026 『検索』とは
「サチも自分の力を知る必要があるわ」
エピソード018でクロエが歌っています。聴いてね!
https://www.youtube.com/watch?v=WN2IvDfrpPU
サチは安心して眠ってしまった。
私としては、最後の言葉「サーチ(検索)ができない」に衝撃を受け、その意味を色々聞きたかったが……添い寝をしてあげた夜以外全く眠れていなかったとすれば、
サチの安眠を妨げることはできなかった。
翌朝となれば、私は朝の日課をこなして魔法院へ行かなければならない。
サチとは、また夜一緒に寝ることを約束して別れるしかなかった。
一限が終わった際、
猫の首に鈴をつけるネズミのような面持ちでバルに問いかけた。
「バルディーニ先生、ちょっと、お尋ねしたいことがあるのですが……」
「なんだ」
「私が孤児院で目覚めるまでの記憶がなく、常識に欠けることがあるのをお許しください」
(謙虚にいくんだよ。サチにとって重大なことなんだから!)
「ふむ」
「この世界に、魔法体系とは別の、例えば剣技を補強する詠唱、言い換えれば『スキル』のような技術体系は存在しますか?」
「…………
武術や格闘術、あるいは鍛冶、建築や農作業など、それぞれの仕事に携わり、日々工夫を重ねていれば当然その技術は向上するが……
お前の質問で想定されているような、魔法詠唱の代わりに発現する、『スキル』と呼ばれるような技術体系は存在しないか、発明あるいは発見されていない。」
「そうでしたか、お答え頂きありがとうございます」
私は深々とお辞儀をした。
バルは教師控え室に去って行った。
ふぅっ
私は緊張を解くと、少し考えを整理した。
いまのところ、
・この世界にはスキルは存在しない
・ステータスやレベルアップといった、ゲーム的な仕様もない
・神話上の神、魔法体系上の神、あるいは宗教上の神は存在するが、対面し実在を確認できる存在としては存在しない
・魔法、魔法体系はあるが、これについては私としては一定の留保をつけたい
こんなところだろうか。
しかし、サチには「検索する」という謎の技能?がある。
それは、まるで前世における「検索エンジン」か「Wikipedia」のように感じられるものである。
(魔法やスキルと言うより超能力といった方が正しいのかもしれない)
なら、スキルを除いた部分は昔の私と同じだ。
この世界に放り出された天涯孤独の子供に過ぎない。
サチを安心させることができるのは、私だけかもしれないな。
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二限目の魔法技術講義。
バル
「本日は演習を継続する。
属性宣言、信仰宣言、魔力宣言を覚え込むことに留意しろ。
マナ基礎値の低域を体感したところで演習を中止し教壇に来い。
本日はクロエの実習を兼ね、マナ値測定後にクロエから他のものにマナ譲渡を実施する。
以上、開始せよ」
「「「「はい!」」」」
……
……
……
「ふむ。アーサーは2回、マリィは4回、ルーカスは4回。
マナ値の消費量も前日と変化なし。」
(私は?)
バルは私を見て、
「短期間で測定しても測定誤差内となるため、お前は授業の最後に計測する」
「ではクロエは他の三人にトランスファーを行え」
「はい」
いきます。
マリィに向き合い、
『風よ……マナ譲渡を実行・対象マリィ、トランスファー』
そして、マリィと握手っ と!
前日同様、私から生まれた光がマリィの手の中に吸い込まれていく……
「ほわぁぁぁぁ………………きもちいい……」
マリィは露天風呂に入ったおばさんのように、表情をとろけさせた。
(うそ? そんなに気持ちいいの?)
……
ルーカス 「んー マナが充填されるのが体感できますね」普通の反応だ。
アーサー 「へへ、女と手つないじまったぜ~」ませガキの反応だ!
……
バル「……ふむ
マナ譲渡に個体差が認められるな……
アーサー、ルーカス、マリィの三名は、先ほどの演習を同数こなせ。
その後、瞑想して待機すること。
クロエ、お前は私についてこい」
そう言って風魔法の小教室を出た。
隣の土魔法教室のドアをノックする。
「はい」
土魔法の先生は女性のシャンタル先生というそうだ。
「バルディーニだ。朝説明した生徒を連れてきた。
初回の発語訓練は終了したか?」
「はい、みな瞑想中です」
「わかった。では瞑想を中止させろ。トランスファーを実施する」
(バルすげー、年上の同僚教師にも命令口調だよ)
土魔法コースは男子生徒7名、女子生徒6名の13名だ。
ただし、クララが水魔法コースの授業を前倒しできればこちらの授業にも出ることになる。
バル「この生徒が皆にマナ譲渡の魔法を行う。
列を作って並べ」
マナが減った状態のため、みんなけだるそうに私の前に並ぶ。
バル「始めろ」
「お名前教えて?」
「ノエミよ」
では
『風よ……マナ譲渡を実行・対象ノエミ、トランスファー』
そして、ノエミと握手っ と!
「ふぅー」気持ちよさげだ
「お名前教えて?」
「ジャンヌよ」
では……「ふぅー」気持ちいいみたい
「お名前教えて?」「ふぅー」
「お名前教えて?」「ふぅー」
「お名前教えて?」「ふぅー」
「お名前教えて?」「ふぅー」
次は男子か……
先ほどのアーサーの様子を思い出し、男子は少しぞんざいになった。
手をつなぐのもいやなので、指先ちょんのバル方式で行く
全員やりきったよ。
シャンタル先生 「あ、あなた、なんともないの?」
「はい」
聴講生だったから、私は初日のマナ測定をやってない。
私はパオロ先生がトラブルを回避したんじゃないかと思っている。
私としてもトラブルは嫌なので問題ない。
でも、バルとパオロ先生以外は私の変さは知らないのだ。
バルは平然と 「では失礼する」と私を連れて風魔法の教室に帰っていった。
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昼休み
「…………というわけで今日のクロエ行動録は内容が薄いのよ!
今日はつまらないよね!」
マリィが『今日のクロエレポート』を語ってる。
マリィちゃん、官吏よりジャーナリスト向きなんじゃない?
クララ 「そうですか…………クロエちゃん、土魔法教室で変なことしてませんよね?」
私 「もちろん!」
アンヌ 「じゃあ、明日は火か水だな!火だったら楽しめそう~」
いや、わたし巡回興行師みたいじゃない?
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夜の礼拝後、孤児院の食堂で一人食事を分けてもらう。
その後、女の子部屋にサチを訪ねる。
「オフェリー、サチの様子はどう?」
「昼間はわりと普通だよ。
ちょっとお話は変だけど」
誰かがサチに声をかけると、サチはその言葉を繰り返すだけなのだそうだ。
「でも、指さしたり、真似してっていえば、そのとおりやるから、
シスターも怒らなくなったよ」
うーん、とりあえず
「オフェリー、ありがとう。
今夜も私の部屋でサチを寝かすね」
部屋の子たちにおやすみをいい、サチを神殿の私の部屋へ連れて行った。
きょうはサチとお話できるかな?
まずは……
「さちって名前じゃなくって、あなたの『スキル』だったの?」
「『コマンド』だった。
でも、今は『なまえ』」
コマンド?
「クロエが『なまえ』をくれた」
「私の勘違いだったのね。もしかして、良くなかったかな?」
ふるふる
「よかった」
「わたしは『なまえ』がなかった
わたしがはじめてもらったもの」
そう
「『検索』ってまえにやって見せてくれたよね?」
こく
「『検索』のあとに『ワード』をつける」
なんか、プログラムみたいだけど…………
「今までに、「ジト目」「アミラーゼ」あとは……「リケジョ」を検索してくれたね?」
こく
「検索した結果は、サチにはわからない言葉なの?」
こく
そうか。
私は「宇宙人のインターフェース」的な「なにか」を想像していたが、これは「イタコ」とか、「口寄せ」に近いのかもしれない。
あるいは「自動書記」か。
特徴は、口述された内容、記述された文章に対して、本人が関与していないところだろう。
「サチ、『検索』して、「魔法」を」
サチは眠たげな目を見開き、おもむろに、
【魔法は、超科学的かつ仮定上の神秘的な作用を介して
不思議のわざを為す営みを概括する用語である。魔術
とも。人類学や宗教学の用語では呪術という。宗教人
類学の分野では呪術が定着している。一方、思想史や
西洋史の文脈では魔術の語が用いられることが多い。
魔術は西洋神秘思想のーー】
もがっ
「はい、ストップ!」
検索ができて嬉しいのか、小鼻が少し膨らんでいる。
「サチ。私の言うことをよく聞いて。
私は今、魔法院で魔法の勉強をしているの。
サチのこの『検索』と言う力がなんなのか、よくわからないけれど、
サチも自分の力を知る必要があるわ」
サチはじっと私をみている。
「だから練習です。
次に検索するとき、サチは話すことはお口に任せて、
自分の声を自分の耳で聞いて欲しいの。」
「自分の言葉を自分が聞いてわかったら、
そのわかったことを私に話してくれるかな?」
不安そうに小さく肯く。
「じゃあ、もう一度やるよ!
『検索』して、「魔法」を」
【魔法は、超科学的かつ仮定上の神秘的な作用をーーーー
「はい、私に教えて。魔法ってなに?」
「まほうは、すごく勉強しても、よくわからない、不思議なもの」
「そうなのね。それで?」
「あとはわからない」
でも、サチは少し嬉しそうだった。
「じゃあ、もう一度やるよ!
『検索』して、「魔法」を」
【魔法は、超―――】
そのような言葉遊びを二人でずっと続けた。
サチはこれまでとは違う様子で、でも、とても落ち着いてくれたようだった。
眠る時間が訪れると、
私の腕を抱き、「あったかい、とは、温度が高いこと。しかし、温度以外、を示すことがある」
そんなトレーニングの成果を話してくれた。
サチ、おやすみ。
このお話を読んで頂いた方へ
つたない物語にお付き合い頂き、誠にありがとうございます。
厚かましいことですが、皆様にもブクマや評価をお願いしてもよろしいでしょうか?よろしくお願いします。(_ _)




