第69話 弁護士との温度差
仲居の仕事を辞めた後、弁護士とのやり取りは難航していた。
「調停で離婚が成立しなければ、裁判になる」
と言われていたが、いつ始まるのかは分からない。
その件について、江坂さんに質問すると、次のような返答が届いた。
「おそらく来月頃です。裁判用の書面を添付しますので、ご確認ください。自宅に委任状を送付しますので、返送をお願いします。日付は空欄で構いません。訴状の最初に記載があるように、印紙代として『16,000円』を収める必要があります。下記口座にお振込みください」
と、ご丁寧に振り込み先の銀行口座と訴状も一緒に送られてきた。そこには、私が離婚に至った原因が綴られており、この時は、私の主張に寄り添ってくれてるように思え、そう信じてた。
私は、送られてきた委任状にサインし、印紙代として『16,000円』を振り込んだ。そして再度、裁判の日程を尋ねると、
「ありがとうございます。委任状届き次第、手続き進めていきます。日程はまだですが、相手が裁判所類を受け取らない可能性が高く、来月よりは遅くなる見込みです。」
というメッセージが返ってきた。
「相手が書類を受け取らない限り、離婚は成立しないんでしょうか?」
そう思い、尋ねると、
「受け取らなくても、相手欠席のまま、判決で成立させることはできます。今回はそのパターンかもしれません。」
また、私がこだわってた慰謝料について質問すると、江坂さんは淡々と答えた。
「慰謝料は裁判所が認めるか次第です。相手が書類を受け取るかは関係ありません。」
という返信がきた。
だけど私は、それだけはどうしても妥協できなかったから、
「何度も言いますが、私はこれまで散々、経済的暴力を受けてきたし、婚姻費用も現時点で貰えてないので、最後くらいケジメとして、慰謝料を払ってほしい。できることなら倍で。じゃないと蟠りが残る一方です。精神的苦痛も負わされ、結構な金額を絞り取られたので、一括で請求したいです!」
本当は年内に離婚成立するのが理想だった。遅くても3年以内には、婚姻関係を解消したい。
しかし、江坂さんからの返答は冷静で、
「相手が住民票の住所に住んでいないため、始まるまでに時間がかかります。しばらくお待ちください。」
というメッセージが返ってきたが、前回の電話で話してたことと全く異なることを言われたから、私は焦燥感を抑えきれず、再び訴えた。
「年内に離婚を成立させたいです。婚姻費用ももらえていない以上、この関係を続ける理由はありません。不安に駆られる日々を、これ以上、過ごすのは限界があります。次に進むためにも、年内にケリをつけたいです!」
そして最後に、切実な願いを込め、
「進捗状況を、せめて週に一度くらい報告していただけると助かります。主張ばかりで申し訳ありませんが、『年内に離婚を成立させたい』という思いに変わりはありません。何卒よろしくお願いいたします。」
それから何のアクションもなく、1週間が過ぎ、私は再度メッセージを送った。
「おはようございます。現在の進捗状況を伺ってもよろしいでしょうか?」
返ってきたのは短い言葉だった。
「明日以降、お電話させてください。またご連絡いたします。」
そして後日、婚姻費用の件で江坂さんから電話がかかってきた。江坂さんの話によると、
「相手方の給料明細が届き、確認したところ、だいぶ少ないため、婚姻費用は取り下げざるを得ないように思います。比較すると、小島さんの方が少し多いので、小島さんが払うことになる」
その言葉を聞いた瞬間、私は心の中で叫んだ。
「あなたは、どっちの味方なんですか?」
さらに後日、相手方の源泉徴収票が届いた。確認すると、支払い金額の合計は、税金をギリギリ払わなくてもいいラインだった。
「アルバイトとはいえ、フルタイムで働いてるのに、『そんなはずがない』と私は疑った。この人は、本当に片っ端から調べてくれたんだろうか? 和馬のことだから、婚姻費用を払いたくなくて、わざと低い金額に設定するよう、職場に頼んだのではないか?」
とさえ思った。
それを見て、何もメリットを感じないと思った私は再度、
「婚姻費用を請求できないなら、この婚姻関係を続ける意味がありません。せめて慰謝料は請求したい。相手にも、それなりの天罰を与えるべきです!」
と送った。
この時から、エネルギーがすり減らされてるように感じ、心が折れそうになったが、私はめげずに、何度もメッセージを送り続けた。
「今後の流れをお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「裁判は何回に渡って行われる予定でしょうか?」
「慰謝料は300〜500万を一括で請求したいと考えてます!」
しかし、返答は途切れがちで、既読後も放置されることが続いた。婚姻費用の一件を境に、信頼関係は崩れ始め、弁護士との温度差は、決定的なものとなったのでした。




