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灯りの記録 〜見て見ぬフリをしてきた過去と向き合うために〜   作者: なかみね ひまり


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第77話 弁護士解任の決断


あのやり取りから数日後、江坂さんから電話がかかってきた。


「小島さんに指摘され、私も反省しました。新たに契約書を作成し、SNSで送りますので、それを見て、今後継続するかどうか検討してください」



そう言ったかと思えば、次の瞬間には、続けてこう言い放った。


「小島さんは、離婚が成立した後、報酬金を払ってくれる気あるんでしょうか?」


不安を煽るような言葉に、私は心底うんざりした。



さらに電話の中で、もし継続するなら、着手金を多めに支払うことを求められた。慰謝料について話を振ると、江坂さんは


「慰謝料は、裁判官の判断になります」


と濁すような言い方をしてきた。



私は強く思った。


「婚姻費用も請求できなかったんだから、せめて慰謝料は一括で支払ってもらうことが、最も望む解決だと。だからこそ、その中から着手金や報酬金を支払うつもりでいる。資金的に余裕がない今は、まず、慰謝料の確保を優先し、その後、責任を持って、費用を支払う流れで理解してほしい」


そう伝えた。



しかし、後日送られてきた確認書には、


• 今後は、着手金を多めに振り込むこと


• 離婚成立後は、慰謝料の有無に限らず、報酬金を一括で支払うこと


• 調査費用として、追加で1万円振り込むこと


と記されていた。私の希望は完全に無視され、むしろ、私の負担ばかりが増える内容だった。



その確認書を見て私は


「人の話、ちゃんと聞いてましたか?」


ってツッコミたくなった。



明らかに、自分が有利になるようなことしか書かれてなかったし、どうしても納得がいかなかった私は


「慰謝料が認定されなかった場合に、報酬金が発生するのは違和感です」


「慰謝料は、必ず一括で支払っていただきたい」


と、繰り返し主張した。



契約は信頼の上で成り立つもの。


「私の希望も、誠意を持って受け止めてほしい」


と訴えたが、江坂さんから返ってきたのは冷たい一言だった。


「報酬金を、当初の契約から変えて欲しいということになります。難しいです」


江坂さんとの信頼関係は、もうすでに破綻していた。依頼人を無碍にする態度に、私は心の奥で、何かが崩れる音を聞いた。


『この人は、権力を振り翳すために弁護士になったのか?』


そう思った瞬間、 私は静かに解任を決めた。


それは、影を断ち切り、自分の灯りを取り戻すための決断だった。



私は正式に、委任契約終了を通知した。


「私の都合による解約ではなく、信頼関係の破綻による正当な解任である」


そう明記し、報酬精算や未使用分の返金、証拠書類の返却を求めた。



江坂さんは


「支払い済み以外は請求しない」


という解約合意書を作成する方向を提示してきたが、面談を求められた。この時、私は遠方に住んでたため、


「以前も電話でお伝えした通り、今は遠方に住んでる為、江坂さんの事務所までの移動は困難だ」


と伝え、文書での説明を要請した。


というのも、もう江坂さんの顔も見たくなければ、話すのも億劫に感じるようになってたし、そもそも、依頼人を蔑ろにするような対応をしてくる人に対して、私もこれ以上、誠実に対応する必要もないと思ったからだ。



裁判も未提起であることから、本来は返金の対象になるはずなのに、


「訴訟提起済みであることは、何度も説明してるので、ご理解ください」


と押し通され、


「私の主張は、これまで散々無視し続けてきたくせに、自分の主張は、最後の最後まで押し通すんだ」


と思い、幻滅した。


きっと、江坂さんにとっては、着手金と報酬金さえ、払ってくれればそれで良くて、私が求めてた慰謝料への獲得は、所詮、裁判が決めることだから、慰謝料が回収できようが、できなかろうが、どうでも良かったんだろう。



振り返れば、江坂さんとのやり取りには、常にモヤモヤがつきまとっていた。返信が遅い、あるいは返信が返って来ないことが何度もあった。婚姻費用の調停では


「相手に払う余裕がないから不可能」


「場合によっては、あなたが払うことになる」


と言われ、初めて依頼した時には


「夫婦なんだから、割り切るしかない案件」


とまで言われた。



余計な一言を、なぜ、わざわざ投げつけるのか?


その度に、私は


「あなたはどっちの味方なんですか?」


と、心の中で叫びたくなる思いだった。



「解任する運命だったのなら、調停で不成立になった時点か、婚姻費用の請求が取り下げになった時点で、解任しておけば良かった」


と、心底後悔した。



それと同時に、江坂さんに対する怒りが湧いてきた。


「これくらいなら、書いていいだろう」


と思い、江坂さんの弁護士事務所の口コミ欄に、これまで言えなかった不満を記入した。



「江坂弁護士に、約1年依頼しましたが、私が得られたメリットは、何1つありませんでした。連絡が遅かったり、スルーされることが多く、説明も一貫性がなく、依頼者の希望に寄り添う姿勢は皆無。


婚姻費用の調停では『相手に払う余裕がないから不可能』『場合によっては、あなたが払うことになる』など、依頼者を突き放す発言ばかり。経済的暴力の案件で依頼しましたが、契約する時も『夫婦なんだから、割り切るしかない案件』と軽々しく言われました。


慰謝料についても、誠意ある対応は一切なく、依頼者の人生を守るために、尽力する姿勢は一切感じられませんでした。最終的には解任しましたが、このような弁護士は、世間的に訴えられてもおかしくないレベルだと思います」



怒りを込めて書いたその一文は、私にとって


「声を上げる最後の手段」


だった。もう2度と、依頼者を軽んじる弁護士に振り回されるわけにはいかない。


離婚できる日はまた遠のいたが、解任すると決めたことで、正直、心が楽になったような感覚もあった。



私はこれまで、和馬に精神的にも経済的にも、搾取され続けてきた。だから最後くらい、あいつにも同じ目に遭わせて、人生のお勉強をさせるべきだと。そう思うのは、自然なことだと思うし、このままでは、あいつばかり得をして、私ばかり損をするように思え、ますます惨めな気分になった。



けど、現実はそんなに甘くなくて、お金のない人物から慰謝料を取るのは、やはり難しいのかもしれないし、


「お金がない人から、慰謝料を請求しても、空振りになるだけだ」


って何度も言われたことがあった。そんな現実を突きつけられるたびに、私は


「こんな惨めな人生を送るために、生まれてきたのかな」


と思わざるを得なかった。



育った環境も悪く、結婚してからも不幸が付き纏うような人生。


まるで、生まれた時から、呪われていたかのように。


「私が家族を持つと、碌なことが起きない」


そう思い知らされた。



「お金がない人から、慰謝料を回収するのは無理だ」


ってほとんどの人が口揃えて言うけど、その度に


「お金がないのは、あくまでも相手の責任であって、私には全く関係ない話。このご時世、稼ぐ方法なら、いくらでもあるはず。そんなことを言われる度に、じゃあ私たち被害者は、泣き寝入りし続けろってことかよ」


そう問いただしたくなった。


散々理不尽な思いをさせられてきたのだから、最後くらいあいつに、体裁を加えないと、私の気が済まなかった。



だから、私は決めた。


「これからは弁護士を雇わずに、自分の力で、離婚できる方法を探していこう」


「慰謝料をもらえないなら、弁護士を雇う意味がないし、お金ばかりかかって、自分の負担が大きくなるだけ。それなら、自分でやった方が、負担も減るだろう」


と、心の中で、静かにそう誓ったのでした。


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