第78話 裁判員との違和感
弁護士を解任しても、安心は続かなかった。
むしろ、次に待っていたのは、裁判所や裁判員とのやり取りという、また新たな壁だった。
前に電話で、裁判員の羽鳥さんと話した時のこと。
「相手の身元が判明しないと、裁判はできません」
そう言われた。
『公示送達』という制度があるはずなのに、
「自分で操作するか、調査会社に頼んで確認してください」
と突き放す言い方をしてきた。
これまで弁護士を通して、別居に至った経緯や、離婚を決意した理由を散々提出してきたのに、
「あなた、本当に把握していたの?」
「私がどれだけの資料を積み重ねてきたか、そのために、どれだけの時間と心を削ってきたか」
「これ以上に、何の証拠が必要って言うんですか?」
そう思い、私の苦労が理解されていないように感じた。
羽鳥さんの対応も、どこか他人事のようだった。
和馬とは別居してから連絡が途絶え、話し合いもできなければ、居場所も分からない。それを分かりやすく説明してたのに、この人には全然伝わってなくて、
「所在調査をしてくれ」
と指示されても、そんな費用はないし、自分で調査しても、どうせ効力がないんだから、やったところで無駄になるだけ。
「そこまで言うなら、あなたの自腹で調査費用を負担してよ。それもできないなら、一方的にこちらの負担を強いるようなことを言わないでくれる」
って言い返したくなった。
仮に一緒に住んでたところへ調査しに行っても、社宅だったから、別の人が住んでる可能性だってあるし、その証拠書類も一緒に提出してきたはずなのに、
「なぜこの人は、そんな二度手間なことを敢えてさせようとするのか?」
正直、納得できなかったし、ただマニュアルに沿って説明してるようにしか聞こえなかった。
「じゃあ私は、逃げ続ける相手を一生追いかけろってこと?」
「そもそも、自分の身の危険性だって潜んでるかもしれないのに、リスクを背負ってまで、相手と接触しろってことですか?」
そう追求したくなったし、考えれば考えるほど、頭が痛くなり、ますます心がすり減っていった。
自分で捜査できる余裕もなかったため、私は羽鳥さんに、取り下げの旨を伝え、費用の返還を求めたが、
「返還できても、半額しかお返しできない。法律で決まってるから」
と、最後の最後まで
「法律で決まってる」
と断言するような言い方をしてきて、
「この人は、どこまでも自分のことしか眼中になくて、無責任で、安易に『こうだから』と言われても説得力がないな」
そう感じたし、
「そもそもこの人、感覚ずれてるし、日本語すら通じてないのでは?」
とすら思った。
それに
「『法律で決まってる』って言われる度に、まるで、逃げてるようにしか聞こえなくて、じゃあ、そう断言するように言い切るなら、どの規定や運用に基づくものなのか? 私が納得できるよう、その根拠を分かりやすく説明しろよ」
とさえ思った。
後日、裁判所から取り下げ通知と裁判費用の返還を求める書面が送られてきたため、私は
「訴訟は未提起である以上、費用は実際に使用されていない。それなのに『半額を差し引いた金額を返還』と説明されるのは過大であり、合理性を欠いている。もし、事務手数料が必要なら、実費相当の少額に留めるべきです。半額という割合は不当である。もし担当者自身が、同じ立場に置かれたら、半分も差し引かれるのは理不尽だと感じるはずです。その想像力を持って、対応していただきたい」
そう記した。
「私たち依頼者は、人生を賭けて戦っている。それなのに、あんたらが無神経な対応をするから、泣き寝入りせざるを得ない人がどんどん増えていくんだよ。このままだと本当に、SOSを出している被害者たちが『助けて』って言えなくなるだろ」
そう訴えたい気分だったし、同時に
「何のために『弁護士』と名乗る人たちがいて、何のために『裁判』というものが存在してるのか?」
と、何度も不思議に思った。
制度の冷たさに押し潰されそうになりながらも、私は声を上げ続けた。それは、私自身のためでもあり、同じように苦しむ誰かのためでもあったのでした。




