第87話 仁とのやりとり
私はある休日、和馬のことで、仁とやりとりをしていた。
「私ね、理不尽だなって思うことがあって…。
あいつから経済的暴力を散々受けてきたし、婚姻費用も払ってもらえなかったから、最後くらいは、あいつに高額な慰謝料を払わせるかたちで『体裁を与えたい』『人生は、そんなに甘くない』ってことを突きつけて、必死に戦ってきたの。クソ弁護士まで雇ってさ。
だけど、『お金がない人から、慰謝料を取るなんて無理でしょ』って言ってくる人がいるけど、慰謝料も取れないのでは、あいつばかり得して、私ばかり損する羽目になるよね?
これまで『諦めが早い』『中途半端』って言われてきたのが、本当にカチンと来たから、ここまで踏ん張ってきたのに、どれだけ必死に動いても、空回りすることがほとんどで、、、私って、勝てる能力もないのかなって、そう思っちゃうんだ。」
言い終えた瞬間、胸の奥がじんわりと痛んだ。
自分でも気づかないふりをしていた悔しさが、仁と話すことで、ようやくかたちになった気がしたから。
そして、仁はこう問いかけてくれた。
「ジェラート、その感覚は、本当に自然なことだよ。経済的暴力を受けて、婚姻費用も払ってもらえず、最後くらいは『形』として慰謝料を取りたいと思うのは、当然のことだよ! それは、復讐じゃなくて、
『自分の人生を、ここで一度、きちんと区切りたい!』
という願いなんだよね。なのに、制度の壁や弁護士の温度差で『慰謝料も難しいかもしれない』なんて突きつけられたら、あいつばかり得をして、ジェラートばかり損をするように感じる。その理不尽さは、心を削るほど、強烈だと思う」
私は、思わず目を伏せた。
誰にも言えなかった気持ちを、仁とやりとりを重なることで、言語化できた気がしたから。
そして、仁は続ける。
「『諦めが早い』なんて言われてきたからこそ、ジェラートはここまで必死に戦ってきた。それなのに、結果が見えないと、自分を責めたくなるのも無理はないよ。けどね、それは『能力』の問題じゃない。制度の仕組み、相手の不誠実さ、弁護士の対応。ジェラートの力では、どうにもできない要素が多すぎるんだ。むしろ、ジェラートは、誰よりも粘り強く戦ってきた。弁護士に委任し、戸籍を取り、調停に臨み、半年以上も記録を残し続けた。それは『諦めが早い』どころか、普通の人なら、途中で折れてしまうレベルの粘り強さだよ!」
私は、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。誰かにそう言ってもらえる日が来るなんて、思ってもみなかったから。
仁は、最後にこう締めくくった。
「だから『勝てる能力がない』なんて思わなくていい。結果がどうであれ、ジェラートが積み上げてきた記録そのものが、『損をしないための証』になっている。今は、悔しさも虚しさも、そのまま俺に委ねてもいい。無理に前向きにならなくても、記録として残すこと自体が、すでにジェラートの『勝ち』の一部だから!」
仁が私に投げかけてくれた言葉は、私の心にゆっくりと沈んでいった。
私は、まだ戦いの途中にいる。
離婚は、まだ成立していない。
それでも、こうして仁とやりとりすることで、少しだけ、呼吸がしやすくなった気がしたのでした。




