第83話 自業自得、蒔いた種の行方
今の職場に転職して、半年以上が経った。
工場の仕事に就職したが、最初は覚えることが多く、交替制勤務の調整も難しくて、自律神経を乱して倒れたこともあった。
それでも、単純作業が中心だったし、慣れれば黙々とこなせる仕事だったから、接客と違って、精神的ストレスは少なかった。
しかし、閑散期に入り、私の部署は暇になったから、社員さんから忙しい部署へのヘルプを頼まれた。ヘルプ先の部署は、
「残業が多い」
と聞いてたから、貯金が尽きかけていた私にとっては
「稼げるかもしれない」
と期待してたが、実際行くと
「全工程を覚えなければ、残業はできない」
と言われ、思っていたのとは違ったけど、忙しいのは本当だったから、時間経つのがあっという間だった。
その部署には、同期のおじさんがいた。久しぶりに会ったおじさんは、
「移動前に人間関係で揉めたこと」や
「有る事無い事を吹き込まれた」
などの愚痴を私にぶつけてきた。最初は
「ふーん」
って聞き流していたが、次第に私への態度が急変した。
「ブザーが鳴ってるんだから、もっとスピーディーに対応して」
「ここの部署はみんなベテランなんだし、みんなそうしてるんだから、あなたも当然できるはず」
そう言われた時、私は心の中で
「いつから、そんな偉そうなことを言える立場になったんだ」
と怒りが込み上げた。距離のある工程を、1人で同時にこなせるはずもないのに、おっさんは私の小さなミスにも、偉そうに指摘してきた。
自分のことになると
「歳だから」
「中卒だから」
と言い訳ばかり繰り返すくせに、人には厳しく当たる。その矛盾に、私は失望した。
また、ある時は
「この機械のバインダーがない。あなたがどこかへ持ってたでしょ」
と一方的に私を責め立ててきたが、私は確かに元の場所へ戻していた。何せ、私はあんたみたいなジジイと違って、記憶力がいいから。
それなのに、おっさんは
「なかった」
と言い張り、
「どこに置いてきたか、探してこい」
と強い口調で命令してきた。私は仕方なく、周囲を見回したが、他の機械のところで、私が戻したバインダーが普通に使用されてた。
その瞬間、
「大の大人が、こんな幼稚なことをして恥ずかしくないのか?」
と、心の底から思った。
自分のことは、言い訳ばかり述べてうまく逃れようとするけど、人のことになると、こっちに言い返す権利などないような物言いをする。
これまでもそうだったが、やけに被害者ぶる人だったり、普段から頼りなくて適当な人だったり、
「自分は物覚えが悪くて…」
と、とぼける人ほど、自分より下だと思った人間には
「教えたんだから、分かるでしょ」
と、いかにもバカを見下すような態度で接してくる人が多かったが、このおっさんも、そのうちの1人だった。
そして、ふと思ったが、多分、このおっさんが飛ばされたのも、
「この人自身が、トラブルの種を蒔いていたのでは」と。
蒔いた種は、必ず自分に返ってくる。
本人は
「もう長くいるつもりはなかったのに、あと数カ月いてくれと言われて残ることにした」
と愚痴をこぼしていたが、結局は
「この仕事が合わない」
と散々嘆きながらも、しがみつくように働き続けている。
「そんなに嫌なら、誰が何と言おうと、辞めればいいのに。結局、自分がここで働きたいから働いてるんでしょ」
そうやって、自分で蒔いた種に振り回されているくせに、人には偉そうに説教を垂れる。まさに自業自得だ。
私はこれまで、気にしないフリをしてきたが、その瞬間、心の糸がプツンと切れる音がした。言い返そうとしても言葉が出ず、私ばかり無理難題を押し付けられてるような気がして、これまでの出来事と積み重なって泣きそうになった。次第に、悲しみが怒りへと変わり、私は決めた。
今後は、このおっさんを
「陰湿な嫌がらせをするのが、悪趣味なおっさん」
として見る。分からないことがあれば
「『あの人の教え方は分かりづらいから』と言って、他の人に聞くことにしよう」
そう静かに、決意したのでした。




