第68話 スナックのママのような女将
「来月は休館日が多い」
と聞いてはいたが、面接時に質問しても、曖昧な返答しかなく、実際に就業が始まるまで、具体的な日程までは知らされていなかった。
教育の時は
「分からないことは、いつでも聞いて」
「ゆっくりでいいよ」
と、みんな口を揃えて言うのに、いざ現場に入ると
「こないだ教えたでしょ」
と冷たく突き放される。事前に休み希望も伝えてたはずなのに、共有すらされてなかったから、その度にモヤモヤが募った。
「あなたみたいに、ペースが遅い人は初めてだ」
と女将から嫌味を言われたが、私からすれば、
「こんなに受け入れ体制が悪く、バイトを無下にするような職場は初めてだった。女将は、今後もバイトを雇っては、自分のペースについて来られない人は、切り捨てていくのだろう」
と、何となくではあったが、そう思った。
退寮の際、宅急便の申し込みが一部しか通ってなく、事務所に伝票をもらいに行くと、顔を合わせたくない女将がいた。すると
「あなたここで働いて、散々迷惑をかけたのだから、お礼くらい言うべきでしょ」
と当然のように言われ、私は心底イラッとし、
「私の人生、舐めないでくれる? おばさん」
そう思った。
旅館やホテル関係の仕事は、
『待遇が良くない』
という理由から、次の日にはとんずらする人だって多い業界なのに、
「なぜ、私だけが非常識扱いされるのか?」
「むしろ、不愉快な思いをさせられたのは、私の方だ」
そう思った。
その場には、他の従業員もいたため、あえて言い返さなかったが、心の中では、この時、ハマって見てたあるドラマのヒロインになりきり、自問自答しながら、その瞬間を乗り越えた。
人間関係が原因で、精神的に辛い職場だったが、1人だけ救いとなる人がいた。寮の立ち会いをしてくれた年配の方が
「ここでの就業は大変でしたよね。バイトだとギャップを感じて辞めていく人も多いんですよ」
と気遣ってくれた。その言葉が嬉しく、短い間だったが、その人には
「ありがとうございました」
とお礼を伝えた。
出ていく時に、指導してくれた方にも遭遇したから、とりあえず挨拶はしたが、その人も内心では
「辞めてくれてせいぜいした」
と思っていたかもしれない。悪い人ではなかったが、せっかちな性格だったため、じっくり覚えたい私とは合わなかった。
ただ、この職場で働いて、改めて思った。
「私には接客という仕事は向いてない。人と接点の少ない裏方の仕事の方が、精神的に楽だ。今後は、もっと慎重に仕事を選んでいこう」
そう思った。
そして、最後に率直な感想を言えば、
「この女将は、まるでスナックのママのような雰囲気の人だな」
そう実感したのでした。




