でも消えない。壁を通して、まだ入ってくる。


「人殺しの家族が」

 言葉の断片が聞こえる。


「恥を知れ」

 また別の声。


 凪は窓から離れた場所に立つ。奈々未のベッドの横。奈々未はお腹に手を当てている。その手を見て、凪は胸の奥が締まる感覚を覚える。お腹の子に、この声が届いているのかどうかわからない。医学的にはまだ外の音を聞き分ける段階ではないかもしれない。でも奈々未は、無意識にお腹を守るように手を置いている。


「怖い?」と凪は聞く。

「怖くはない」と奈々未は言う。


 その言葉の出し方が、凪には気にかかる。怖くはない、と言ったとき、奈々未の声は本当に怖がっていなかった。嘘ではないと思う。奈々未は嘘がつけない人間だ。怖くないなら、何を感じているのか。


「ただ」と奈々未が続ける。

「ただ?」


「あの人たちの気持ちが、わかる気がして」


 凪は黙る。


「家族を失うって、どういうことか」

 奈々未は窓の方を見ている。カーテン越しの窓。外は見えない。でも声は聞こえている。


「私は最初から家族がいなかったから、失う経験はないけど」

 その言葉が、奈々未の口からさらりと出る。さらりと出るのは、事実だから。奈々未にとっては、家族がいなかったことは事実であって、悲劇のエピソードではない。それが奈々未の普通。


「でも、いたはずの人がいなくなる怖さは、想像できる」


 外からまだ声が聞こえている。少し収まってきている。怒鳴り声の勢いが落ちている。人間の怒りには持続時間がある。最初の爆発が過ぎると、徐々に声が小さくなる。


「あの人たちは間違ってない」と凪は言う。

 口に出して初めて、自分がそう思っていることを確認する。あの人たちは間違っていない。家族を殺された怒り。それを加害者の家族にぶつけること。方法としては問題があるかもしれない。でも感情としては、間違っていない。


「うん」と奈々未は頷く。「あなたも間違ってない」


 あなたも間違ってない。

 その言葉が、凪の中に深く沈む。


 あの人たちは間違っていない。凪も間違っていない。両方が間違っていないのに、こうなっている。間違っていない人間同士が、壁一枚を隔てて、片方は怒鳴り、片方は耳を塞いでいる。


 二人で、声が止むまで寝室にいた。

 十五分ほどかかった。最後の声が聞こえなくなってから、さらに五分ほど待った。凪がリビングに戻って、窓のカーテンの隙間から外を確認する。人はもういなかった。雨が降り始めている。さっきまで晴れていたのに。


 奈々未が寝室から出てくる。「行った?」と聞く。

「行った」と凪は答える。


 二人でリビングに座る。テレビはつけない。しばらく無言でいる。雨の音だけが聞こえる。


 奈々未が「お茶、淹れようか」と言う。

 凪は「うん」と言う。


 奈々未が台所に立つ。やかんに水を入れる音。ガスに火をつける音。小さな音の連続。日常の音。さっきまでの怒鳴り声と、やかんの水の音が、同じ空間の中にあった。あの怒鳴り声がこの空間を通過して、今はやかんの音に戻っている。


 でも通過した跡は残る。壁に染みが残るように。見えないけれど、確かに残っている。


 怒鳴り声が来た日の夜、凪は父に電話する。


 父は出た。珍しいことだった。この数週間、凪からの電話に誠一郎が出ることは五回に一回もなかった。弁護士との協議、行政との対応、被害者団体との交渉。誠一郎の一日は全部そこに注がれていて、電話に出る余裕がない日がほとんど。


「遺族が来た」と凪は言う。「怒鳴っていった」

「そうか」と父は言う。


 短い。それだけ。いつもの父の応答。でもその「そうか」の中に、驚きはない。予想していたのだろう。自分のところにも来ているのかもしれない。聞かなかった。聞いても、父は答えないだろうと思った。


「どうすればいい」

 口に出してから、自分の声が子どものように聞こえた。どうすればいい。小学生の頃、何か困ったことがあったとき、母に聞いていた言い方。大人になった凪の口から、同じ言葉が出る。


「どうもできない」と父は言う。


 その言葉が、電話越しに、乾いた音で届く。


「受け取るしかない」


「受け取るって」


「怒りを、だ」

 父の声は静か。疲れてはいるが、折れてはいない。まだ立っている人間の声。ぎりぎりで立っている声。


「逃げることも、言い返すことも、俺たちにはできない。ただ受け取ることしかできない」


 凪は黙る。受け取る。怒りを受け取る。何も言わず、何もせず、ただそこに立って、ぶつけられるものを受ける。そういうことを父は言っている。


「お前には関係のないことだ」と父は続ける。「お前のところへ来るのは筋違いだ。だが、それを言っても何も変わらない」


「わかってる」


 わかっている。筋違いだと言ったところで、怒りは消えない。怒りには行き先が必要で、行き先がなければ近くにいる同じ名前の人間に向かう。それは自然なことだと、凪にも理解できる。理解できることと、耐えられることは、別だが。


「奈々未さんは大丈夫か」と父が聞く。

「大丈夫だ」と凪は答える。


 大丈夫。また大丈夫と言っている。この言葉が、高原家の口癖になりつつある。誰も大丈夫ではないのに、全員が大丈夫だと言っている。


 少し間がある。電話の向こうで、父の呼吸が聞こえる。深い呼吸。吸って、長く吐く。


「すまない」と父は言う。


 この一言が、この頃の父の口癖になっている。以前の誠一郎は謝らない人間だった。間違えたとき、言葉ではなく行動で返す人間だった。あの日曜日の公園のように。通知表を見に帰ってきたように。行動で示す男だった。


 でも今の誠一郎には、行動で返せるものが何もない。凪の人生を元に戻すことはできない。奈々未を安全な場所に移すことも、報道陣を追い払うことも、遺族の怒りを鎮めることもできない。だから言葉で謝っている。行動では返せないから、言葉で返している。それが父にとって、どれほど不本意なことか。凪にはわかる。


「いい」と凪は言う。

 この一言が、この頃の凪の口癖になっている。「すまない」に対する「いい」。父と息子の間で、同じやりとりが繰り返されている。すまない、いい。すまない、いい。壊れたレコードのように。


 電話を切って、凪は天井を見る。


 受け取るしかない。

 父の言葉が頭に残る。


 受け取るしかない怒りが、これからも来るのだろうと思う。明日も。来週も。来月も。遺族の怒りは消えない。消えるわけがない。家族を失った怒りは、時間が経てば薄れるかもしれないが、消えることはない。その怒りの一部が、凪のもとに届き続ける。


 それは正しいことだと、凪は思う。

 正しいことだと思いながら、正しいことに耐え続けることの重さを、凪はこの夜初めて実感する。


 正しい怒り。正当な批判。当然の感情。全部、正しい。正しいから反論できない。正しいから逃げられない。正しいから、ただ受け取るしかない。


 でも正しいものに潰されるとき、人間はどうすればいい。

 正しいものに押し潰されて壊れることは、許されるのか。正しくないものに壊されるなら、抗議できる。助けを求められる。でも正しいものに壊されるとき、誰に助けを求めればいい。


 凪にはわからない。


 奈々未が隣に来る。何も言わない。ただ隣に座る。凪の手に、自分の手を重ねる。温かい。妊娠してから、奈々未の手は少し温かくなった。体温が上がっているのだと、産院で聞いた。


 凪はその手を握る。握りながら、考える。


 あの女性は、娘が薬を飲んでいたと言っていた。

 あの男性は、息子を返してほしいと言っていた。

 今日来た人たちは、人殺しだと言っていた。


 全部、正しい。

 全部、正しいのに、凪はここにいて、奈々未の手を握っている。


 奈々未が「寝よう」と言う。

 凪は「うん」と言う。


 寝室に入る。布団に入る。電気を消す。暗い部屋の中で、奈々未の呼吸が聞こえる。すぐに寝息に変わる。妊娠中の体は疲れやすい。


 凪は眠れない。天井を見ている。暗い天井。何も見えない。


 受け取るしかない、と父は言った。

 あなたも間違ってない、と奈々未は言った。


 二つの言葉が、頭の中で交互に来る。


 受け取るしかない。

 間違ってない。


 受け取るしかない。

 間違ってない。


 両方が本当なのだろう。受け取るしかないし、凪は間違ってもいない。間違っていないのに受け取らなければならない。その構造が、凪をじわじわと削っている。水滴が石を穿つように。一滴では何も変わらない。でも続けば、穴が開く。


 いつか穴が開くのか。

 開いたとき、自分はどうなるのか。


 考えながら、いつの間にか眠っていた。

 夢は見なかった。

明日も20時に投稿します。

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