023 サチ
「何にも食べないんだよ!」
エピソード018でクロエが歌っています。聴いてね!
https://www.youtube.com/watch?v=WN2IvDfrpPU
入学日前日と当日の今日夕刻まで、私は孤児院の様子を見る時間がなかった。
それで、ネロに任せっきりだったのだが……
「何にも食べないんだよ!」
え?
たしか……一昨日の夕食後に孤児院にやってきて……
あれ?そう言えば、引っ越しやら入学初日やらで、みんなと一緒の時間にごはん食べてない。
「もしかして、ここに来てからずっと?」
「うん、
それに、奉仕の時間もお掃除しないし、食事の片付けも洗濯もしないんだよ!」
「ほんと?」
「そうだよ!シスターもすっごい怒ってるんだよ!」
「うわー それでサチは何してるの?」
「なんにも」
「部屋のすみっこでぼんやりしている……」
たしかに、ここに来たときも普通の反応じゃなかったけど。
「とりあえずサチのところに行こっか。いまどこ?」
「お庭の隅っこか、部屋の隅っこかも」
庭の隅っこにいた。
「サチ……」
彼女は、孤児院と聖堂の間にある空き地-みんなが「庭」と言っている何もない空間-の片隅に、ただ立ち尽くしていた。
目は半眼、全くの無表情……
(リアルジト目ちゃんだ……)
ついつぶやいてしまうと、
彼女は私をまっすぐ向いて、「さ、ち、『ジト目』」と反芻し、おもむろに、
【ジト目とは、漫画・アニメなどにおける表現手法
である。現代ではキャラクターの軽蔑や呆れた感
情を表現するために、目を下半月などの形状に描
くことがしばしばおこなわれており、この目をジ
ト目という。発祥:「ジト目」は古くからある日
本語ではなく、俗語である。負の感情で相手を見
つめるときの「じとーっ」あるいは「じーっ」と
いった擬声語が語源になって生まれたと考えられ
ている。女性向けファッション雑誌によれば、こ
の言葉は1970年代後半から小説や映画ー】!!
もが!
な、なんじゃー!!
びっくりして彼女の口を塞いだ!
恐る恐る……
「ジト目なんてマイナーな言葉、よく知ってるね?」
サチは首をかしげると、
「『ジト目』って何?」
「え? 今あなたが詳しく教えてくれたじゃない?」
サチはハテナ顔だ……
ネロが口を挟む
「ぼく、どうしていいかわかんないよ~」
ネロは素直でいい子だ。
私、アンヌ、クララが孤児院を出た後、年長は2歳下のネロ一人となる。
2年前の流行病以降、孤児は増えていない。今は徐々に孤児の人数が減っているところだ。
――そんな中、ネロはとても気を張っていた。
「クララおねえちゃんがいなくなったら、ぼくがみんなの面倒をみなきゃならないんだ。」
私がいるよと言うと、首を振り、
「ぼくがクロエおねえちゃんのフォローもしなきゃいけないんだ……」と暗い顔をされたことがあった。
(おいい!)
「サチちゃんまで問題児なんて……」絶望している。
私はネロの肩に手を置いて、
「大丈夫!」ととりあえずサムズアップをしたところ、
「クララおねえちゃん……帰ってきて」と首を振られてしまった。
ネロのクララへの信頼が高すぎる件について!
とりあえずごはんだ!
私はサチの手を取ると、厨房に連れて行き、黒パンを一切れ手に入れた。
まだ夕食の時間には早いけど、とりあえず聞いてみる。
「サチ、おとといから何も食べてないんでしょ?
少しでいいから、パン食べてみる?」
サチは手渡されたパンをどうしていいかわからない様子だった。
「パンを」黒パンを指さす。
「口にいれて」サチの口を指さす。
「噛む」自分の口をカチカチさせてみる。
するとサチは、
パンを口に入れようとして大きすぎることに気がつき、
私が歯をカチカチしたことを思い出したのか、少しかじって飲み込もうとした。
えろえろえろ! 口から吐き出した。
私は心を鬼にし、
「食べなきゃだめ!」他に食べる物ないんだから!
「だめ?」
「すぐに飲み込まず、口の中で50回噛んでみて。柔らかくなるし、ちょっとだけ甘くなるよ。」
そう励ましてみる。
サチは言われたとおりにした。
「サチ、アミラーゼって酵素で食べやすくなるんだよ。」こんなこと言ってもわからないか……
ところがサチは目を瞠ると、何か喋ろうとし、
口の中の黒パンが邪魔なのか急いで飲み下すと、
【『アミラーゼ』とは、膵液や唾液に含まれる消化
酵素。グリコシド結合をー】!!
もが!
またかー!!
彼女の口を塞いで、恐る恐る……
「アミラーゼにも詳しいんだね。もしかしてサチって『リケジョ』?」
【『リケジョ』とは、ー】!!
もが!
今度は素早くとめたよ。
今大事なことは、ウィキじゃなくこの子にごはんを食べさせることだ。
夕食時に、サチの隣で新首脳会議を開催した。
私と、ネロと、ネロの一つ年下の女の子オフェリーも召喚した。
ネロだと女の子部屋のフォローが難しいからね。
「サチと話してみてわかったよ。この子は赤ちゃんだと思ったらいいと思う。」
ネロ「えーー」
オフェリーは、すぐ飲み込んだ。
「わかった。体は大きくても中身は赤ちゃんなのね。
それなら大丈夫。小さいこのお世話は慣れているわ。」
おぉ、こういうことは女の子の方が話が早い。
「言葉をおぼえ始めた赤ちゃんだと思って、はっきり、一つ一つの言葉を伝えればわかるみたいだよ?」
「うん、大丈夫!」
「あと、変な言葉をいきなりしゃべり出したら、口を「もがって」やれば大丈夫!」
オフェリー、サンキュー!
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夜
私 「サチ、夜眠れていないの?」
サチ 「目を閉じる。意識失う。生命終了……」
私はソフィさんのことを思った。
「私が一緒に寝てあげるから大丈夫。命は終わらないよ」
サチの隣で横になる。
「ほら、私の腕に手を回して」
サチは言われたとおりにする。
「頭をなでてあげるから、目を閉じなさい」
サチは言われたとおりにする。
「おやすみ、サチ」




